布袋が楽しそうに演奏する姿が、とても印象的なライブだった。

　“GUITARHYTHM GREATEST HITS & REQUEST”と題されたとおりのセットリストの明快さもさることながら、メインタイトルの“TONIGHT I’M YOURS!”には布袋の強い思いが込められている。オーディエンスを楽しませたいという彼の欲求が、ここまでストレートに出たライブは今までなかったように思う。そのストレートさは、結果、布袋自身がライブを楽しむことに直結していた。30周年を飾る今年のスペシャル・ライブの一回目の武道館で、エンターテイナーとして別次元のレベルに達した布袋は、そのままの勢いでこの代々木に臨み、誰も実現したことのない歓びの表現を見せてくれた。その極みは、アンコール最後の曲で訪れるのだが、その話は後回しにする。

　2曲目「スリル」で布袋が♪俺のすべては　お前たちのもの♪と歌詞を変えてこの日のライブの意図を伝えると、会場は熱いコールで応える。

　次の「IMAGE DOWN」は、BOφWYの頃のままのアクションで布袋がギターを弾き、オーディエンスが歌う。先の武道館で「君がボーカリストになってください。僕はギタリストでいましょう」と言って披露さ れた「CLOUDY HEART」と同じやり方で、このスタイルがすでに布袋のライブの定番になったかのようだった。観客はためらいなく、すぐに歌い出した。こんなやり方は布袋にしかできない。また、BOφWYナンバーは、彼のギターがあってこそ成立していたのだと、改めて痛感させられた。それこそ、作詞・作曲とともに“ギター布袋寅泰”とクレジットされるべき音楽の核心を、彼のギターが負っていたのだ。

　「BLUE VACATION」からゲスト・ボーカルにGLAYのTERUが登場して会場を沸かせる。マニアックなファンの心を揺さぶったのは、 「1994-LEVEL OF COMPLEX」だった。

　途中、バックボーカルのPERSONZのJILLが、ソウルフラワーユニオンの奥野真哉のピアノ で「DEAR FRIENDS」を歌うと、被災地を思って会場全体が大合唱になる。

　終わると同時に、会場のフロア中央に設置された花道の先端にギター・トリオのセットが組まれ、ここからがこの日のハイライトとなった。布 袋の生ギター、中村達也のスタンディング・ドラム、井上富雄のアップライト・ベースが、最小限かつ最高のパフォーマンスを繰り広げる。特に「MERRY-GO-ROUND」は、聴いていてそのスピード感に、ケツが浮いてしまうほどグルーヴィーだった。

　ところで最小限といえば、この日のライティングがよかった。代々木体育館の非常用電源でまかなえる 範囲でプランニングされたという照明は、とてもセンスが良く、きれいだった。このあたりも、スタッフを含めてベテラン実力派の底力を見る 思いがして、気持ちがよかった。

　そしてライブの最後の最後である。2度目のアンコールの「FLY INTO YOUR DREAM」で布袋は、花道でギター・ソロを心を込めて弾きまくった。バンドも素晴らしく、特に奥野のピアノは布袋の新境地にピッタリ合っている。日本最大級のアリーナを、ギター一本で陶酔させることができるのは、布袋しかいない。
彼が文字どおり“みんなのギタリスト”になった瞬間 だった。歌以上に歌うギターが、大きな空間の隅々にまで沁みていく、感動的な時間だった。そして、このライブの底に流れている“震災 への鎮魂”というテーマの深さと真摯さが、オーディエンスを明るく照らしていたのだった。

　秋にはツアーに出るという。すでに待ちきれない思いで、会場を後にしたのだった。

【文：平山雄一】
【撮影：橋本 塁／平間 至／山本 倫子】