5th EPが完成。新たな一歩を踏み出したplenty
plenty | 2014.01.23
- EMTG:「これから」は、人と人が本当の意味で通じ合うことの難しさを描いている印象がしました。
- 江沼:「ポップ」とか「暗い」とか、何なんだろう?って、『this』の頃くらいからずっと考えるようになりまして。「もっとポップな」とか「plentyの曲は暗い」とか言われるのが気になるようになったんです。でも、「これから」を作る前に、「そんなのどうでもいい」と思うようになりました。別に暗い曲が作りたいとか、明るい曲が作りたいとか、そういうことじゃないので。曲として、作品として強いものが作りたいので。例えばコルビュジエっているじゃないですか。
- EMTG:ル・コルビュジエ(20世紀を代表する建築家)ですか?
- 江沼:はい。あの人が設計した建築物はコンクリートで作られて、当時の最先端。でも、それは当時だけの斬新さではなくて、今でもすごいと言われる。その理由は何だろう?と。つまり「時代を越えて貫くものって何なんだろう?」って。俺も、それがしたいわけですよ。消費されない、流行りで終わらないものがしたい。だから「明るい」とか「暗い」とか、ましてや「ポップ」とか、そういうものを追ってやっていたら意味がないと思ったんです。他の人がどうこうっていうことではないなと。「何で音楽をやっているのか?」っていうと「自分のため」。元を辿ればそうであるはずなんですよ。だから「これから」の歌詞も《僕には僕しか信じられなくて》って書いています。それでいいと思ったんですよ。聴いてくれる人を巻き込んであげるというか、引っ張り上げるというか、招き入れるというか……何て言うんでしょう? 仏陀みたいな。
- EMTG:仏陀?
- 江沼:はい(笑)。仏陀ってポップじゃないですか?
- EMTG:仏陀がポップかどうか考えたことはないですが(笑)。興味深いですね。どういうことですか?
- 江沼:僕は別にそういう信仰とかがあるわけじゃないですけど、仏陀ってポップだなと思うんです。仏陀自身は高みにいて、しかも深度があるんですよね。だからあらゆる層の人に響いて、いろんな人が共振して共感する。そういう「幅」が「ポップ」っていうことじゃないかと。
- EMTG:仏陀自体は届けたい人々に合わせていたわけじゃなくて、本人そのものが高い存在であり、深みがあるから、自ずと幅広い層に届いたということ?
- 江沼:そうです。彼は誰かに合わせていたわけじゃないんでしょうね。自分自身を見つめて、掘り下げていって、高みへと持って行ったんだと思うんです。そうやって出てきた言葉が、たくさんの人に共感されたんじゃないかなと。そうなるべきなんですよ。だから俺は仏陀になりたい(笑)。
- EMTG:(笑)今のお話を聞いて、なるほどと思いました。先程おっしゃった《僕には僕しか信じられなくて》って、他の人に一切期待しないコミュニケーション拒絶の言葉ではないと僕は感じていて。そのフレーズの後に《それでも温もりを感じていたくて 目を閉じ 明日を待つ》と続くじゃないですか。誰かに合わせるのではなく、自分を突き詰めて作りだしたものが、いろんな人に届いていくことを願っていますよね。
- 江沼:それが「クリエイティブ」っていうことじゃないですか?
- EMTG:その通りだと思います。相手に合わせたものって、言い方を換えると、受け手が既に知っていて具体的に欲している何かを提供する行為じゃないですか。でも、「感動」って、未知の何かに触れた瞬間の心の震えなんですよね。新しい感覚の扉が開かれるような体験というか。
- 江沼:そうなんですよね。「引き上げられる」というような感覚。例えば好きなバンドの新しい作品を聴いて、「うわっ!」って高まるのって、何だか自分が引き上げられるような感じ。自分もそういう存在になりたい。そのために何をするかといえば、「合わせる」っていうことじゃないんだと思います。そうではなくて「自分自身を高める」っていうことが必要なんですよ。作ったものが分かってもらえなければ、それは自分の力不足。だから「自分勝手でいいんだ!」って思ったんです。まあ、迷惑をかけちゃ駄目だけど(笑)。でも、突き詰めていくことが必要。強いものが作りたい。そのためには「明るい」とか「暗い」とかどうでもいい。そういうことを思ったんです。
- 新田:plentyってお客さんと触れ合うっていうよりも、いい音楽を作っていい形で届けるっていうのが一番合っているバンドですしね。
- EMTG:「これから」ってplentyの「これから」を示している曲ってことですかね?
- 江沼:はい。そういう想いで作りました。「なんでタイトルが「これから」なの?」って訊かれましたけど、「この曲のタイトルは「これから」しかないだろう」と。
- EMTG:では、2曲目「先生のススメ」のお話に移りましょう。
- 江沼:この曲、テーマが「怒り」だったんです。制作の前に『 r e ( construction ) 』をやっていて、過去の自分と向き合ったんですけど、それで思ったのは、「昔は怒りとか衝動でやっていた」っていうこと。当時の怒りとか自信は過信であることに気づいて、後にへこむことにはなるんですけど。でも、その間違いを本気で信じていたっていうのは「本当」なわけじゃないですか? エネルギーは本物。それが良いなと感じて、それと勝負をしようと思って作ったのが「先生のススメ」です。この曲はBPMも過去最速です。
- EMTG:何かに対して激しく詰め寄っているのを感じます。
- 江沼:「あの時の自分」に対して「おいっ!」っていうような感じなんですよね。
- EMTG:サウンドは所謂「パンク」っていうテイストではないけど、こもっているエネルギーはパンクですよ。これはplentyのパンク。
- 江沼:全然関係ないですけど、「人との距離のはかりかた」も、俺にとってはパンクなんです。それは音とかのことではなくて、内面に関するものなんですけど。それを描いて歌おうと思った感情。「わざわざそれを歌う?」っていう部分がパンク。
- EMTG:「先生のススメ」はBPMが最速というお話も出ましたが、弾くのは大変でしょうね?
- 新田:大変でした。こういう速い曲は久しぶりですね。「バンド感を出そう」っていうのもあったので、その点も考えました。ライブに近い感じでしたね。考え過ぎずに、みんなでバッ!と演奏していくっていう。
- EMTG:そして、3曲目の「good bye」。これは春であることを示す言葉とかは出てこないけど、僕の感覚だと春の歌なんですよ。もっと言うならばplenty流の卒業ソングだなという印象なんです。
- 江沼:その印象、当たっていると思います。前向きな、悲しいサヨナラじゃない曲にしたくて。plentyは「バンド」じゃなくて「ただの2人組」。それに対してもったいないという想いがあって。「これからバンドになりたいなあ」っていうことを思っていて。そういうことを考えながら作った曲です。
- EMTG:悩んだり苦しんできたし、この先もいろいろあるはずだけど、今、この瞬間は全てを肯定できている。そういう心情が伝わってくるんですが。
- 江沼:《でも僕はうれしい》とか《そんなことが愛しい》っていう言葉が、ギターを弾きながら作っている時に出てきて。「ああっ! そう思ってたのか!」って感じたんです。
- EMTG:僕、このフレーズ、びっくりしたんです。今までの曲ではあんまり出てこない雰囲気の表現だったので。
- 江沼:自分はこう思っていたんですね。言葉が出てきて感じました。それで、「前に進もう」と。これまでの活動が嫌だったとは思っていないけど、転機なのかなと。
- EMTG:plentyが2人組になってからもう2年以上経ちますけど、それに対していろいろ思うところはあったんですか?
- 江沼:まあ、そのことに関して忘れていた時期もありましたけどね。アレンジに関して勉強になったこともいろいろありましたし。ライブでドラムの中畑(大樹)さんとかギターのヒラマ(ミキオ)さん、レコーディングでサカナクションの江島(啓一)さんに入って頂いて、一緒に演奏出来たというのも貴重な経験でしたから。でも、plentyとして見るならば、ずっとこのままだと良くないなと思うんですよ。3人のメンバーでやっていた時はスタジオでああでもないこうでもないって話し合ってやっていたんです。でも、今は上手な方と一緒にやらせてもらっているので、デモとかを渡したらできちゃう。それはすごくいいことだし、その分、別なことに時間を裂けてありがたい。でも、3人でやっていた時みたいな面倒くさい感じに戻った方が……戻らないと駄目なんじゃないかなと思ったんです。1曲のために何回もスタジオに入ってやっていたあの頃に。
- EMTG:それは昔の感覚を取り戻したいということですか?
- 江沼:いや。あの頃の感じを取り戻すというか、前に進むっていうような感覚ですね。やっぱり今のplentyはただの2人組なんですよ。バンドとして見てて分かりにくいというか不親切な状態。どう応援したらいいのか分からないんじゃないかなと思って。去年作った『this』はすごく納得のいく作品だったけど、「難しい」という意見を割と聞いて。それはバンド自体のストーリーに原因があるんじゃないかと俺は思ったんです。難しいことをやっている気はないので。「2人でやっている」っていうことが難しい印象にさせているのかなと。そもそも2人組だと、どんな音をやったとしても予想通りとなる。だって、打ち込みでやったとしても驚きがないじゃないですか。それが例えばplentyっていうものが伝わりにくい原因なんじゃないかと思ったんですよね。
- EMTG:他の媒体のインタビューで読んだんですけど、「自分はバンドの中にいるのがあるべき姿」みたいなことをおっしゃっていましたよね?
- 江沼:はい。面倒くさいところにわざわざ自分を突っ込んでいくタイプ。そもそも1人で立って映えるタイプじゃない。埋まっているタイプなんです。バンドに埋まっている人であるのが似合うと思う。だからいろんな意味でバンドになりたいなと思っています。
- 新田:僕もバンドをやりたいです。メンバーが誰か入るって、それだけで大きな影響力がありますからね。
- EMTG:2014年はいろいろな動きがありそうですね。
- 江沼:うん。すごくいろんなことがあると思いますよ。
- 新田:面白くなればいいなと僕も思っています。それでお客さんを巻き込めたら一番いいですね。
- 江沼:2014年は大きな1年にしなきゃいけないですよ。どげんかせんと(笑)。でも、それは全然暗い意味ではなく、「楽しみだな」という意味で。大きな1年にしたいです。
5th EP『これから / 先生のススメ / good bye』。収録されている3曲はplentyが積み重ねてきた日々、様々な想いの末に辿り着いた現在地点、見据えている未来を鮮やかに映し出している。展開する毎に眩しい光で満ち溢れていく「これから」。生々しいエモーションが渦巻く「先生のススメ」。温かいメロディと音像が広がる「good bye」。サウンドの豊かな質感、高いドラマ性、リスナーの胸の奥に多彩なイメージを届ける言葉をじっくり体感できる1枚だ。今作にこめられた想い、各曲の生まれた背景などについて、江沼郁弥(Vo & G)と新田紀彰(B)に語ってもらった。
【取材・文:田中 大】
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ビデオコメント
リリース情報
お知らせ
plenty 2014年 春 ワンマンツアー
2014/02/15(土)鹿嶋 LOOP
2014/02/16(日)水戸 LIGHT HOUSE
2014/02/22(土)宇都宮 HEAVEN’S ROCK
2014/02/23(日)千葉 LOOK
2014/03/01(土)金沢 AZ
2014/03/02(日)新潟 LOTS
2014/03/07(金)仙台 Rensa
2014/03/09(日)札幌 PENNY LANE 24
2014/03/15(土)福岡 DRUM LOGOS
2014/03/16(日)広島 CLUB QUATTRO
2014/03/22(土)大阪 Zepp Namba
2014/03/23(日)名古屋 Zepp Nagoya
2014/03/29(土)東京 Zepp Tokyo
VIVA LA ROCK
2014/05/05(月・祝)さいたまスーパーアリーナ
※その他のライブ情報、詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。