チリヌルヲワカの「ハルチリツアー2014」、最終日をレポート!
チリヌルヲワカ | 2014.06.26
チリヌルヲワカの全国12都市におけるワンマンツアー「ハルチリツアー2014」が終着に至った。場所は渋谷クラブクアトロ。去年のちょうどこの時期にワンマンライヴが行われたのと同一の場所だ。
今回の「ハルチリツアー2014」は初めて訪れる箇所も含めバンド史上最大規模。加え、名古屋、大阪はこれまでよりも大きな会場であった。各会場に集まった多大なオーディエンスからのエネルギーとの対峙や交歓を続けてきた疲労も重なってのことだろう。この日のユウのステージングからは幾つもの痛々しい場面が散見された。とは言え、いざ歌に入ると、“そんなことを言ってられない!!”とばかりに、その疲弊や声の調子の悪さなどどこ吹く風、いわゆるユウ独特の節回しや歌声が会場を終始魅了していった。
一年ぶりに彼らのライヴを観て驚いた。これまでの上手(かみて=ステージに向かって右側)にポジショニングしていたユウがセンターに、センターにいたベースのイワイエイイチが上手に、そして下手(しもて=ステージに向かって左側)は、ギターの坂本ナツキという、いわばボーカリストを中心としたオーソドックスな4ピースのバンドフォーメーションに変わっていたからだ。そこからはこれまで以上のバンド然とした見え方、そして、あえてユウ以外のメンバーをフックアップさせずとも、しっかりとこの4人がバンド内にて確固たるアイデンティティを確立した現れのようにも映った。
この日の1曲目は「カスガイ」、続いては「ホワイトホール」が飾った。意外だった。それまでライヴの後半やアンコールで、いわばハイライト的に盛り上がりを作ってきた曲たちが、この日はあえて序盤に組み込まれている。“これまでからの脱皮を図っているのでは…?”そんな憶測が頭の中を飛び交った。特に「カスガイ」では、ソリッドに走り出していくバンドサウンドの中、あえてクールに歌うユウ、それに対し、坂本、イワイが熱いプレイをカマし、良いバンド・バランスを魅せつけ、「ホワイトホール」では、変速性と妖艶さが楽曲に加わり、サンドイッチ的に現れるドラムの阿部耕作の作り出すアップテンポ部が会場により弾みをつけていった。また、「々々々~トリプレット~」では、ユウもステージ前方に用意されたステップに乗りギターを披露。イワイもテルミンを操作し、楽曲に奇妙な浮遊感を加えていく。そして、オリエンタルで幾何学に攻める、いかにもチリヌルヲワカらしい「作りかけの歌」が、集まったオーディエンスたちを自身の世界観へと惹き込んでいく。
“おおっ、調子いいじゃん!”なんて観ているのも束の間。意外にも最初のユウのMCはこうだった。「全国12カ所回ってきました。今日までしか声が持ちません。ギリギリ最後までしか声が持たないと思うけど、頑張りますので最後までよろしく」。そしてその表情は、どこか万全とは言い難さを宿していた。
序盤後半からは先に発売された最新ミニアルバム『it』からの曲、「アマツカゼ」「空蝉」が歌われた。「アマツカゼ」では、アウトロにてメンバー各人がワンフレーズづつ一音入魂のソロを交え、スイングさ溢れる「空蝉」ではフロアのノリがこれまでの縦から横へと変わる瞬間を見た。
中盤では、「針と糸」「スナイパー」「逆光」の3曲もニューアルバムから披露された。坂本のアコギの爪弾きの上、しっとりと、しかしキチンと次への明るさを擁しながら歌われた「針と糸」、テルミンによるサイファイで浮遊感のあるイントロからガツンと入った「逆光」では、ユウと坂本のユニゾンによるツインリードも炸裂。フロアも驚喜の声を上げる。
ユウの出す声を極力歌声に優先させたいとのメンバーの想いは、後半戦に入る前のMCから見て取れた。通例ならユウが話すところでも、あえてその辺りを最小限に抑え、あとは阿部と坂本がMCを務め、会場を和ませていく。特に彼らが名うてのミュージシャンの集合体であることを改めて実感させた、坂本がボーカルを務め、彼の結婚が破断になった過去(実話)を赤裸々に吐き出した即興モダンブルーズ、そして、阿部の作り出すヒップホップのブレイクビーツの上、「彼女が欲しい」との切実な願いが坂本の口上に乗り、マシンガンのように連射された楽曲が会場に失笑と和みを与えた。
後半戦は、中でもラテン的な情熱と2ビートの疾走感が会場をノらせ、踊らせた「マシーン」、怒涛のバンドデモンストレーションから坂本のライトハンド(ヴァン・ヘイレンの1stアルバム収録「暗闇の爆撃」の完コピ)に移り、「天邪鬼」では、優雅さと激しさ、そして変拍子が目まぐるしく交差。オーディエンスもそんなコンテンポラリーなサウンドにしっかりとついて行く。また、ミラーボールも回り出し、明るく楽しげにサビの上昇感と解放感が、オーディエンスを良い眺めへと誘った「姫事」では、フロアも楽しそうにバウンス。本編最後の「it」に於いては、新作同様1小節ごとのテンポチェンジも見られ、ニューアルバムでの白眉さを難なく披露してくれた。
アンコールはダブルアンコールを含め1曲づつ計2曲が歌われた。中でも目を見張ったのはダブルアンコールの「甲と乙」。前のアンコールにてやり切った感のあるステージングを経て、ユウの声も限界にきていることは明白であった。通例なら、ここはスピーディでパッと終わる曲で締めたいところ。しかし、そこはさすがにプロ中のプロ。最後の最後にチリヌルヲワカの真骨頂とも言える同曲が飛び出した。この曲は、”これでもか!!”と言わんばかりに各人の特性を凝縮し吐き出すかのようなナンバー。文字通り全てを出し尽くした表情を残し、4人はステージを下りた。
この日は意外な形ではあったが、チリヌルヲワカが単なる強者共によるセッションバンドではなく、キチンと4ピースの一蓮托生的な思いを持ち、動き、活動してきたことを改めて感じさせてくれた。誰かが凹んだ分を誰かがカバーし、フォローし、全体を損なわずにしっかりと伝える。言わばユウとその仲間たちと思われがちだった、このグループがしっかりと4ピースのバンドとして確立し、みながそれをがっしりと受け止め、受け入れる。そんな頼もしい光景と出会えたライヴであった。
これからもチリヌルヲワカは、ますますバンドとしてのポテンシャルを上げ、我々を驚かせ、喜ばせてくれることだろう。上気し切った満足そうな表情で会場を出て行くキッズたちの顔も、それを確信していたようであった。
【取材・文:池田スカオ和宏】
【撮影:yasuyuki kimura】
リリース情報
セットリスト
ハルチリツアー2014
2014.6.14@渋谷CLUB QUATTRO
- カスガイ
- ホワイトホール
- 々々々~トリプレット~
- 作りかけの歌
- アマツカゼ
- 空蝉
- タルト
- 苔の生したこんな代は
- 針と糸
- スナイパー
- 逆光
- 念じる
- 印-しるし-
- マシーン
- イロメキ
- 天邪鬼
- 姫事
- it
- ヨスガ
- 甲と乙
お知らせ
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2014/07/11(金)三軒茶屋HEAVEN’S DOOR
ヲワカとダレカ 大阪編 ’14
2014/08/05(火)大阪・Music Club JANUS
チリヌルヲワカ~アコギな意図~
2014/08/06(水)京都・SOLE CAFE
ヲワカとダレカ 東京編 ’14
2014/08/29(金)東京・ 新代田 LIVE HOUSE FEVER
ヲワカとダレカ 北海道編 ’14
2014/10/18(土)北海道・札幌 DUCE
※その他のライブ情報、詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。