ついに世に放たれる“セルフタイトル”シングル――今こそ4人で語り合おう。
THE PINBALLS | 2019.11.07
ボーカル&ギター古川貴之の喉の不調と治療のため、短期間ではあったがライブ活動休止を余儀なくされたTHE PINBALLS。結成以来、常に走り続けてきた彼らにとって、このような休止は初となった。とはいえ、その足踏みはバンドにとって逆に、ライブに対しての尊さや刹那、大切さを身を持って思い知れるトピックへと繋がっていった。
そんななか、本来は7月に開催予定だった自主企画イベント「THE PINBALLS presents “WIZARD”」も上述の事由で中止。そこで初告知/初披露される予定だったのがニューシングルのタイトル曲「WIZARD」であった。このタイトルは、彼らのバンド名の由来、The Whoの「Pinball Wizard」から取られたもの。自身を賭け、苦難を乗り越え、復活に至った今回のストーリーを予見していたかのような歌の内容も興味深い。
ニューシングル収録の4曲がまったく違ったアプローチと雰囲気ながら、共通して「オズの魔法使い」の要素を含ませているという今作を、メンバー全員に語ってもらった。
意外にも全員取材はEMTG MUSICでは初。より濃い話が訊けた。まずは先日のライブ活動休止中の胸中から問う。
THE PINBALLS「WIZARD」(Official Music Video)
- EMTG:結成して13年で初の活動休止とお聞きしました。これには皆さんもさぞかし戸惑ったのでは?
- 森下拓貴(Ba):いつかはこういうときが来る覚悟はしてました。驚きもしましたが、素直に受け入れられもして。正直若干の焦りがありはしましたけど、そこで無理をさせて症状を悪化させるよりかは、ここはきちんと治療してリスタートすればいいやと。ある意味、肝が据わってたのかも。やはりステージに立つ以上は、常に100%のライブをしたいですから。であれば無理せず回復を待とうと。
- 中屋智裕(Gt):もちろんいくつかのライブがとんだのは残念でした。周りにも迷惑をかけたし、ファンにも心配かけて申し訳ないという気持ちはありつつ、逆に時間が空いたこの期間があってよかったとも感じたんです。と言うのも、この期間があって、改めて余裕が持てたんですよね、心に。再度自分を見つめ直すきっかけにもなったし。なので正直、自分的には逆にリフレッシュできた面もありました。気持ちがさらにバンドと向き合えるようになったというか……。
- 石原天(Dr):自分的にもリフレッシュにはなったけど、フル(古川)の状態が判明するまではやはり心配でしたね。「もう声が出なくなっちゃうんじゃないか?」「もうこの4人で続けられないんじゃないか?」とか考えちゃって。でも治療すれば、また一緒にできるということだったので、そこでようやく安心できました。
- EMTG:古川さん、その声の不調は突然現れたんですか?
- 古川貴之(Vo):いや、以前より喉の調子がおかしいときがあったんです。喉の回復力が段々と鈍ってきて。自分からしたら、年齢的にも声の衰えに向かっていっているのだろうと考えていました。結果、医者に診てもらったところポリープが原因だったことが判明して。そこで逆にホッとはしましたけど、一時期は「俺の声ももう終息に向かっているのかも……」なんて心配さえしていましたね。
- EMTG:その後、8月の「ROCK IN JAPAN FESTIVAL」で再びステージに戻れたときの喜びみたいな感覚は覚えていますか?
- 古川:感動的ですらありましたね、あの日は。やはり療養期間中は声を出すこと自体が一切NGだったので。それが個人的には非常にツラくて。もう歌いたくて歌いたくて常にウズウズしてました。でも、そのおかげで純粋に心から「歌いたい!」と思えるようになれて。1発目のスタジオに入って歌ったときには、新鮮でとても感動しました。思いましたよ、ほかのメンバーも1ヵ月ぐらい楽器を絶って、改めて楽器に向かったら、より演奏やライブが尊いものになるんだろうな……って。もちろんオススメはしませんが(笑)。
- EMTG:なまっちゃいますよ(笑)。では今回の活動休止は、再び歌をうたう尊さを芽生えさせてくれた出来事でもあったと。
- 古川:ですね。あと、やっぱバンドの中で歌いたい――この3人と一緒にやりたいと心から何度も思わせてくれました。療養中はそれこそ一緒にバンドやってる姿ばかり想像してましたから。実際にまたみんなと合わせてみて、改めて感じましたもん。「バンドっていいな。かっこいいな……」って。それこそ再会1発目のスタジオは、まさにバンドを組んで最初に音を出したときの衝撃や喜びに近いものがありましたから。
- EMTG:何か蘇るものがあったと。やはりバンドならではの化学変化やマジックも起こりそうですもんね?
- 古川:「これだよ、これこれ! 気持ちいいよ!」って再確認できました。もちろん技術的な面は落ちてるかもしれないけど、その分、歌える、みんなと一緒にまたできる。そんな喜びで溢れてました。
- 森下:自分たちも、蘇るよりかはバンドを始めたときのあの感覚を久々に思い出しましたね。いや、その頃よりも待ってくれていた方々が大勢いた分、より楽しかったし嬉しかったです。正直、当初は頭の中でいろいろと考えてましたけど、気づいたらそんなこと全部どうでもよくなっちゃってて(笑)。すごく楽しいステージだったし、あっという間でした。
- 中屋:自分はいつもどおりやるだけだったし、さらにその気持ちが強くなっていきましたね。常に自分がお客さんとしてそのロックバンドに望んでいるビジョンを思い描いて、そこに向けてできるようになったというか。当日も「待たせたけど、ようやくみんなの前で演奏できるよ」なんてドラマティックで感動を誘う演出はいらないだろうと思ってたし。やっぱり復帰を待ってくれていた人たちが最も望んでいるものって、自分たちが全力でライブをすることでしょうから。もともとロックンロールなんて深く考えずに楽しくやるもんだろうし。
- 石原:僕も「復帰ライブ!」みたいな概念は一切なかったですね。それこそいつもどおりやるし、それができたライブだったかなって。かなり気合いも入って、叩いててすごく興奮しましたけど、正直内容はほとんど覚えてません。気がついたらライブが終わってました(笑)。
- EMTG:そのバンドの丸腰感が表れていたのが先日の新宿LOFTでのワンマンでした。これはもう装飾などもシンプルで。
- 古川:俺は歌うだけ、それしかありませんでした。歌ってる最中に何度も幸せだなって実感したし。とにかくみんながいてくれて、その前で気持ちよく歌えるのって、実はめちゃくちゃ奇跡的なことだったんだなって改めて気づきました。それがおまじないやお祈りのような些細なものに近いんだと感じ始めている自分もいたりして。いわゆる大げさなものではなくなってきたというか。
- EMTG:その辺りをもう少し詳しく。
- 古川:これまでは「みんなを感動させたい!」「イリュージョンのような素敵なライブを提供したい!」、そんなことばかり考えて挑んでいたんです。それが些細な願いやお守りみたいなイメージへとシフトしていったんですよね。
- EMTG:そんな新宿LOFTでは、新作のリリースもようやく発表できたし、いち早く「WIZARD」も演奏してましたね。
- 中屋:いちばんは会場に来てくれた人たちが待っていてくれたなかで、そのタイミングで発表できてよかったなって。活動休止する前から楽曲自体は完成していましたけど、期間があった分、自分も待ち焦がれていたし。ようやく披露できた実感が強くありました。その辺りは会場に来ていた方々と近い心情だったのかなって。
- EMTG:作っていたときと今回の活動休止を経て鳴らしたときとでは、歌に込めた気持ちや演奏の響き方も違っていたのでは? 当初は机上での想像だったのが、実際に近い経験をして、尊さを手に入れ、より信憑性を得たうえでの歌や演奏へとシフトしていったのではないでしょうか?
- 森下:予定より約2ヵ月経っちゃったけど、ライブでやったときにはその日が披露するベストのタイミングだと思ったし、ここで歌うためにこれまでの期間があったのかもしれないとさえ感じましたから。あとは日数が空いた分、自分たちでもよりしっくりくるようになったし。7月に早熟な状態でやるのもありだったかもしれないけど、自分たちの中で溜めた分、より自分たちのものにできた状態でみんなに届けられたのはよかったです。
- EMTG:この「WIZARD」は、みなさんの中での新たなキラーチューンのように響きました。
- 古川:自分的にはとてもシンプルなものが出来たかなと感じていて。元々直球しか投げられないバンドですけど、今回は特に剛速球でど真ん中めがけて力いっぱい投げようと挑みました。
- 森下:冷静に聴くと色々な要素を詰め込んではいますが、それが複雑に感じないようにはうまく出来たかなって。結構コロコロと展開してはいますが、実際自分たちでやっている分にはまったくそう感じなくて。サクッと、だけど心に色々と感じてもらえる、そんな楽曲になったかなと。
- 中屋:バンドとしても楽曲としてもギタリストとしても、かっこいいものが今回も出せました。やはり、かっこいいが前提であり、自分たちのベストでもありますから。勢いがあるけど会場が一丸となって楽しめる、かつやっている自分たちも楽しい。そんな楽曲ですかね。
- 石原:もちろん色々と変化をさせたり、転がったりもしていますが、それを感じさせずスムーズにいくようには叩けたかなと。自分としてはかなりストレートなものが仕上がった自負があります。
- 古川:歌詞にしても、今回はあえてかなりシンプルに、わかりやすく伝わるようにしました。とはいえ、元々格言や現代詩が好きだったりするので、どうしても独特なものになっちゃいますが(笑)。今回は聴いていてパッと情景が浮かびやすいことを意識したかもしれません。
- EMTG:歌の内容的にも「魔法」がキーワードとしてありそうで。「今は劣勢かもしれないけど、いつかは優勢にすべてを変えてやる!」、そんな気概が楽曲に込められている印象を受けました。
- 古川:これも休業して改めて再確認できたんですけど、僕はこの曲で「蘇る」的なことを言いたかったんだろうなって。
- EMTG:ここまでの皆さんのストーリーがゆえの信憑性は、先日の新宿LOFTでの初披露の際にも非常に感じました。「信じないと蘇らない」、その辺りのメッセージを非常に感受したんです。
- 古川:不思議なことに、結果、今回は予言のような曲になりましたからね。自分が書いたことが実際に起こったり体験したりと。そういった面でもやはり自分はこれが伝えたかったんだろうなって。いわゆる、「蘇る」や「自身を取り戻す」的なことを歌いたかったんだろうと思います。
- EMTG:「WIZARD」は皆さんにとっても重要なキーワードじゃないですか。そもそもバンド名からしてThe Whoの代表曲の「Pinball Wizard」から取られてたりするし……。
- 古川:ある種、勝負曲のつもりでもあったんで、ついに付けたって感じです。自分たちとしてはセルフタイトルのような感覚でもあって。で、何故それをつけたのかと言うと、そこにバンドの危機や死を感じたからなんです。死を感じているからこそ人は懸命に生きるし、自分の存在意義を自問するわけで。がゆえに、自分のバンド名を懸けた勝負に出たところはあります。
- EMTG:まさに「Pinball Wizard」の原曲の映画(『Tommy』)の内容ともリンクしますね。
- 古川:そうなんです。あの映画の主人公のTommyもずっと危機的な状況に置かれてましたから。だからこそピンボールが上達していく。もはや懸けるものがそれしかない。内容もシチュエーションもまったく違いますが、根底の部分ではその辺りが共通しています。
- EMTG:それにしても、今作は4曲入りですが4タイプ様々です。特に「bad brain」と「ばらの蕾」はこれまでのみなさんには無かったタイプの楽曲だなって。
THE PINBALLS Major 2nd single『WIZARD』trailer
- 古川:そうですね。なかでも「ばらの蕾」に関しては、初めての感触の歌詞や楽曲に仕上がりました。この曲だけ療養期間後に作った楽曲なんです。当初は3曲入りの予定だったんですが、どうしてもそれだと作品の締めとして物足りなさがあって。この曲こそ期間が空いたがゆえに生まれた曲ですね。当時の精神状態がよく表れています。何かに包まれて見守られて育っていくというか……。でも今回4曲入りですが、これは僕の癖で、どうしても4だったら“4”という数字で捉えたり、物語を作り出したりしたがるんですよね(笑)。なので魔法に絡めて、「オズの魔法使い」の4人の登場人物、ドロシーと案山子とブリキとライオン、それぞれを各曲の歌詞をに当てはめてみたんです。
- EMTG:それはどの曲に誰が当てはまるのですか?
- 古川:「WIZARD」が家に帰ると歌っているのでドロシー、「統治せよ支配せよ」は臆病ライオン。「bad brain」は頭がよくなりたい案山子で。最後の「ばらの蕾」は自分の動きがまったくとれないブリキ男と、4つの感情と重ねてみました。特に「ばらの蕾」は後半、バンドに出会って生命力が溢れる場所まで一緒に向かっていく。それが「オズの魔法使い」の4人と重なる。その辺りはうまく表せたかなって。おかげさまでその部分も、ここ数カ月の自分の信条や療養、復活と重ねることができて、自分的にもかなり面白く、興味深いシングルになったと感じています。その辺りも色々と詮索しながら聴いてもらえると、より楽しめるのではないかなと。自分たちにとっても「自身を懸けた勝負曲」なので、ぜひみなさんに聴いてもらいたいです。
【取材・文:池田スカオ和宏】
リリース情報
WIZARD
2019年11月06日
日本コロムビア
01.WIZARD
02.統治せよ支配せよ
03.bad brain
04.ばらの蕾
02.統治せよ支配せよ
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04.ばらの蕾
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