The Birthdayにクアトロはよく似合う。渋谷のライブハウスの中ですでに老舗のポジションにあるクアトロだが、ニューカマーからベテランまで、連日充実したライブが行なわれている。中でもThe Birthdayはこのところ、ここ渋谷クアトロではリラックスしたライブを展開。刻々と変わるバンドの姿が顕在化する場所となっている。そしてこの夜、僕はこの最もバンドらしいバンドに変化の予兆を読み取ったのだった。

　いつものBGM「16candles」が流れると、カウンター前にいたオーディエンスが一段低いフロアになだれ込んでバンドを待つ。最後にチバユウスケが登場して「ハロー！」 と一声叫ぶと、クアトロは一気にThe Birthdayの色に染まった。
　チバとフジイケンジの２本のギターが、黒く絡み合う。この場合の“黒”は、ブラックミュージックではなく、ギターの絡み具合の“ストーンズ度”を形容する言葉だ。２本のギターがそれぞれのグルーヴを主張し合いながら、サウンドを形成する。この夜は、途中からそこに割って入ったヒライハルキのベースが凄かった。このところ特に存在感を増しているヒライは、しばしばバンドのグルーヴの中心になる。１曲目「カレンダーガール」ではほとんどブルーノートを使わず（注：このあたりが黒いのだ！）、ドラムのクハラカズユキと組んでバンドのボトムを固める。アッパーなオープニングに、 待ちかねたオーディエンスは歓声を上げる。それにしても、年末に“カレンダー”って、季節モノっぽくて、いいなあ（笑）。立ち上がりの４曲は、どっしりしたビートあり、シャープに跳ねるビートあり。特に3曲目の「ホロスコープ」でのヒライのベースは、ワンコード（注：ずっと一つのコードで押すパート）で威力を発揮。ストレートなプレイでオーディエンスの身体を揺らす。

　この夜の聴きどころは、「シルエット」から始まった。♪シルエットは思ったより長くて僕は巨人になってた♪という独特のフレージングがはっきり聴こえて、脳のイメージ野を激しく刺激する。ビートはひたすらタイトだ。続いては「LEMON」。このツアーのテーマのひとつである ニューシングルが、ここで演奏される。本編の最後かアンコールでやるのが普通なのに、中盤でやってしまうとは！　オーディエンスもイントロのフジイのギターのメロディで気付いて、「ウォー！」っと叫ぶ。ドラムとベースだけのAメロは、スリリング。サビでその緊張から解放されて訪れるカタルシス。
　僕はここであることに気付いた。フジイのギターが、いつもと違っていたのだ。 ３年前、彼が加入したとき、当然、The Birthdayの音楽に変化が起こった。このバンドの重要な要素にビートと歌があるなら、フジイは歌に沿ったギターを弾いていて、バンドに“パブロック”のニュアンスを加えた。それは横に揺れるグルーヴでもあり、歌に豊かさを与えていた。しかし、「LEMON」でのフジイのギターは、言ってみれば縦一直線。切り裂くようなギターを弾いた。フジイの持ち味にはバリエーションがあるが、バランスが変化してきていることを新曲「LEMON」で実感した。もちろんその変化には他の３人が関与しているのだが、The Birthdayがまた次のディメンジョンに移行したことを痛感して楽しくなった。これだから、バンドをずっと聴き続けることは止められない。

　さらに10曲目「Red Eye」は、チバがハンドマイクで歌う。ギター・トリオが繰り出すシャッフル・ビートは、心臓が飛び出しそうなまでに跳ねていて、最高にグルーヴィーだ。するとチバがブルースハープで演奏に参加する。ハープ、ギター、ベース、ドラムのそれぞれが短いソロを取って、これ以上ない“メンバー紹介”になった。フロアはダイブが連発する盛り上がりだ。

　この後、テンションは下がることなく終盤へ。「涙がこぼれそう」から「READY STEADY GO」まで一気に。驚いたのは、本編最後のセカンドアルバム『TEARDROP』収録の「KAMINARI TODAY」だった。渾身のバラッドを歌うチバを、フジイのギターがエモーショナルにサポートする。「LEMON」とは正反対のアプローチで締めくくる懐の深さに、The Birthdayというバンドの今を見た気がした。やはりThe Birthdayにはクアトロがよく似合う。またここで観たいと思った。

【取材・文：平山雄一】
【撮影：新保勇樹】