魅力満開! パスピエの1stフルアルバムは名曲満載

パスピエ | 2013.06.24

 ついにリリースされる1stフルアルバム『演出家出演』。パスピエの多彩な魅力が瑞々しく、時には妖しく煌めく全11曲。グルーヴィーなバンドアンサンブル、魔法のように表情豊かなメロディとビートを奏でる鍵盤、様々な世界へとリスナーを連れていく歌声と歌詞……鳴っている音色の全てが、胸躍るひと時を約束する。無数の物語、風景、メッセージを体感できる1枚だ。本作について大胡田なつき(Vo)と成田ハネダ(Key)が語る。

EMTG:いいアルバムですねえ。
成田:ありがとうございます(笑)。「ライブ感を出していきたい」っていうのがコンセプトの1つとしてありました。あと、シングルや配信を経てのアルバムは初めてなんですよ。そういう曲を軸にしつつパスピエのフィジカルな部分、生身でやっている感をどう出すか、そこを考えて作ったアルバムですね。
EMTG:サウンドに関しては、やっぱり鍵盤の存在が大きいと思います。かなりファンキーな曲であっても、鍵盤の音色やビートで彩られることで洗練された風味を帯びるのがパスピエ節だなと。例えば「S.S」「フィーバー」「△」とか。
成田:今挙げて頂いた3曲は特にバンド感が出ていると思います。やっぱり独特なんですかね? パスピエは「感覚のロック」っていうよりも「考えるロック」だと思っていて。頭の中で「こういうことやったらロックなんじゃないか?」とか考えたり、実体験よりも想像のロックみたいなところがあるんですよ。そこら辺が、ロック一直線でやってきたバンドとは違うところなのかも。
EMTG:こういうサウンドに多彩な切り口の歌詞が乗るんだから、パスピエを聴く楽しさは尽きないわけですよ。
大胡田:ありがとうございます(笑)。その曲が持っている世界を、わたしなりに表現しているんです。曲に合った声音、言葉とかを探しながら。
EMTG:一筋縄ではいかないサウンドも多いバンドですから、悩むことも度々でしょうね。「S.S」とかは、大変だったのではないかと想像します(笑)。
大胡田:はい。テーマを掴むのが難しくて……「サビができない!」とか(笑)。
成田:「あとは任せた!」って渡す曲もありますので(笑)。
EMTG:ある意味、無茶振りですね。
成田:そうですね。アルバムで、毎回2曲くらいそういうのがある気がします(笑)。
大胡田:ありますねえ(笑)。
EMTG:(笑)あと、今回のアルバムは、シンセのいい音にワクワクできる楽しみもありました。例えば「シネマ」は、すごく80年代的なシンセっぽさを感じたんですけど。
成田:それはまさにビンテージシンセです。YMOも使っている名機ですよ。音色に関しては、歌詞やアレンジが出来上がった段階でもいろいろ考えています。「こういう音にしたら、もっと曲の世界観が広がるんじゃないか?」と。「△」も、そうでしたね。最初はエレピでやるつもりだったんですけど、歌詞がおふざけっぽい言葉遊びだったから。
EMTG:「△」は、タイトルからしてふざけています(笑)。
大胡田:最近パスピエのアートワークに三角形をよく入れているので、多分マイブームなんだと思います(笑)。
EMTG:リスナーを煙に巻くような曲があったり、あと、謎解きをする面白さがあるのもパスピエの魅力ですよ。
大胡田:いろんな想像ができるように歌詞を書いたり、歌ったりしているつもりです。
EMTG:イメージできる世界に関して印象的だったことの1つは、「終末観」なんですけど。「ワールドエンド」とか「カーニバル」とか。
大胡田:わたし、終末観が好きなんですよ(笑)。みんなこういうことを一度は考えたことがあるんじゃないですかね?
EMTG:「カーニバル」の《膝下スカートの意味も もうすぐなくなる》っていうフレーズが好きです。街が水没して消えていく様の描写として、すごく粋ですよ。
大胡田:良かったです、伝わっていて(笑)。重いテーマをそのまま表現すると、自分の思っていることを押しつけちゃうものになる気もしているので、抽象的な表現にしてみたりしているんですよ。
成田: 1回で咀嚼し切れない情報量にしているところは、歌詞と音の両方に関してあるんですよね。例えばパンクは余分な要素を削ぎ落として、ソリッドなもので勝負する音楽。でも、僕らは逆に情報過多。それを「くどい!」と思わせないように作ると同時に、何回聴いても新しい発見ができるといいなと思うんです。
EMTG:たしかに新しい発見は、聴く度にあります。例えば「名前のない鳥」は何かに流されることへの抵抗が読み取れる曲だなと、このアルバムで聴いてすごく感じました。
大胡田:これもいろんな捉え方があるでしょうね。わたしたちの活動のことに繋がっていたり、年頃の女の子のファッションのことだったりとか。
EMTG:「はいからさん」はどうですか? 僕は林檎とか金魚とか、和的な赤色のイメージをすごく喚起されたんですけど。
大胡田:最初に曲とメロディを聴いた時に、わたしもそういうものを感じたんでしょうね。
EMTG:成田さんは、曲を書いた時、そういう色彩とかイメージしていました?
成田:いや、全然(笑)。
大胡田:えっ! そうなんですか(笑)。
成田:曲を渡す時は「こう捉えて欲しいな」って思っていることもある一方、「自分でもよく分からないんだけど、なんか面白いのができた」っていう時もあって。僕らは相互作用で何かが生まれることが多い。それが曲の深さにも繋がっていくのかなと。
EMTG:斬新な切り口が尽きないですね。
大胡田:ネタは尽きないでしょうね。わたしが何かをいろいろ考えている限りは。終末のこととか、いろいろ考えているわけですから(笑)。
成田:まあ、いろいろ考えつつも、作品として出せるものにしなきゃいけないんだけど。
大胡田:そうですね(笑)。
EMTG:刺激の強い描写を繰り出すことある大胡田さんですけど、「デ・ジャヴ」みたいなオシャレでアンニュイなファンタジー感も醸し出すのが、リスナーとしては堪らないところですよ(笑)。
成田:大胡田って他の人となかなか交わり得ない感覚の持ち主なのに、「こういう感覚は、誰しもが持っているんじゃないか?」って、いろんな人と共有したいと思って歌詞を書いている。そのことによって変なファンタジー感が生まれるところがあるんですよね(笑)。例えば「デ・ジャヴ」に出てくる《金色の街》も、「誰かが行ってしまった街、誰しもが想像したことがあるでしょ?」っていう感じで頭の中で作り上げた雰囲気。そういうイメージの断片が、「これは何なんだろう?」って想像してもらえるものに繋がっている。それはすごくいいことだと思っています。
大胡田:「デ・ジャヴ」は、わたしの中では「木綿のハンカチーフ」のイメージなんですけど。
EMTG:太田裕美さんの「木綿のハンカチーフ」ですか? ……うーん(笑)。
大胡田:違いますか?(笑)。
成田:そういう感じになるんですよね。本人は大衆的なものとして考えているつもりなんですけど、完全に唯我独尊(笑)。
EMTG:「くだらないことばかり」も、すごく綺麗で穏やかな感触の曲ですけど……《ロールシャッハのテストで挟まれて増えた》とか、スパイスの利いた単語が飛び出すじゃないですか。こういうところからもタダ者ではなさを感じます(笑)。
成田:ロールシャッハを入れたかったんでしょ?
大胡田:そうです。前からロールシャッハをちょくちょく出していたんですけど、その歌詞とか曲が毎回ボツになっていまして。「いつか出したい」と思っていたのが、今回やっと形になりました(笑)。
EMTG:いろんな解釈や想像を膨らませられる曲が満載ですけど、そういう中で「ON THE AIR」は異質なんですよね。これはラジオ、電波塔が人々に音楽を届けるロマンを描いた曲として、みんなの解釈が一致するでしょうから。
成田:タイアップ(TOKYO FMキャンペーン・ソング)だったというのが大きいですね。タイアップって初めてだったんです。「テーマに沿いつつ、如何にパスピエらしさを出すか?」を考えました。一定の制約の中で何かが生まれることって、芸術では起こりますからね。こういう作り方も面白いと思いました。
大胡田:制約って面白さもありますからね。例えば絵を描く時に、「今回の印刷は2色なのかあ……」ってところからいろいろ考えたり(笑)。
EMTG:絵といえば、初回限定盤のジャケットがすごいですね。くの一、女学生、体操着、ビキニとか……いろんな職業の女の子が満載ですけど。
大胡田:このジャケットに関しては、「舞台っぽくしたい」っていうのがあって。わたしが描きたかったコスチュームをいろいろ描いてみました。
EMTG:店頭でお客さんの視線を集めると思います。
大胡田:ぜひ集めて欲しいです(笑)。
EMTG:ところで、最近、ライブもますます活発ですね。2回目の自主イベントもありますし。
成田:僕らの冠イベントなので、責任感のようなものは持ってやっていかなきゃなと思っているし、今年は自分たちの方から仕掛けていきたいっていう気持ちがあるんです。今回の『印象B』は前回の『印象A』よりも規模が大きくなりましたし、僕らも楽しみですし、パスピエを観て頂く上でのターニングポイントになるライブかなと思います。
大胡田:いつもより尺が長いので、いろんな挑戦を盛り込んで、来てくださるみなさんに楽しんで頂けるようにしたいです。

【取材・文:田中 大】

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リリース情報

演出家出演(初回限定盤)

演出家出演(初回限定盤)

2013年06月12日

ワーナーミュージック・ジャパン

1. S.S
2.名前のない鳥
3.フィーバー
4.シネマ
5.ON THE AIR
6.くだらないことばかり
7.デ・ジャヴ
8.はいからさん
9.△
10.ワールドエンド
11.カーニバル

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お知らせ

■マイ検索ワード

●成田ハネダ(Key)
スキンヘッド

この前、福岡でライブをした時8ottoと一緒だったんです。ギターのRYOさんのスキンヘッドを見て、「スキンヘッドって、どうやってやるんだろうな?」と思って、調べてみました(笑)。髭剃りのシェイバーでやるらしいですね。頭皮にはたまに髪に隠れてデキモノがある可能性があるので、気をつけなきゃいけないってことを知りました。
●大胡田なつき(Vo)
豆乳おからクッキー

バンド内で「ヘルシー志向」みたいな話をしている時に話題に出てきたんです。それで熱心に調べてみました。わたしは時々食べているんですけど、健康が気になっているドラムのやおさんに勧めたんです。2人でその話で盛り上がりました。美味しいし、あれはいいですね。


■ライブ情報

「パスピエ presents 「印象B」
2013/07/03(水)恵比寿LIQUID ROOM
2013/07/05(金)東心斎橋JANUS

パスピエ TOUR 2013 “印象・日の出”
2013/10/26(土)大阪・UMEDA CLUB QUATTRO
2013/10/27(日)名古屋・ell.FITS ALL
2013/11/02(月)東京・LIQUIDROOM

※その他のライブ情報、詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。

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