これが世界仕様の布袋!! どこまでも進化し続ける、布袋寅泰のツアーファイナル
布袋寅泰 | 2014.12.03
ロンドンにホームグラウンドを移してから、2年が過ぎた。そこで制作したニューアルバム『New Beginnings』をリリースしてのツアー“-Into the Light-”は、この日、ファイナルを迎える。
再会を待ちかねたオーディエンスたちは、開演前から歓びの叫びを上げる。布袋のライブでは見慣れた光景のはずなのに、この夜の大歓声は、胸を締め付けるほどの高まりがあった。おそらく舞台袖でスタンバイしている布袋にも、この声が届いているはずだ。そして、彼自身も気を高ぶらせているに違いない。「世界を目指す」という ティーンエイジャー時代からの夢を実現させるべく渡英した布袋が、彼の思い描く“ワールド・スタンダード”をついに提示する瞬間が間もなく訪れる。
ドラムスのザッカリー・アルフォード、ベースのトニー・グレイ、キーボードの岸利至に続いて、グレッチのホワイトファルコンを抱えて現われた布袋は、ギターに触れることなく、いきなり「Captain Rock」歌い始めた。96年に発表されたアルバム『King & Queen』に収められているナンバーだ。意外なオープニングに面食らうが、♪逆巻くカミカゼ あいつが来る♪というリリックが、妙にしっくりくる。ロンドンからやってきたCaptain Rock=布袋が、世界を席巻するシーンを幻視するようなスタートだった。
ステージの上方には、光を放つ16個の三角形が組み合わされた、幾何学模様の照明が浮かんでいる。その一つ一つがワイアーで可動するようになっていて、音に合わせていろいろな形に変化する。加えてムービングライトやスポットライトがシンクロして、ライト ショーの要素が布袋のロックを異次元で彩る。このライティング・システム“キネティック・ライト”は、ドイツの最新鋭機器で、ロックコンサートで使われるのは世界初だそうだ。“-Into the Light-”というツアー・タイトルにふさわしい、新感覚の光と音の競演だ。
2曲目は布袋のソロの原点となった1988年の1stアルバム『GUITARHYTHM』から「Materials」。 新作『New Beginnings』を聴いて、インストの多いライブを想定していたファンの表情が、みるみるゆるんでいく。
それにしても、ステージ上から繰り出される音は、一切ムダがなく、恐ろしいほど澄み切っている。「Captain Rock」で一打一打にパワーを込めるザック、「Materials」で布袋のギターとユニゾンで速弾きしながらドライブ感を増していくトニー、サウンド全体をしっかり支える岸。特にザックが、“ツアー・ファイナル感”をむき出しにしているのが珍しい。これまで何度も彼のプレイを見てきたが、ここまで誇らしげなドラミングを見るのは初めてだ。ザックは、布袋が渡英してから一緒にヨーロッパ各地を回ってきた。ある意味、アウェーの地で少年の頃からの夢を追う布袋に間近に接してきたからこそ、ザックの胸に去来するものがあったのかもしれない。
「ハロー、トーキョー! ようこそ、ファイナルのステージです。ついにこのツアーのファイナルを迎えて、言葉では表せないほど熱いものがあります。最新の布袋サウンドを、光とともに思い思いのやり方で楽しんで下さい。でも、いちばん嬉しいのは、一緒に踊ってくれることかな」と布袋。
中盤からは、『New Beginnings』の曲が並ぶ。「Medusa」から「New Chemical」まで、ほぼアルバムの曲順通りのセットリストだ。イギ―・ポップが作詞とボーカルで参加した「How the cookie crumbles」 を布袋自身が歌うのだが、曲に込められたコンセプトがしっかり伝わってくる。また、普段はバラード以外、あまり長いギター・ソロを取らない布袋が、存分にそのギターワークを聴かせてくれる。あるいは、コード・カッティングだけで世界観を表現する。キネティック・ライトの視覚効果と融合して、これまでにない“ギター・エンターテイメント”になっていた。
これが、世界仕様の布袋なのだ。そして、満員のオーディエンスは、その新しい布袋サウンドに、踊りながら大きな拍手を贈ったのだった。
「音楽は、常に光でありたい。僕も14才の時、天からギターが降ってきて、この人生が始まった。今回、みなさんに光を与えることができたらという思いで、このツアー・タイトルを付けました。
ロンドンに行って、2年ちょっとになりますが、今年はこのバンドでイギリスやアメリカなどでライブをやりました。言ってみれば、どこもアウェー。そこでの僕は、ただのノッポの東洋人だった。その時、ライブハウスで始めた19才の頃に戻って、やってやるぞっていう気持ちになりました。特に印象に残っているのは、スイスのモントルー・ジャズ・フェスティバル。雨が降っている真夜中のライブだったんですが、最初は300人くらいだったオーディエンスが、次にやる曲で1500人くらいになった。ヤッタぜって思ったんだけど、楽屋に帰る途中で、フェスのスタッフやオーディエンスに「お前の、キルビルのカバーは凄くよかった」って誉められ。まだ、そんなもんです(笑)。世界一のカバーを聴いてください」と言って始まったのは「Battle without honor or humanity」だった。
キネティック・ライトが色を変えながら、縦横無尽にステージを染める中、布袋のギターはもちろん、メンバーそれぞれのソロが炸裂する。このメンバーによる“世界一のカバー”に会場が熱くなる。続く「Into the Light」 は、『New Beginnings』からのナンバー。明るい曲調とライティングによって、文字通り、光あふれる1曲になった。それでも、決め所に使われる不協和音が、エッジーな布袋のスタイルを象徴して見事だった。
さらに目をむいたのが「Bad Feeling」だった。布袋のギター・スタイルの評価を決定付けたこの曲は、アニバーサリー・イヤーで何回も演奏された。しかし、この夜のプレイは、それらとはまったく違っていた。どんな細かいフレーズも、最後の一音までしっかり弾き抜かれる。クリアでアグレッシヴでグルーヴィー。今さらこんなことを言うと怒られそうだが、完成度が増していた。もしかしたら、アウェーで演奏してきたテンションが、この信じられない進化を生んだのかもしれない。だから、 この超初期の曲がとてもフレッシュに聴こえてきたのが感動的だった。
ライブの本編は、「Glorious days」の怒涛の盛り上がりで幕を閉じる。アンコールは「Dancing with the moonlight」から。
「僕が14才の頃に見たコンサートは、どれも衝撃的でスタイリッシュで攻撃的だった。 今年はストーンズとの共演もありました。マイクをはさんでシャウトするミックは、しなやかな生き物だった。キースは全能の神みたいだった。胸が熱くなった。自分もこんなライブをずっとやって行きたい。みんなに信じてもらえたから、やってこれました。いつまで指が動くのか、足が上がるのかわかりませんが、60才になっても70才になっても、ギターを弾き続けます。今回のアルバムでは僕は歌ってませんが、せっかく日本なんだから、最後は一緒に歌って一つになろうか」と布袋が言って「Lonely Wild」 のイントロが始まる。
いつにも増して、グルーヴが凄い。会場全員の大合唱を抜け出して、エンディングのギター・ソロは、まさに入魂。ボーカルもギターも超えたところに、布袋の音楽が燦然と輝いていた。 ラストチューンは『New Beginnings』から「Departure」。旅立ちのインストだ。ステージ上方では、アンコールに入ってから動いていなかったキネティック・ライトが、ツアー・コンセプトに戻って動き出す。インストなのに、曲に込められたメッセージが自然とオーディエンスに沁み込んでいく。
すべてを終えた布袋は、メンバーと手をつないで観客にお別れの挨拶をした後、最前列にいた5才くらいの男の子に手ずからピックを手渡した。その子は布袋にぺこりと感謝のお辞儀をした。とてもいい光景だった。
【取材・文:平山雄一】
【撮影:山本倫子】
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リリース情報
New Beginnings
2014年10月01日
ユニバーサル ミュージック
2.Walking Through the Night(Feat. Iggy Pop)
3.Kill or Kiss
4.New Chemical
5.How the Cookie Crumbles(Feat. Iggy Pop)
6.Barrel of My Own Gun
7.Sons of Sorrow
8.Texas Groove(Feat. Vula Malinga)
9.Into the Light
10.The Living
11.Departure
12.Trick Attack -Theme of Lupin The Third-