開演前から東京国際フォーラムは“布袋コール”が飛び交っている。布袋のシルエットが描かれた幕が上がり、それと同じポーズを取った布袋寅泰が現われると、２階席は早くも大揺れ。そう、フォーラムの２階最前列は、構造上、日本のコンサート会場の中で最も揺れるシートだ。そこに布袋ファンの興奮が載せられているのだから、たまらない。おそらくイギリスからこのアニバーサリー・ライブを観にやってきた音楽関係者は、揺れに驚きながらもオーディエンスのハッピーなパワーを感じて、笑顔で１階席を覗きこんでいる。さあ、30周年お祭りライブの開演だ。

　１曲目から飛ばす、飛ばす、特に中村達也のドラムが素晴らしい、活き活きしたビートが“歌って”いる。と、サビに差し掛かると、今度はオーディエンスが歌い始めた。それを受けて布袋自身はマイクから離れる。気持ちよくサビを歌い続けるオーディエンスたち。「スリル」の♪俺のすべてはおまえのものさ♪という歌詞そのままの光景だ。まるで布袋が“俺のサビはお前達のものさ”と言っているようで、彼とファンのつながりの熱さを感じて嬉しくなる。

「20周年、25周年は軽く飛び越えてきたけど、30周年は特別。というのも、僕は来年50才になる。19才で始めて、49才。50才になったら大人になれるのかなという思いで、ここに立ってます。今日は布袋のサウンド、スタイル、スピリットを味わってもらおうと思ってますので、楽しんで帰ってください」。
　布袋の話しぶりはとても優しく、思わず“ジェントルマン”と呼びたいくらいだ。そんな紳士のマナーの一端のように、演奏曲目によって当時使用していた ギターに律儀に持ち替える。
「MARIONETTE」などのBOφWYのナンバーは白黒の幾何学模様のテレキャスター、COMPLEXの「BE MY BABY」は赤いカスタム・ギター、ソロではゼマイティスやストラトキャスターなどを使い分ける。また布袋の曲を様々なアーティストがカバーしたアルバム『HOTEI with FELLOWS ALL TIME SUPER GUEST』の曲では、オリジナルではなく“カバー・バージョン”のアレンジを採用したりする。まさに布袋の音楽を愛するスピリットと、柔軟性のあるスタイルを見せつける。

　中でも「BOφWYで活動したのは６年で、けっこう短い。ソロのキャリアの方が長い。26才の俺が『GUITARHYTHM』という思い切ったアルバムを作って、そこからソロをスタートしてよかったと思ってます。最高作のひとつです」と自ら語って演奏した「GUITARHYTHM」がスリリングだった。

　2011年２月の武道館、５月の国立代々木競技場第一体育館のライブではサポート・ボーカルが参加していたが、今回は全曲、布袋自身が歌う。ツアーを経て、BOφWYやCOMPLEXのナンバーが彼の血肉となって、聴く者の耳を惹きつける。ボーカリストとしての魅力が、一段と増している。おそらく今後の布袋に、それは大きな財産となるだろう。
　 終盤の「バンビーナ」で客席のライトがすべて点灯され、布袋はその中で ダックウォーク(注：ロック・レジェンドのチャック・ベリーが得意とする、片足でケンケンしながらギター・ソロを弾くパフォーマンス)を披露。会場は大喜びだ、そして、その光景はすべて布袋に見えている。もちろん、布袋は満面の笑み、だ。

ドラムの中村達也を初め。ベース井上富雄、キーボード奥野真哉、岸利至という凄腕メンバーは、アンコールに入ってさらにパワーを上げてくる。布袋にしてこのバンドあり！ベテランのロック・リスナーから、 若いオーディエンスまで、すべてを楽しませる演出とセットリストだ。こうして最強の30周年ライブは、ラストまで一直線にロックンロールしたのだった。

【 取材・文：平山雄一 】

【 撮影：平間 至 】