BUMP OF CHICKENのニューシングルは、今夏ツアー中に生まれた疾走感溢れるナンバー
BUMP OF CHICKEN | 2012.09.12
7月に4年ぶりのアリーナ・ツアー『GOLD GLIDER TOUR』を終えたBUMP OF CHICKEN。昨年末から今年1月まで行われたライヴハウスツアー『GOOD GLIDER TOUR』も含めて、バンドが久しぶりに迎えた旅の季節は、やはりかけがえのない時間の連なりとなった。
そんな万感の思いとともに巡ったアリーナ・ツアーの最中に生まれたのが、通算23枚目のニューシングル「firefly」である。シングルのタイトル曲としては久々の疾走感に富んだアッパー・チューンとなった同曲。現在放送中のテレビドラマ『息もできない夏』(フジテレビ系火曜夜9時連続ドラマ)の主題歌としてオンエアされているので、既に耳にしたリスナーも多いだろう。
そして、ツアー後に制作された「ほんとのほんと」は、人と人の心と心が通じ合う尊さが、リリカルかつ過不足のない言葉とメロディとサウンドで編まれたバラード。毎度のことながら、カップリング曲ならではの豊かさを感じさせてくれる楽曲で、その味わい深さから彼らのシングル作品に寄せる気概が伝わってくる。
早速メンバー全員に、今作の話を訊いてみた。
- EMTG:「firefly」はアリーナツアー中に生まれた曲なんですよね。確かにサウンドの疾走感、演奏や歌のテンションからツアーでみなぎった熱を感じ取ることができる。
- 藤原:ツアー中に書いた曲なので、ライヴで感じたことが生理的に形になったんだと思うんですよね。全国のお客さんが見せてくれたいろんな表情は、僕にとってものすごい情報量だったから。彼らと一緒にライヴという空間を共有して、作り上げた経験がこの曲に繋がっていったんだと思いますね。ホントに曲作りって生理的なものなので、後付けの理由ではあるんですけど。今やりたいサウンド、今歌いたい言葉がこれだったっていう。ただ、ツアー中に書いた曲であることが何よりも雄弁な事実だとは思います。
- EMTG:歌詞は、衝動的に飛び出した「蛍みたいな欲望」が、いつしか「夢」を描いて、それこそがその人自身の「物語」と「光」を生んでいくという描写から始まります。やがて抗えない困難な現実に直面して、その人が「夢」を諦めなきゃいけない局面が訪れたことを厳しい視点で書いていて。でも、最後に掲げられているのは諦めてもなお消失しないその人の根源的な「光」であり、「物語」を続ける強さで。
- 藤原:「蛍みたいな欲望」の歌、それ以上でもそれ以下でもないと僕は思っているから、歌詞の捉え方は曲を聴いてくれる人それぞれであってほしいと思うんですけど。それはいつも通り、どの曲でも一貫してます。ただ、あえて踏み込んで言うなら……「夢は叶うよ」という言葉って、古くから言われていますよね。これって、実際には必ずしもそうならないからこそ生まれた言葉だと思うんです。誰かにその言葉を言われて励まされた人も、その人が困難な局面に立っているからこそ響いたはずで。それは僕が言うまでもなく、誰もが身を持って知っていることだと思います。
- EMTG:「firefly」の歌詞は、今その人がどう生きていて、その「夢」がどういう状態にあるのかという視点が貫かれているしね。だからこその厳しさがあって。
- 藤原:うん。欲望から生まれた大切な夢を、どうしても諦めなければいけなかった人たちがいる。道が閉ざされたら、切実な思いがあるほどその事実を受け入れるにはすごく時間がかかる。ただ、それでも勇気を出して諦めることは――歌詞には「黄金の覚悟」と書いていますけど――それはすごく輝きのある行為で。
- EMTG:それがこの曲の核心だと思う。
- 藤原:僕がそれを思ったときにこの歌ができたんです。誰かにエールを送りたいと思って書いたのではなくて、あくまで僕がそういう思いを抱いたから書いた歌なんですね。ただひとつ思うのは、上手く言えないんですけど、ツアーでお客さんと裸の付き合いができた感覚があって。僕はあなたたちのおかげでこの曲を書けたんだよって思いますね。
- EMTG:3人はどうですか?
- 直井:まず、僕らにとってはツアー中に藤原くんが曲を書いたことがいちばんのビッグニュースで。いままで一度もなかったことなので。ツアー中はメンバーみんなが感受性が豊かになっていたから、藤原くんからこの曲のデモを受け取ったときは、曲の疾走感も相まっていつも以上に歌詞の内容がダイレクトに響きました。そして、自分がライヴでこの曲を演奏している姿をハッキリとイメージできたんです。この曲をツアーでは披露しなかったんですけど、ライヴの光景をイメージできたことがすごくうれしかったし、歌詞に出てくる“光”をつかめたような感覚がありました。だから、ツアー中にこの曲のレコーディングをできたこともホントに幸せで。ライヴのモードそのままに、いい意味で前ノリな状態で録れたから。
- EMTG:ベースについては?
- 直井:デモの段階で藤原くんの弾いた良いベースラインが入っていたので、それを軸に自分がこうしたいと思ったニュアンスを取り入れていきました。サビのベースラインが印象的だと思うんですけど、実際に弾いていてすごく気持ち良いんですよ。ぜひみなさんにも弾いてほしいと思うくらい(笑)。
- EMTG:増川さんはどうですか?
- 増川:まずアッパーな曲調や歌詞の深さにツアーの空気感が反映されているなと思いました。チャマ(直井)が言うように、ライヴでプレイしている自分たちの姿をすぐイメージすることができて。ギターのプレイ面では、スリリングなアルペジオを弾いているといつの間にか熱くなっている自分がいるんです。細やかなプレイも要求される面もあるんですけど、どんどんエモーショナルな気分になっていく。この曲がリスナーにどう響くのか。僕らがまたいつかライヴをやるときにこの曲をどのように再現できるのか。今からすごく楽しみです。
- 升:藤原くんからデモをもらったときは、すごくカッコいい曲ができたなと思うと同時に、プレイヤーとしてビックリしたのを覚えてます。打ち込みのドラムが入ったデモの段階から、細かい部分までいろんなアプローチが施されていて。でも、それがただトリッキーになっているのではなく、曲のダイナミズムと有機的に結びついていたんですよね。この曲でドラムが果たしている役割はかなり大きいぞと思いましたね。それを受けて、自分ができることをしっかりやるという意識を持ってレコーディングに臨みました。デモのイメージを活かしながら、ダイナミックな曲にすることができた満足感があります。
- EMTG:カップリングの「ほんとのほんと」についても訊かせてください。人と人の心と心が通じ合う尊さが歌われたバラードで。アリーナツアーのアコースティックセクションを彷彿させる趣もあるんですけど、この曲を書いたのはツアー後ですか?
- 藤原:ツアー直後ですね。カップリングは、他にあるいくつかの未発表曲のどれかにしようかなとも思っていたんですけど。やっぱり「firefly」に対するカップリングの曲作りをちゃんとしたいなと思って。あとは、いくつかの未発表曲を「firefly」のカップリングとして考えたときにしっくりくるものがなかったんですね。それで、またスタジオに入って書きました。
- EMTG:この曲がアコースティック調なサウンドになった理由は?
- 藤原:やっぱりこれも生理的なものとしか言えないんですけど。アコースティックなアプローチをしようと思って作ったわけでもないですし、もっと豪勢なサウンドにしようと思えば全然できるんです。そうすることでドキドキもワクワクもするんですけど、それによって時には消えてしまう緊張感みたいなものもあって。この曲は、そういう緊張感を全面に押し出したアレンジをするべきだと僕は思ったんでしょうね。
- EMTG:コミュニケーションの本質を突いた歌詞だなと思う。
- 藤原:コミュニケーションのもどかしさというかね。言外にお互いの本音があって、それを伝えようとする感じ。聴く人によっていろんなパターンを想起すると思うんです。親子の歌って取る人もいるだろうし、恋人同士って取る人もいるだろうし、友達同士って取る人もいるだろうし。あるいは、僕らみたいなバンドメンバー同士とかね。
- EMTG:つまり、ひとりじゃ成立しない物語でもあって。
- 藤原:そうですね。だから、どういう関係でもいいんです。「僕」とも「君」とも「私」とも「あなた」とも言ってないから。誰でも、誰かを傷つける能力をちゃんと持っていて。何気なく発した言葉でもしっかり誰かのことを傷つけることがある。場合によっては相手を再起不能にまで追いやることができる言葉を、誰でも放つことができるじゃないですか。それは凶器を持って歩いてるようなもので。いつどんなタイミングでそれを使ってしまうかもわからない。自制が利かない場合もあるかもしれないし。
- EMTG:無自覚に使っているときもあるだろうし。
- 藤原:そう、あとはそこまでのつもりはなかったのにとか、あるいは本音を伝えようとして言葉を選び間違えてしまうとかね。規模の大小はあると思うんですけど、そういう事象はたくさんの人がいろんな局面で経験したことがあると思います。僕がこういう歌を歌いたいと思ったのは、世の中に対して思うことがあったのかもしれないし、身の回りで起こった出来事から起因しているのかもしれない。とにかく今歌いたかった言葉なんですね、これが。
- EMTG:最後に今後の活動の展望を。
- 藤原:この前スケジュールを確認したら、「藤原 曲作り スタジオ」って書いてあったので、僕は曲を作るんだと思います(笑)。
- 直井:まだ録り終わってない曲もあるしね。だから、僕ら3人はそこに向けてまっしぐらという感じです。
- 藤原:2、3年前に書いてまだ録ってない曲とかもあるんでね。
- 直井:一度録ったけど録り直す曲もあるし。
- EMTG:それらの曲はいずれシングルなり、アルバムに収録されると思うんですけど。藤原さんのなかで、その曲の連なりで構築するテーマやコンセプトのイメージってあるんですか?
- 藤原:う?ん、なくもないし、ない気もするんですけど(笑)。
- EMTG:あはははは(笑)。
- 藤原:「firefly」みたいに、ツアー中に曲を書きたいという思いから生まれて、それがドラマの主題歌になってリリースされるというような、そんな大きな物語は、はらんでいない曲をきっとこれからも書くと思うんですね。そういう目的がまだない曲がまた1曲、2曲と生まれてくるうちに何か見えてくるものがあるんじゃないかと思います。あとは、「COSMONAUT」に入らなかった曲も何曲かあって。それも何かしらの作品に入れたいと思っているんだけど、また入らないこともあるかもしれないな(笑)。だから、今はまだ何とも言えないですね。
【取材・文:三宅正一】
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