個性の塊!! SAKANAMON待望の2ndアルバム『INSUROCK』
SAKANAMON | 2014.02.03
- EMTG:アルバムのタイトルの『INSUROCK』の語源が「INSULOK=結束バンド」。たくさんの人が集まった時に生まれる大きな力について歌っているのが「TOWER」。つまり、この曲がアルバムの全体像を象徴しているっていうことですかね?
- 藤森:アルバム自体のテーマみたいなものは特に決めずに「面白いと思う曲をガンガン録っていこう」っていう感じで制作を進めたんです。そういう中から「TOWER」が出てきて、リード曲にすることになったんですよね。
- EMTG:「TOWER」もそうですけど、疎外感とか劣等感って、SAKANAMONの音楽のテーマになることが多いですよね?
- 藤森:それはずっとテーマですね。
- EMTG:コンプレックスを抱えた人間も、たくさん集まったら何かを発信できるんじゃないか? そういう想いを「TOWER」から感じたんです。
- 藤森:例えばワンマンライブとかをやっていると、劣等感とかを描いた自分たちの曲を聴きにきてくれる人たちの存在を実感するんです。それはまさに「TOWER」の歌詞で描いた内容なんですよね。
- EMTG:冒頭の話に戻る感じになりますが、この曲の誕生によってアルバムの全体像が見えたってことですかね?
- 藤森:そういうことになりますね。『INSUROCK』っていうタイトルも、「TOWER」ができてからつけたんです。『INSUROCK』っていう言葉が出る前までは、ほんと、ひたすら曲を録っていって。その結果、当初は統一感のないバラバラな感じだったんです。そういうバラバラなものを結束させたという意味合いでも『INSUROCK』っていう言葉はピッタリきました。
- EMTG:たしかにそれぞれの曲は、すごく個性が強いですよね。例えばシリアスな内容の曲として挙げられるのが「邯鄲の夢」。音楽を作って届けることの理由みたいなことが描かれていると感じたんですけど。
- 藤森:作った音楽も、いつか忘れ去られていく。その切なさみたいなものを伝えつつ、それでも自分は今、聴いてくれる人たちに向けて歌う。そういう良いことを言っている歌です(笑)。今回の中で一番まともなことを言っているし、曲としてもすごく気に入っています。こういうバラード調の曲が、SAKANAMONにはあんまりないんですね。「邯鄲の夢」は、「今のSAKANAMONのバラードはこれだ!」っていうのを提示できたと思います。
- EMTG:和的な雰囲気が漂うところもSAKANAMONらしさが出ていますね。
- 藤森:大正琴っていうエレキの琴を弾いたんです。3人がかりで弾きました(笑)。その音がちょいちょい入っています。
- EMTG:この曲はアルバムのハイライトですよ。この曲で本編が終わって、「シグナルマン」以降がアンコールな感じ。
- 藤森:そのイメージ、いいですね。その感じです(笑)。
- EMTG:(笑)曲順っていう点で言うと、「マドギワールド」は、実に1曲目らしい。すごく清々しい躍動感がありますし。
- 藤森:アルバムで最後にできた曲なんです。他の曲はかなり遊んでいるので、「一番SAKANAMONらしい」っていう感じのものをアルバムの最初に聴かせたいと思って作りました。
- EMTG:学校の窓際に座っている少年の姿がイメージできます。「落ちこぼれだけど、自分は特別な何かができるんじゃないか?」と考えている少年。
- 藤森:僕はそういう「窓際」みたいな意識が子供の頃からずっとあって、今でもそうなんです。「理解されない」っていう感じですか? そういう自分を逆に肯定する感じ。
- EMTG:「理解されないからこそ自分は特別なんだ」っていう意識?
- 藤森:そういう意識はめちゃくちゃありますね。僕、めちゃくちゃポジティブなんで(笑)。「マドギワールド」っていう響きも気に入っています。「『まどかマギカ』と関係ある曲なの?」って結構訊かれるんですけど……残念ながら違います(笑)。
- EMTG:(笑)この曲から2曲目の「爆弾魔のアクション ?願い?」へと突入する流れがかっこいいんですよ。
- 藤森:「爆弾魔のアクション ?願い?」も、まさに「アルバムで面白いことをやってやろう!」っていう気持ちから生まれた曲ですね。今までのSAKANAMONがやっていなかった感じの激しい曲調をやりたかったので。
- EMTG:硬派で男っぽいロックンロールですね。《爆弾魔》っていう単語も印象的です。
- 藤森:《爆弾魔》って連呼するのがシュールでいいなと(笑)。
- EMTG:「ミイとユウ」にも参加している平賀さち枝さんがコーラスですが、これはどういう経緯で?
- 藤森:「ミイとユウ」のデュエット相手を探していて、何の面識もないのに平賀さんに連絡してお願いしたんです。その流れで「この曲もよろしければ歌って頂けませんか?」と。
- EMTG:「ミイとユウ」は、かわいらしいです。これ、猫を描いた曲?
- 藤森:そうです。実家の猫のことです。昔からあった曲なんですよ。デュエットなので、なかなか形にできなくて。今回、練り直してついにアルバムに入れることができました。
- EMTG:サウンド面で言うと「エレクトリカルマーチ」が斬新です。リズムが変化したり、タメとかキメを随所に盛り込んでドラマチックに展開していくじゃないですか。
- 藤森:インストの曲的なカッコ良さをSAKANAMONでもやってみたいなと思って作りました。ポストロックっぽいイメージです。「ああいう感じが欲しいけど、どうやったら作れるんだろう?」と。頭良さそうな音ですよね?
- EMTG:そうかも(笑)。
- 藤森:この曲はライブのことを歌っていて。ライブのワイワイ感とか、ライブが終わった後の寂しさとかを難しそうに歌っています(笑)。頭良さそうに見られたいんですよ。あと、言葉の響きとかでも聴いてくれる人に楽しんで欲しいし、詞を目で絵として見た時に「カッコいいな」とか思いたいんです。
- EMTG:字面にこだわる?
- 藤森:こだわりますね。「ここはひらがなの方がいいかな?」とか、よく考えています。歌詞を記号的な意味合いで見ても楽しめるものにしたいので。
- EMTG:歌詞の内容が斬新な曲もいろいろありますよね。例えば「訪問者」って、宇宙人にさらわれた人の歌?
- 藤森:そんな感じですね。宇宙人とか、そういう系のことが好きなので、その願望をそのまま出しました(笑)。僕、常識にとらわれない存在が好きなんです。それこそ、さっきもお話した「疎外感」とか「マイノリティ」とかいう意識ともつながってくるんですけど、「非常識の何が悪い?」みたいなことを思うんです。非常識というものを肯定してくれるのが宇宙人とか、常識にとらわれない存在なんですよね。
- EMTG:なるほど。地球では非常識とされていることも、宇宙人にとってはすごく常識かもしれないわけだし。
- 藤森:そうなんですよ。そんなことを考えたりもします。
- EMTG:そう考えると、「訪問者」の聴き方が深まります。ロマンがすごくある曲だし。
- 藤森:ありがとうございます!
- EMTG:そして、「エロス」ですが……最大の問題作かも(笑)。
- 藤森:完全にふざけていますね(笑)。まあ、簡単に言うと童貞の歌です。その辺は歌詞を読んでもらえれば伝わると思います。笑ってもらえればなと。元々はもっとひどい歌詞だったんですけど、さすがに怒られて、書き直してこれになりました。実は『na』の時にはもうできていたんですけど、「さすがに自己紹介のアルバムで、これは入れられないな」っていうことになったんです(笑)。
- EMTG:前作の時、そんなことがあったんですね(笑)。「飴色の女の子」は、色っぽい雰囲気が印象に残りました。これ、いい曲だと思います。
- 藤森:「飴色の女の子」は、ある有名な昔の曲のアンサーソングとして勝手に作りました。歌詞がそのまま、ある曲の歌詞に返しているんです。その有名な曲は女性目線なんですけど、男性の側の目線で書いたのが「飴色の女の子」。歌詞とか、タイトルにヒントがあるんですけど……そこは想像して聴いて頂けると面白いと思います。
- EMTG:「飴色の女の子」は、メロディもグッときましたよ。あと、「花色の美少女」と「シグナルマン」は、アルバムで聴いて改めて好きになりました。
- 藤森:ありがとうございます! 「花色の美少女」と「シグナルマン」は、上手くできました(笑)。「シグナルマン」とかは結構前に作った曲ですけど、僕の中では異色な匂いがあるんです。でも、今回のアルバムに入ったことで、他の曲と自然に並んで聴ける感じになった印象があります。「シングルが調子に乗ってない感」があるアルバムと言いますか。むしろ全12曲の中から、たまたまこの2曲がシングルとして選出されたというくらいの感じ。なんとなく干支的な感じがあるんですよ。
- EMTG:なるほど。全12曲だし?
- 藤森:はい(笑)。そういう統制のとれたキャラクターたちだといいなと思っています。
- EMTG:ラストの「102」もキャラクターが濃いですよね。これ、アパートで暮らしていた頃の隣の人のこと?
- 藤森:はい。前の部屋に住んでいた時の曲です。今思うと、あの頃の体験はいろいろ辛いですね……。この前、通りがかったら、まだ隣の人は住んでいました(笑)。「シグナルマン」のインストアライブをしていた頃に弾き語りでやれる新曲を持って行こうと思って作ったんです。
- EMTG:作ったのはアパートから引っ越した後?
- 藤森:いや。ギリギリまだ引越しをしていない頃ですね。
- EMTG:じゃあ、相当生々しい気持ちがこもっている曲ということですね。
- 藤森:そういうことになりますね。まあ、「シグナルマン」で壮大な雰囲気になっておいて、「102」の素朴さでアルバムが終わる感じ。いい流れじゃないですか(笑)。
- EMTG:(笑)なんか、すごくSAKANAMONらしいアルバムですよ。「INSULOK=結束バンド」と「飲酒ロック」の両方にかかっているタイトルも含めて。
- 藤森:ありがとうございます。大丈夫かな? 遊び過ぎてないですかね?
- EMTG:急に気弱にならないでください(笑)。
- 藤森:いろいろ聴いて、ハッとしてもらえたらいいなと思います。予測できない2ndアルバムになっているだろうなという自信はあります。曲がいいということをもっとたくさんの人に認識してもらって、固い信頼を築いてですね、SAKANAMONがこれからもライブができるような風景を作っていきたいなと思っています。
2ndアルバム『INSUROCK』に収録されている全12曲は、どれも圧倒的な個性の塊だ。甘酸っぱいメロディを届けるポップチューン、硬派なロック、ほのぼのとしたデュエット、壮大な展開を遂げるバンドサウンド……あらゆる曲が、愛すべき魅力を煌めかせている。歌詞に関しても日常生活の風景が滲むものから、舞台が宇宙へと大胆に飛び出すものまで実に幅広い。粋な比喩などを盛り込み、リスナーを謎解きへと誘うユニークな作風も発揮されている。SAKANAMONとして表現できる音楽を極限まで突き詰めた印象がする本作は、どのような背景から生まれたのか? 藤森元生(Vo & G)が語る。
【取材・文:田中 大】
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