plentyが今、アナログ盤シングル『体温』をリリースする理由
plenty | 2015.05.14
- EMTG:アナログ盤で出すことになった経緯は何だったんですか?
- 江沼:アナログ盤がずっと好きで、事務所の人とかに「アナログで出したいです」って言い続けていたんですけど、いろんな手間がかかることでもあるので、なかなかOKが出なかったんですよね。でも、『RECORD STORE DAY』の話を出したら「いいね!」って言ってくれたんです。まあ、何気ない感じで話すところからみんなを巻き込んだ形でしたけど。「春ですね。4月といえばRECORD STORE DAYですけど、今年はどうでしょうねえ?」という感じで(笑)。
- EMTG:(笑)アナログの音って魅力的だし、「さあ聴くぞ!」ってターンテーブルに乗せて針を落とすあの儀式っぽい感じもいいんですよね。
- 江沼:そうですよね。アナログって作品に向き合って触れる度合いも強いのかもしれないです。特に7インチだと尺も短いし、聴いている途中にあんまりフラフラとどこかに行かないじゃないですか。だから1曲に対してとか、そのアーティストに対して向き合う真剣さがあるのかも。そういう聴かれ方っていいなあって思うし、自分たちのバンドに合っていると思っていました。でも、「アナログこそが最高だ!」っていうことを伝えたいわけではなくて、「こういう聴き方もあるよ」って知ってもらって、「音楽に触れる」ってことを感じてもらいたかったんです。
- 中村:アナログ盤、俺も好きですよ。ウチの兄がジャズをやっていて、家にアナログプレイヤーを持っていたんです。だから昔からアナログでチャーリー・パーカーとかを聴いていました。でも、俺らがやっているのは音楽。作った音をどういう形でリリースしても、それは「音」であるという点では変わらないという想いもあります。アナログ、CD、データとか、どの形態であってもフレーズが変わるわけではないですからね。
- 新田:俺はアナログに触れてこなかったんですよ。でも、アナログで出すってなった時に「面白いな」と思って、自分でもプレイヤーを買って聴くようになりました。盤に針を落とすと、「プチッ」っていう音がするじゃないですか。あれがいいなと思っていて。
- 江沼:そこがいいんだ?
- 新田:うん。
- 江沼:曲が始まってねえじゃん(笑)。
- 新田:そうなんだけど(笑)。でも、CDみたいに再生ボタンを押してすぐ始まるのとは違うそういう過程も面白いんですよね。だからアナログの「向き合う」っていう感じ、俺もよく分かります。
- EMTG:この前のミニアルバム(2014年11月にリリースした『空から降る一億の星』)のインタビューで、「便利になればなるほど、それについて考えることが減っちゃう」って江沼さんがおっしゃっていたじゃないですか。今、アナログの話をしながらそのことを思い出しました。
- 江沼:なるほど。「体温」っていう曲を作ったのは、そういうことがきっかけだったりもして。俺、引っ越しをしたんです。でも、引っ越しをしようとする度、「ミュージシャン」っていう職業欄によって大体審査で落とされるんです。周りの人の話だと、「ミュージシャン」とあまり言わないそうですけど。所属事務所とかの社員ってことにするみたいですね。
- EMTG:そっちの方がスムーズなんでしょうね。
- 江沼:そう。でも、ミュージシャンの人権のなさに「ガーン!」と来たんですよ。自分は音楽をやるミュージシャンっていうものに誇りを持っているので。何かが変わるためにも、「ミュージシャン」とか「音」っていうもの自体に触れる機会が大事なのかなと。アナログは、そういう点でもいいなと思いました。アナログは、さっきもお話した通り作品に向き合う機会になるから。そんなことを考えながら「体温」というタイトルで曲を作ったんですよね。結果的にラブソング仕立てのものになったんですけど。最近、「愛」と「自尊心」という2つが、自分の中でテーマになっていて。そのテーマと、「ミュージシャンというものへの誇り」みたいなものが1つになっているのが「体温」です。
- EMTG:音楽を含めた何らかの創作、表現に携わる人を軽視するような世間に漂う何となくの雰囲気は、僕もこの業界の人間だから分かりますよ。
- 江沼:しょうがないと言えばしょうがないのかもしれないけど。「まだ音楽をやってるのか?」というような。でも、それでご飯を食べているかどうかとかって関係ないですよ。そもそも「音楽だけで食べてる人の音楽だからいい音楽なのか?」っていうことも思うし。別の仕事をしながら音楽をやっている人だっているし。「音楽=仕事」じゃなくて「音楽=ライフワーク」。自己表現であり、崇高なものなんですよ。海外だとそういう考えが普通にあるみたいですけど、日本だと「それでご飯が食べられるかどうか?」が問題になっているように感じるんですよね。日本は大好きだけど、そういう考えがあるのがもったいないと思っています。それを分からせたいとか変えたいっていうことでもないんですけど。でも、「音楽ってそういうものだと思う」っていうことですね。
- EMTG:なるほど。あと、サウンドに関して言うと、「体温」はすごく深みがあるし、心地よいグルーヴを感じます。一太さんが加入してから、リズム隊同士でスタジオ練習することも多いみたいですね。
- 中村:よくやっていますね。フレーズをお互いに確認して、「ここの絡みが悪い」とか話し合ったりしています。
- 新田:やっぱり一太が入ったのはバンドにとってデカいですよ。俺もリズム隊同士として一太といろいろ話せるのが嬉しいです。同い年っていうのもあって、話しやすいですし。
- EMTG:「体温」は、ホーンセクションも重要なポイントですね。
- 江沼:デモの段階からホーンを入れていたんですけど、山本拓夫さんにアレンジをして頂きました。曲の中に上手く埋め込まれるんじゃなくて、異物感を出しながら存在していて、それと自分たちの音が駆け引きをしていくような。そういうものにしたかったんです。ホーンはちょっと懐かしいフレーズ、音回し、質感もあると思います。そこが気に入っています。「お父さんとかお母さん世代の音源を流しながら、今、歌ってる」というようなものにしたかったんですよね。
- 中村:拓夫さんとはジャズの話をしたりもしたんですけど、昔の味のあるのが好きだっておっしゃっていました。歌心のあるアドリブがお好きな感じとかも出ているのかもしれないです。この曲のホーンって「歌心」ですね。「伴奏」っていう感じではないですから。裏ですごく歌っているので、それが異物感みたいな部分に繋がっているんだと思います。
- 新田:目の前でホーンを聴いたんですけど、すごかったですよ。
- 江沼:あれはすごかった。特にバリトンサックスがすごいと思った。音が太くて。ああいう音が出るって知ってはいたけど、金属製の楽器からああいう音が出るのを実際に聴いて、びっくりしました。
- EMTG:では、盤を裏返してB面の「シャララ」の話へ行きましょう。「B面」って言えるのが、何だかすごく新鮮ですけど。
- 江沼:いいですね(笑)。
- EMTG:悶々としたエネルギーをダンスビートに転じている曲として受け止めました。
- 江沼:これ、ニューウェイヴっていうんですかね? このビートにしたのは一太なんですよ。
- 中村:「乗れるビート」みたいなことで話していたんだっけ?
- 江沼:「グルーヴ」がテーマだったんだよね。またひっくり返してA面の話になりますけど、「体温」もそうだったんですよ。「体温」のリズム隊はバラードっぽくない。揺れるような裏のニュアンスがあるんです。「シャララ」も縦揺れじゃなくて横揺れのノリがありますし、それがテーマでした。
- EMTG:「シャララ」は、スポーティーに踊れる縦ノリのダンスロックとは違う、艶めかしい風味を感じます。
- 江沼:最近は縦のリズムの曲が多いし、それも悪くはないけど、「俺はちょっと横を聴きたいな」って思ったんです。ちょっとルーツミュージックっぽい「ダンス」って言うんですかね?
- 新田:「シャララ」のベースに関しては自分にはない引き出しだったんですけど、2人(江沼と中村)と相談しながらフレーズを考えていきました。面白いテイストの曲になったと思います。
- 中村:「体温」と「シャララ」は、かなりリズム隊同士で合わせましたね。3日連続でスタジオに入ったりしましたから。
- 江沼:そろそろ横揺れする若い子たちを育ててもいいんじゃないかと(笑)。今の主流とは違うのかもしれないけど、「右に倣えでやっていない音楽家もいるよ」っていうのをこれからもやり続けたいです。
- EMTG:縦揺れのノリと横揺れのノリの違いって、「縦=上半身で踊る」と「横=下半身で踊る」っていう言い方もできるかも。横揺れの方が艶めかしいから。その色気が最近主流のサウンドとの違いですね。
- 江沼:なるほど。あと、最近、チューニング自体も上がっているみたいですね。我々は440(基準周波数がA=440Hz)なんですけど、最近の打ち込みの音楽って、442とか443とかがあるみたいですよ。
- 中村:そうなんだ? 初めて知った。
- 江沼:そういうことを書いている学術書みたいなのを読んだんだけど。アパレルの女性店員とか、声が高いじゃない? あれはお店の中で流している音楽が高くなってきているから、無意識の内にそれよりも高い声で話そうとしているからではないか?……という話も載っていました(笑)。
- 中村:面白いね。
- 江沼:442とかだと高いし、明るい雰囲気で耳につきやすいというのもあるけど。まあ、そういうのは善し悪しじゃなくて好みの問題だし、それぞれに発展していけばいいんだけど。
- EMTG:「ウチの店にはウチの店の味があるんですよ」、みたいなことですね。
- 江沼:そういうことですね。ダンスバンドになろうとしているわけではないけど、自分たちなりのものを極めていこうと思います。
- EMTG:さて。そろそろまとめに入りましょう。アナログ盤とか、リズムのニュアンスとか、周波数とか、ちょっと細かい話をいろいろしちゃいましたけど、そういうある種の「手間」。考えようによっては面倒くさい「回り道」みたいなことも、音楽の奥深さの一部だし、面白さなんですよね。
- 江沼:はい。音楽ってサービス業ではないというか、楽しんでこそだと思うんです。俺はそれによって食べていけなくなっても構わないと思っているし、そうなったとしても俺は音楽をやめません。1日中音楽をやっているかどうかという濃度と、作る音楽の良さって関係ないし。音楽ってビジネスということではなく、もっと崇高なものだと思っています。
- EMTG:plentyの今後の動きに関しては、どうでしょう?
- 江沼:どうだろう? 何かある?
- 新田:いろいろ吸収したものをplentyに活かしていきたいですね。
- 中村:最近、いい制作しているよね?
- 江沼:うん。いい感じです。一太が作った曲に、俺がギターをつけたりもしています。
- 中村:作ったというか、考えたリズムだね。
- 江沼:リスナーを無視した作品を作ろうとは思っていないですけど、自分たちも楽しみながら制作をしています。今までとはまた違った感じのものが生まれるかも。前作のミニアルバムは「気合!」とか「青さ」みたいな感じだったけど、次はまた違ったテンションの方向になりそうです。
最新シングル『体温』は7インチのアナログ盤。全世界21ヶ国の独立資本のレコードショップが参加して行われている音楽の祭典『RECORD STORE DAY』にリリースされた。愛するという行為に伴う不安、苛立ち、自尊心から生まれる心の揺らぎを歌う「体温」。何処か張りつめたムードを醸し出しながらダンサブルなビートを躍動させる「シャララ」。2曲それぞれに生々しいエネルギー、美しいメロディが刻み込まれている。昨年から3人編成となったplenty。レコーディングやライブを重ねながら彼らが掴み取ったグルーヴの深みも示す1枚となった。今作について江沼郁弥(Vo & G)、新田紀彰(B)、中村一太(Dr)が語る。
【取材・文:田中 大】
リリース情報
残ってる
発売日: 2017年10月04日
価格: ¥ 926(本体)+税
レーベル: 日本クラウン
収録曲
1.残ってる
2.残ってる -ピアノと歌-
3.怪盗メタモルフォーゼ -CM Version-
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リリース情報
[アナログシングル] 体温
2015年04月18日
headphone music label
side-B. シャララ
ダウンロード・コード付き:
アナログレコードプレイヤーをお持ちで無い方でも、デジタル音源をダウンロードして聴く事が出来ます。
※デジタル音源はzipファイルでダウンロードされます。
お知らせ
●江沼
A Tribe Called Quest
最近、ヒップホップにハマっていて、A Tribe Called Questの『People’s Instinctive Travels And The Paths Of Rhythm』っていうアルバムを買ったんですよ。カッコよくて痺れました。ルー・リードの「Walk On The Wild Side」をサンプリングした「Can I Kick It?」が、すごく良くて。ヒップホップのリズムって、ループで展開していくじゃないですか。それで3分とか4分とか聴かせるって、リズム隊として究極だと思います。シンプルなのに飽きさせないのは、そこに最高のグルーヴがあるから。そういう観点でヒップホップを聴き始めたら、ハマっちゃいました。
●新田
ランニングシューズ
1年くらい前はランニングをしたり散歩をしたりしていたんですけど、やめたら太り始めてしまって(笑)。だから「また走ろうかな」と思って、ランニングシューズを調べました。普通に走れるシューズであればいいんですけど、見た目が派手でデザイン重視のものが多いんですよね。「ランニングシューズ ナイキ アディダス」みたいな感じで検索しました。
●中村
山田拓児
この前、新宿のPit Innで、北川潔さんというベーシストのライブを観たんです。大好きなピアニストの片倉真由子さんも出演していたんですけど、そのバンドのメンバーの1人が山田拓児さんでした。山田さんは俺の師匠と一緒にバンドをやっていたから名前は知っていたんですけど、演奏を聴いたらすごくカッコよかったです。「アルバムないかな?」って、ネット検索して調べました。
■ライブ情報
SAKAE SP-RING 2015
2015/06/06(土)DIAMOND HALL
きのこ帝国 presents「echoes 2」
2015/06/20(土)LIQUIDROOM
w/ きのこ帝国
OTOSATA Rock Festival 2015
2015/06/28(日)茅野市民館 (長野県茅野市)
rockin’on presents ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2015
2015/08/01(土)国営ひたち海浜公園
RISING SUN ROCK FESTIVAL 2015 in EZO
2015/08/14(金)、15(土)石狩湾新港樽川ふ頭横野外特設ステージ
※出演日は後日発表
WILD BUNCH FEST. 2015
2015/08/22(土)山口きらら博記念公園
※その他のライブ情報、詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。