まるでファイナルのような充実感と幸福感に包まれた熊木杏里@東京国際フォーラム ホールC
熊木杏里 | 2011.12.27
すべての照明が消え、BGMも消え、ただただ静かで真っ暗な空間が広がった。
<死ぬの 死ぬの ぼくら いつか はなればなれになる>
闇の中からゆっくりと聴こえてきたのは、そんなインパクトある一節をアカペラで歌う彼女の声だった。呼吸もまばたきも忘れてしまうようなオープニング。地平線から朝日が昇るようにステージの幕が上がると、そこには一人ピアノに向かう彼女の姿があった。
一瞬で全員の耳と心を釘付けにしてスタートした「熊木杏里TOUR 2011「and...Life」の東京公演。1曲目は、ひと言ひと言ていねいに、側にいる誰かに語りかけるようなピアノ弾き語りで歌われた「hotline」だ。澄んだ歌声が、国際フォーラムの高い高い天井へと舞い上がって行く。続く、「Hello Goodbye&Hello」でキーボード、ギター、ベース、ドラムが加わると、さっきまでステージと客席に漂っていた独特の緊張感がとけ、会場は5人が作り出す柔らかなグルーヴに包まれ始めた。生きることと真正面から向き合った「戦いの矛盾」や「朝日の誓い」など懐かしい曲も披露されたが、楽曲そのものが持つ色褪せない魅力にバンドのメンバーと作り上げる「今」の呼吸感が加わって、とてもフレッシュな印象になっている。CDとしてリリースされた頃とは心境も変化してきたのだろう、歌声そのものに宿る前向きで包み込むような優しさが、過去の楽曲達の新たな表情を引き出していた。
中盤は、そんな彼女の心を真っ直ぐに伝えてくれるような選曲。希望の光を感じさせてくれるような鍵盤から始まる「春の風」、深い海の底のような照明の中、ギターがクジラのように鳴いていた「クジラの歌」、CMでも強いインパクトを残した「新しい私になって」など、1曲1曲歌うごとに、ステージから伝わってくる空気が柔らかいものになっていく。そんな中、1月にリリースされるニューシングル「今日になるから」もいち早く披露。この曲は3月の地震で被害を受けた故郷・長野を訪れたときに感じた気持ちを歌にしたそうだ。
<生きよう 生きよう 新しい日々を始めよう><きっと未来は 今日にあるんだ>
心の底から大切な人たちを思う彼女のストレートな思いが、あたたかいメロディーとともに心に広がっていく。信じること、願うこと、想うこと…。等身大のエールを受け取った客席からは、ひと際長い拍手が贈られていた。
この日は、カップリング曲「お祝い」のアレンジを手がけた塩谷哲が東京公演だけのスペシャルゲストとして登場。「お祝い」そして2人でレコーディングをしたばかりだという未発表曲「ファイト」を披露した。熊木が思わず「ピアノの世界の王子様ですか(笑)!?」とため息混じりの感想を漏らしていたが、寄り添い合う2人の心のあたたかさが伝わってくるような、ハートフルなコラボレーションだった。
クリスマスも近いということで、「星に願いを」のカバーからスタートした後半戦。メンバー紹介の拍手をそのまま次の曲のクラップへと持ち込み、ここからは客席も総立ちとなってのアッパーチューンが続いた。客席との距離を一気に縮めながら晴れやかな表情で歌う「晴れ人間」、「be happy!!」。「雨が空から離れたら」を歌い終えると、ステージと客席がお互いに拍手を贈り合った。 「みんな最高だよ!ありがとう!何だか今、いちばん自分のこと愛せたかも(笑)。みんなもそうであってほしい!」
幸せな気持ちを分け合いながら、本編のラストはアルバム「and...Life」の軸ともいうべき「Life」で締めくくられた。
<これからのスタートにかけてみたい チャンスなら掴みたい>
彼女の中に芽生えたその熱い気持ちに共鳴するように、会場からはこの日いちばんの熱くて長い拍手が寄せられていた。
アンコールでは、福島にヒマワリを咲かせるためのプロジェクトのイメージソングとして書き下ろした「太陽の種」と、「ホームグラウンド?ふるさとへ?」の2曲が歌われた。暗闇の中から聴こえてきた彼女の声が、今はまぶしい笑顔が咲く客席に溶け込んでいる。10周年となる2月にはフル・アルバムがリリースされ、5月に渋谷公会堂でのワンマンが決定したことも発表。まるでツアー・ファイナルを迎えたかのような充実感さえ漂う、喜びと光あふれるエンディングとなった。
【 取材・文:山田邦子 】
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リリース情報
セットリスト
- hotline
- Hello Goodbye&Hello
- ひみつ
- 私をたどる物語
- 戦いの矛盾
- 明日の誓い
- 春の風
- クジラの歌
- 今日になるから
- 新しい渡しになって
- 誕生日
- お祝い
- ファイト
- 星に願いを(カバー)
- 晴れ人間
- be happy!!
- 雨が空から離れたら
- Flag
- Life ENCORE
- 太陽の種
- ホームグラウンド~ふるさと~