THE NOVEMBERSが作り上げた“自称アンセム”『今日も生きたね』

THE NOVEMBERS | 2014.05.14

 いつの頃からか、THE NOVEMBERSのサウンドに明るい光を感じるようになった。破壊を恐れない耽美を追求してきたTHE NOVEMBERSだが、それは暗闇への旅ではなかった。独特の価値観を持つこのバンドの美意識は、計り知れない。ニューシングル「今日も生きたね」は、世間の言う明るい暗いとは違う基準で作られている。そこにあるのは、THE NOVEMBERSならではの明るさだ。「かわいそうだから鯨は食べない」などと語る感傷的差別主義者とは、まったく異なるアプローチで描かれるユートピアには、温かな光が宿っている。
 それを指して、ボーカル&ギターの小林祐介は“アンセム”と言った。もちろんTHE NOVEMBERSのアンセムは、一緒に歌ったり踊ったりといったものではない。しかし、「今日も生きたね」に込められた“一緒に未来を作ろう”という意志には、確かにアンセムという言葉がふさわしい。そうしてメロディとサウンドは、穏やかな美しさを全篇にたたえている。
ギターを持って待ち合わせ場所に現われた小林に、話を聞いてみた。

EMTG:バンドのリハーサルの帰り?
小林:そうなんですよ。ベンジーさんが始めた新しいバンドに誘われて。ベンジーさんがベースなんです。面白くて、すごく刺激的。去年はCHARAさんと一緒にやったり、憧れてた人たちと一緒にやれるようになって、光栄だし、楽しいです。
EMTG:それは楽しそうだなぁ。そういう幸せ感も「今日も生きたね」に反映されてるのかな?
小林:っていうより、シングルを出すことで、「THE NOVEMBERSは元気にやってますよ」っていう生存確認です。
EMTG:あはは、「今日も生きたね」っていうぐらいだからね。それにしても、穏やかな力強さを感じる美バラードだ!
小林:CHARAさんやベンジーさんとやらせていただいて、いちばん感じるのは、自分の知的好奇心に素直に従うっていうことだった。その人が考えていることが、そのまま歌になってる。“歩く芸術”っていうんですか(笑)。それで第一線でやっている。その人たちといざ一緒にやってみると、THE NOVEMBERSでは使わない筋肉を使うっていうか、同世代では感じない歓びがありますね。それを踏まえてTHE NOVEMBERSに戻ると、バンドの別のいい部分が見えてくるんです。
EMTG:確かに2人とも“歩く芸術”だね。
小林:いちばん面白かったのは、CHARAさんと同じステージに立ったこと。そこからお客さんを見れたことですね。ライブの中で、お客さんの表情が変わっていく。いろんな人の心を動かしてきた“先人”のライブを、ステージの側から見れた。かつては自分も彼らの音楽に動かされたひとりなんですけど、自分も人の心を動かしたくなった。特に去年は、そういう1年間だったです。なので、11月に出したアルバム『zeitgeist』(ツァイトガイスト)は、洗練されたものであると同時に、人に支持されるものを作ろうと思ったんです。
EMTG:今回のシングルは?
小林:聴いた人にいい影響を与えたいっていう気持ちさえあれば、何を歌ってもいいんだなって思って作りました。
EMTG:シンプルな動機だね。
小林:たくさんの人に聴いてほしいと思ってるけど、でもそれが目的じゃなくて、“自分の正解”をいろんな人に届ける楽しさをいちばんに考えた。自分が価値を感じてることを歌おうと。その上で、みんなが「今日も生きたね」をどう受け止めるかは考えました。迎合はしないけど。
EMTG:『zeitgeist』の後に書いたの?
小林:はい。このタイミングで、自分が信じて疑わないものを作ろうと思ったんですよ。だから“自称・アンセム”。
EMTG:そういうことなんだ。でも通常のバンドのアンセムみたいに、威勢がよくないじゃん(笑)。
小林:アンセムっていうと、普通、応援歌みたいな感じですけど、それは自分とは関係ないと確認して作りました。
EMTG:THE NOVEMBERSの応援歌って、想像できないよね。でも小林くんにとって、「今日も生きたね」はアンセムなんだ。
小林:気分は、ブランキー・ジェット・シティの「悪いひとたち」です。
EMTG:あの歌をオーケストラ付きでやったNHKホールのライブを観たよ。確かにあれはアンセムだった。
小林:残酷なものや差別への恥や、生命の誕生や、いろんなものが遍在している物語でしょ、あの歌は。
EMTG:そうだね。現代の讃美歌みたいだった。
小林:そういう歌を作りたくて、2ヵ月間試行錯誤して。方針が決まってからは早かったですけど。
EMTG:苦労したんだ。
小林:っていうより、その間、ベンジーさんに誘われたり、忙しくて楽しい躁状態でしたね。
EMTG:面白い躁状態だね。そして、どんな方針に行き当たったの?
小林:出発点は“生命”。命のいろんな側面を歌おうと思ったんです。
EMTG:「今日も生きたね」には、子供がトンボの羽をむしる行為が純粋だったり、牛を食べ物として捉えることを歌ってるけど。
小林:「ベジタリアンは、野菜を生き物と思わないのかな」とか、考えました。鯨は知性があるから食べちゃいけないって言う人がいるけど、だったら牛には知性がないから食べていいのか。自分のお腹がいっぱいになると、急にそういうことを言い出す人がいる。それって、自分の感傷や都合だけで考えてるんじゃないかな。他の国の食文化を受け入れられない方が、野蛮だと僕は思う。人生を豊かにする文化って、全然別のことだと思う。
EMTG:確かに、それは本当のことだね。ただ、以前のTHE NOVEMBERSにはなかったテーマだと感じるけど。
小林:そう、THE NOVEMBERSの初期にはなかった。初期の僕らは、自分たちが酔いながら、リスナーを酔わせようとしていたと思う。でも今は、醒めながら気持ち良くさせようとしている。それは震災やいろんなものがキッカケになって生まれた変化なんだけど、4th EPの「Fourth wall」や『zeitgeist』を経て、今回の曲に結びついたと思います。だからと言って、クソ真面目にやろうとは思ってないんですよ。あくまで楽しく、音楽で酔わせる中で伝えていきたいんです。
EMTG:バンドがちゃんと世の中を生きて、成長していく過程で起こった変化なんだね。
小林:そうです。
EMTG:だとすると、カップリングの「ブルックリン最終出口」は、初期の曲で、「今日も生きたね」とは対極にある。
小林:そうなんです。このシングルの2曲で、THE NOVEMBERSの過去と現在、“酔い”と“醒め”を表わしたかった。世の中の残虐性を歌った「ブルックリン最終出口」をやるには、コントラストとしてアンセムを作らなくちゃってことで「今日も生きたね」を作ったとも言えますね。疑うことがなかったら、信じることもできないから。過去曲のライブをやったとき、「ブルックリン最終出口」は大事な作品だって思ったので、このタイミングで再レコーディングしたかったんです。
EMTG:バンドの過去と現在を収めた、大きな意味のあるシングルになったね。そして、対バン・ツアー“The World Will Listen”が始まる。
小林:対バンでやることで、今まで会ってない人の前で演奏したいと思った。髭とかGalileo Galileiとか、不思議と縁のなかったバンドとやります。ぜひ見に来てください。
EMTG:ありがとうございました。

【取材・文:平山雄一】

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今日も生きたね

今日も生きたね

2014年05月14日

MERZ

1. 今日も生きたね
2. ブルックリン最終出口

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上條淳士
彼の描く世界の登場人物はみんな美しく、素敵な人が多いので検索しました。『TO-Y』という作品にすごく影響を受けたので、ぜひ読んでくれたらうれしいです。


■ライブ情報

BODY
2014/05/15(木) TSUTAYA O-EAST
w/ PLASTICZOOMS / Lillies and Remains

TOUR - The World Will Listen -
2014/05/17(土)岡山IMAGE
w/ Czecho No Republic
2014/05/18(日)梅田Shangri-La
w/ Chara × THE NOVEMBERS / DJ : DAWA(FLAKE RECORDS)
2014/05/30(金)仙台MACANA
w/ OGRE YOU ASSHOLE
2014/06/01(日)新潟CLUB RIVERST
w/ OGRE YOU ASSHOLE
2014/06/13(金)池下UP SET
w/ 後藤まりこ
2014/06/19(木)広島ナミキジャンクション
w/ 髭
2014/06/22(日)福岡DRUM Be-1
w/ 髭
2014/06/28(土)札幌COLONY
w/ Galileo Galilei
2014/07/11(金)六本木EX THEATRE
w/ ART-SCHOOL / STRAIGHTENER

※その他のライブ情報、詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。

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