「奇跡を望むなら...」「明日がくるなら」など、数多くのヒットを放ち、今やJ-POP界を代表するシンガーのひとりであるJUJUだが、かつてはジャズ・シンガーを志して単身渡米し、以後10年以上、NYのジャズ・クラブ等で本場の凄腕ミュージシャン達と共にステージに立ってきたことは、ファンならご存知のことだろう。“J-POP”と括られる楽曲を歌っても、その後ろにはジャズやソウルなどのバックボーンが透けて見えるし、そこが他のJ-POPシンガーにはない、彼女の最大の武器だと思う。それを踏まえて考えれば、昨年11月に彼女がジャズ・アルバム『DELICIOUS』をリリースしたのはある意味当然のことであり、彼女にとってもまさに念願の一枚であったはずだ。“ノリでジャズを歌ってみちゃいました”といった類（たぐい）とはまったく違うのである。

　そんな渾身のジャズ・アルバム『DELICIOUS』を引っ提げて、ジャズ・クラブの総本山、Blue Note Tokyoにて行われたJUJUのジャズ・ライヴ“Jazz Tour 2012?DELICIOUS?”。Blue Noteでライヴを行うのはこれで二回目だが、「特別な場所」と本人も話す通り、今回も並々ならぬ思いを持ってステージに上がったようだ。黒いドレスを纏って登場したJUJUは、最近ではレディ・ガガがトニー・ベネットとデュエットしたことで注目を集めた「The Lady Is A Tramp」を軽やかに披露。ブロードウェイ・ミュージカル「青春一座（Babes In Arms）」の劇中歌として知られ、フランク・シナトラやエラ・フィッツジェラルドなど多くのシンガーが歌ったスタンダード・ナンバーを歌うJUJUはいつも以上に艶っぽく、スタート早々からその色香にうっとりしてしまう。その後『DELICIOUS』収録の「Candy」（この曲を歌った代表的なシンガーはナット・キング・コールなど）を挟んで、「Fever」（ペギー・リーなど）、「Black Coffee」（サラ・デヴォーン、ペギー・リーなど）を披露。「恋をして熱（“Fever”）が出るんじゃないかってくらい、その人に夢中になって。けどその後には“Black Coffee”を飲んで煙草を吸いながら彼を待つ日々が来るんですよね……」と曲の簡単な説明をしてくれた後で歌ってくれるので、日頃ジャズに馴染みのないリスナーもすっと歌世界に入ることができるし、JUJUの妖艶な歌声がその歌詞の世界を更にドラマティックに盛り上げる。『DELICIOUS』のサウンド・プロデューサーである島健氏のピアノをはじめ、凄腕ミュージシャン達による演奏もステージをゴージャスに彩っていて心地よさこの上なしだ。

　その後も、「ブラック・コーヒーを飲みながら待ったあの人と結婚して。けどある日フレンチ・カフェで旦那さんが女の人といちゃいちゃしてるのを目撃するんですね。帰ってきて尋ねるんですよ。“今日、誰を観たと思う？”って……」と話した後に歌った「Guess Who I Saw Today」（ナンシー・ウィルソンなど）、「“Quizas”って“多分”っていう意味。“多分ね”ってはぐらかせてばかりいちゃダメですよ、男性のみなさん！」と男性陣に喝を入れた（？）「Quizas, Quizas, Quizas」（ナット・キング・コールなど）、「大好きな曲」と話す官能的な「The Island」（パティ・オースティンなど）などを歌い、「夏なのでこの曲を。けど夏っぽい曲ではないですが……」と言いながら歌った「Summertime」（ビリー・ホリデイ、マイルス・デイヴィスなど）で本編は終了。アンコールではこの日唯一の日本語オリジナル曲で、10月にリリースとなる新曲「ありがとう」を披露。ピアノとギターだけの特別編成でしっとりと且つ情熱的に歌い上げ、感動渦巻く中この日のライヴは終了した。今後もヒット・チャートを賑わす楽曲を多くリリースするだろうが、彼女の根本にあるジャズを歌い続けてほしいし、ジャズ・ライヴも頻繁に行ってほしい。そう思わずにはいられない一夜だった。

【取材・文：川口真紀】
【撮影：上飯坂一】