熊木杏里インタビュー特集、第1回「熊木杏里というアーティストとは?」
熊木杏里 | 2011.09.22
これまでに6枚のオリジナル・アルバムを発表し、昨年は初のベスト・アルバム「風と凪」をリリースした熊木杏里。今年は新曲「Hello Goodbye&Hello」が映画「星を追う子ども」の主題歌となったり、クリエイター・箭内道彦が監督を務めたTBCエステチケットのCMソング「hotline」を歌うなど、透明感ある彼女の歌声と高いクオリティーを誇る楽曲は、引き続き数多くのメディアとのコラボレーションを実現させている。
EMTGでは、10月5日にレコード会社移籍第1弾となるミニ・アルバム「and...Life」をリリースする彼女を2回に渡って特集。第1回目となる今回はシンガーソングライター・熊木杏里のこれまでを振り返り、新作へと投影されていく彼女自身の変化を追った。
- EMTG:熊木さん、ご出身は長野ですよね。
- 熊木杏里:はい。父親の転勤で11歳から東京なんですけど、おじいちゃんもおばあちゃんもまだ長野にいますしね。"杏里"は"あんずの里"ってことで長野の名前でもあるから、長野出身ってことはとても大事にしてるんですよ。年に何度かですけど、長野にはやっぱり「ただいまー!」って気分で帰ってますね。
- EMTG:11歳までいたってことは、学校とか友達とか街の風景とかの記憶もしっかり刻まれてるんでしょうね。
- 熊木杏里:そうですね。むしろ、そっちの方が強く記憶に残ってるぐらい。だって東京に越してからは、お父さんとも一緒に遊ばなくなったりしましたしね。川も山もないから。だから、私が大好きだった家族の姿とか友達との付き合いっていうのは、全部長野にある気がするんです。
- EMTG:じゃあ東京に引越したことは、自分の人間形成みたいな部分への影響も大きかったですか。
- 熊木杏里:大きかったですね。長野時代の私を知ってる友達は、私の1stアルバムの「殺風景」を聴いて度肝抜かれてましたからね。杏里ちゃんがこんな悲しそうな声で歌ってるなんて、何があったんだろうってビックリしてたらしいんです。でもそれからだんだんと、資生堂のCMソングになった「新しい私になって」あたりからは杏里っぽい感じになったねって言ってくれてましたけど。たしかに子供の頃を思い返してみると、東京で悩むことも多かったですからね。友達付き合いとか。
- EMTG:音楽を始めたきっかけもそのあたりにあるそうですね。
- 熊木杏里:はい。友達に対して全然自分のことを言えなくて、仲間にも入っていけなくて…。そんなとき、「自分の思いを書いてみれば?」って父が言ってくれたことがきっかけで曲を作り始めて、自分と対峙するようになったんです。
- EMTG:セラピーみたいな役割りがあったんでしょうね。
- 熊木杏里:そうそう。だから私は音楽的なところから始まっているんじゃなくて、まずは言葉を書くっていうーーたとえば「風」と書いたら、その形からメロディーが生まれるぐらいな感じなんですよ。今もそうなんですけど、私は真っ白い紙を置いて歌詞を書くんです。昔から、この真っ白い紙にだけは正直に自分の気持ちを言えた。それは誰にも邪魔されない時間というか、圧倒的に「無」な時間なんですよね。うん、気持ちいい時間なんです。
- EMTG:それくらいしっかり心と結びついてるんですね。だからこそ、長野時代を知ってる友達が歌を聴いてビックリされたんでしょうね。
- 熊木杏里:あぁ、なるほど。
- EMTG:歌声が悲しげに聴こえたっていうその時期を、いま熊木さんはどんな風に振り返ります?
- 熊木杏里:私、悩んだりしてる自分も何気に好きだったりするんですよ。(井上)陽水さんがとっても好きだったので、ちょっと悲観的に生きていくことが悪いことではないんだっていう気持ちもあって。だから、意図的でもあったんです。「この暗い気持ちは何なんだろう???じゃあ曲にしよう」って。自分としてはすごく"そのまま"だったんです。悩んではいたんだけど、歌があったから自分は大丈夫っていう、ちょっと変な感じでもありましたね。ただあまりにもそういう自分がいると、ぶつかってくる壁というか、「あれ?このままじゃいけないなあ」って思う時期もやって来て。そうすると、「じゃあ次はこういう自分になったらいいのかもしれない」って思うんですよ。「こういう人としゃべる時に、こういう自分だったらきっとこういう会話が続いていくんじゃないかな。そしたらこういうイメージが待ってて…」って未来がパーッと浮かぶと、そういう自分の行動や発言を増やしていくんです。
- EMTG:そうやって変化させて来た、と。
- 熊木杏里:今までだったらこういう風に言うところをこんな風に言ってみて、それで自分自身に言い聞かせるというか…。そうやって、自分を変えていったんです。そうすると、なんか気持ちが明るくなっていったりして、いろんな話がーーそれがちょうど「新しい私になって」だったりするんですけど、曲を書いて下さいみたいな話とかが来たんですよ。なんかそういう見えないものがあるんだなあって感じ、しますよね。
- EMTG:連鎖していくものがありますね。だけどそういう変化も連鎖も、自分自身がブレてたら成立していかないような気がします。
- 熊木杏里:そうなんですよね。自分の中にブレないものがあるからこそ、変化もしていけるんだと思います。何があっても、生まれてくるのは絶対に熊木杏里から生まれて来てるものだからっていう信頼感が今も昔もあるので、その部分は何にも怖くないんですよ。だからいろんな人と出会いたい、いろんな人と(音楽を)やりたいって気持ちにつながってここまでやってこれたんです。
- EMTG:なるほど。
- 熊木杏里:でも、ここ最近はまた少し違って来てて。今までって、そうやってどこか"旅"をして来たような気がするけど、今はそこからもうちょっと固めていきたいなっていうのがあるんです。一緒に音楽を作っていく人と共に、「熊木杏里」を作っていくっていうかな?今はそういう出発点でもありますね。ここからまた違う物語が始まっていくんだなって感じがしてます。
- EMTG:10月にリリースされるミニアルバム「and ... Life」は、まさにそのスタートとなった作品のようですね。
- 熊木杏里:これまでの作品と何が違うってハッキリはわからないですけど、明らかに今の曲たちの方がイキイキ聴こえるなっていうのはありますね。過去の作品ではちょっと難しい言い回しをしてるものもあって、「詞だけ読んでもすごくいいよね」って言われる方もいらっしゃったんですけど、今回は言葉もわかりやすいし、メッセージも明確だったりするので、「曲」としてスッと入っていくようなものになってると思うんですよ。故郷のことや結婚の歌、生きていくことについてとか、自分が毎日生きていく中で感じていることを、ちょっと前の熊木杏里とは違う形で表現できました。よりみんなの生活の中に寄り添っていけるようなテンションや言葉になってると思うから、以前よりもう少しわかりやすくみなさんに届けられるアルバムになったのかなって思います。
- EMTG:次回は、そのアルバムについて詳しくお話を伺いたいと思います。ありがとうございました。
【 取材・文:山田邦子】
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クジラにも歌声があるって話を聞いて検索してみました。実際はそんなにロマンチックなものじゃなかったけど(笑)、クジラ同士には伝わってる何かがあるんですよね。そんな思いを膨らませながら「クジラの歌」という曲を書いてみましたので、ぜひ聴いてみて下さい。