星野 源、横浜アリーナ2Days、「一人ひとりのままで聴いてほしい」2万人へと届く
星野 源 | 2015.01.07
1万1000人×2日=2万2000人を相手に、まるで自分の部屋のように振る舞う男・星野源。どんなに多くの人に作品が共有されようと、その誕生はいつも孤独な自分の部屋なのだ。いや、むしろその誕生の純度が高ければ高いほど、作品の普遍性も高いのではないか。そんなことを演者としての怪物ぶりで証明した、横浜アリーナでの「ツービート」――1日目は「弾き語りDay」、2日目は「バンドDay」――を振り返ってみよう。
12月16日「ツービート/弾き語りDay」
真紅の緞帳とシャンデリアがゴージャスなステージに、宅録感たっぷりな「デイジーお味噌汁」のCD音源が流れる中、星野源がミニスカサンタ二人に連れられて登場。リラックスムードを一変させるように聴き手の背筋も伸びる「歌を歌うときは」、激しいカッティングでかなり力技な弾き語りアレンジに変換した「化物」まで一気に歌うと、アリーナを見渡し、アリーナっぽさを感じたいがために観客を立たせ、一瞬のコール&レスポンスをして座らせるという、自由奔放なパフォーマンス。
弾き語りというこの上なく彼の歌が飛び込んでくるスタイルは会場のキャパシティに関係ない。「くせのうた」「くだらないの中に」など、特に歌詞が浸透している楽曲では近くにいる人の心の震えが聴こえてくるぐらいの空気の密度だ。なぜ横浜アリーナで弾き語りをやろうと思ったのか?について「曲を作るとき、最初は一人で作るわけです。それもあるし、奥田民生という人が広島市民球場で弾き語りをするという、それに倣って。だから”みんなで一人になろう!”」という発言の説得力に大きく頷いてしまった。
「ちょっと寂しくなってきたので友達を呼んでもいいですか?」と呼び込まれたのはペトロールズの長岡亮介(Gt)。カントリーやジャズなどルーツライクなアレンジがハマる「Night Troop」や、音源でのイントロの怪しさをギター2本で表現する姿が男子中学生の悪乗りにも見えて可笑しい「地獄でなぜ悪い」などを披露してくれた。
一旦、ステージから捌け再登場すると「こんばんは、セグウェイです!」と、その乗り物でアリーナとスタンドの間を移動し、後方のミニステージへ。「ひらめき」「スカート」と丹念に歌うと、思いの外近距離になったファンからそれはそれはもう普通に会話するぐらいの勢いでいろんな声が飛ぶ。敬愛する細野晴臣の「冬越え」をカバー。そしてファンの間では有名な逸話「俺を振ったクソ女」の続報(!)をコント風に話し、「“そんなあの娘は…”」と、お馴染みのナンバーガールのカバー曲「透明少女」へと繋ぐ。もはや“そんなあの娘は…”に繋ぐネタなら自分の過去もいい塩梅の笑い話にしてしまう、それが星野源という男だ。ミニステージでの演奏を終えると、今度は作務衣に頭はタオルという“あの人の弾き語り”スタイルで登場。「もしや?」と思うと同時に「さすらい」を歌い始めると、「ちがーう!」と遮る声が。会場のどよめきの中、奥田民生本人が登場しそれが大歓声に。本家とともに改めて「さすらい」、そして辛い思いをしていた小中学生時代に大いに助けられたというPUFFYの「MOTHER」、そして奥田を意識して書いたという新曲「愛のせい」の3曲を共演。常にマイペースな星野が奥田に対しては終始「緊張した」とその後のブロックで話していたのも印象深い。
その後最初の衣装で戻ってきた星野は、再び長岡を呼び込み、ふたりならではの抜き差しでグルーヴを作る「桜の森」を披露。ひとりで見る景色と大勢で見る景色という「夢の外へ」の歌詞が異様なリアリティを持って響いた後、この日のライブを「六畳一間の狭い部屋で曲を書いてた頃と、今を繋げるというテーマでやりました」と話した頃には“横浜アリーナで弾き語り”の意味と成功がその場にいる全員の腑に落ちたんじゃないだろうか。本編ラストはその流れにとどめを刺す感じで「ばらばら」…が、出だしをしくじりやり直し。
<世界はひとつじゃない>、<ぼくらは ひとつになれない そのまま どこかにいこう>という前向きな認識が、この日のライブを経たことでさらに実感として迫ってきた。なんと完璧なセットリストだろうか。アンコールは友人でもある寺坂直毅が2014年を振り返る口上。「さぁ泣いても笑っても本日最後の演奏です!」と歌謡ショーばりの曲紹介。「Crazy Crazy」のイントロとともに緞帳オープン、同時に銀テープのキャノン砲、そしてミュージックビデオと同じメンバー、ピエール中野(凛として時雨/Dr)、ハマ・オカモト(OKAMOTO’S/Ba)そして、小林創(Pf)と長岡(Gt)が白いスーツで演奏しているじゃないか!会場全体がエンドルフィン大放出である。本当のエンディングは、人は一人だけど、一人と一人がこうして集まったときに生まれるこの日の幸せを現すように「Stranger」をさらりと歌って1日目の幕を閉じた。
12月17日「ツービート/バンドDay」
弾き語りライブの常識を覆した初日の余韻を大いに引きずりながら臨んだ2日目。ほぼ定刻に星野以外のメンバーが定位置につき、前日とは打って変わって9人編成の弦楽隊が奏でる「デイジーお味噌汁」で開始するという手の込みよう。バンドセットが映える「ギャグ」「化物」と冒頭からテンションを上げるのだが、星野の声にどこか力がない。と思っていたら「昨日はいろんなサプライズがあったんですけど、今、俺の身体的サプライズが起こってて」とのMCに会場全体がどよめく。「ステップ」や「Night Troop」がホーンも入った星野バンド流AORを奏でるのだが、どうも本人が乗り切っていない。2つのブロックを終えた星野がおもむろに「ここ、横浜アリーナだけど、トイレ行ってきていい?」と、登場した途端に腹痛を起こしたことを吐露し、一時トイレ中断!
その場を託された長岡らメンバーはいい感じのムーディなセッションを開始。何事もなかったように戻り、セッションに参加する星野は清々しい表情で「本来の俺!」と宣言したにも関わらず「ここからしっとりした曲になるんだけど、もうしょうがない」と苦笑い。弾き語りとは違い、芳醇なアンサンブルにフルートなども加わった「くせのうた」など、はっぴいえんど辺りから脈々と続いてきた日本語ロック/ポップの良質で高度なアメリカンルーツミュージックやポップスの昇華力を伺わせた。
そして1日目と同様に中盤のブロックではセグウェイでミニステージまで移動し、弾き語りを行う。選曲は前日の「冬越え」のカバーを奥田民生と一緒に演奏するために作った「愛のせい」に替えた以外は同様の内容。弾き語りを終えると前日同様、X JAPANの「Forever Love」に乗せセグウェイで去るのだが、「これ分かる?小泉純一郎ネタだよ?」と、細部に至るネタにファンも感情の切り替えが忙しい。いやもう全く切なくなったり爆笑したりは弾き語りでもバンドセットでも変わらない。感情があらゆるベクトルに引っ張りまわされるのだ。
再びホーンと弦も加えた編成で届けられた「レコードノイズ」の豊穣なアレンジが導くサイケデリア。巨大なミラーボールの演出も相まって夢見心地に。ストリングスがサビを鼓舞する「ワークソング」、アナログシンセなどでおどろおどろしいイントロ部分を表現した「地獄でなぜ悪い」の分厚いアンサンブルはさすがに聴き応え十分だった。フィジカルにもマインドにも訴えるこの日のライブもクライマックスに差し掛かったところで、星野は次のレパートリーの紹介でもあり、同時に自身の作品観にもとれるMC。「いろいろな人がいていろいろな思いがあると思うんです。『ひとつになろうぜ』みたいなこと言うのに憧れもするけど、俺は言えない。一人ひとりのままで、みんなで聴いてほしい」と、「夢の外へ」を演奏。「この曲むずかしいから、もう好きなようにしてください!」と、ファンの心身を解放する。客席の拍手も踊りももうバラバラで最高だ。
まとまらないまま盛り上がるという星野ならではの真骨頂を見せ、本編ラストの「桜の森」に突入。バンマス伊賀航(Ba)と伊藤大地(Dr)の生み出すビートに長岡と星野の洒脱なカッティングが生み出すファンクネスにストリングスが乗ると不思議な酩酊感まで醸成され、このメンバーならではの「桜の森」がこの日完成した。MCが少ないせいか、弾き語りと同じ22曲を演奏したにも関わらず、あっという間に終了した印象も。バンドメンバーとしてアンサンブルを楽しみ、アレンジャーとしての彼の才覚も再発見したバンドセットだった。
さて、1日目に続き寺坂の口上はこう切り出す。「ちょうど2年前の12月17日は『化物』の歌録り直後、倒れて手術した日なんです」と。回復して今、以前よりすさまじいライブを見せる星野源に安堵と憧憬と、ちょっと嫉妬も混ざった気持ちを抱きながら、アンコールには何を?と待ち構える中、ファンにはすっかりおなじみになった”ニセ明”(布施明のパロディ)が登場し、「君は薔薇より美しい」をステージ狭しと歌いまくり、最後にズラとサングラスを残して「今日をもって明は死んだ」と、封印(?)を示唆。改めて「Crazy Crazy」のジャケット写真の茶色いスーツに着替えて登場するという念の入れよう。2014年は復活の武道館、全国ツアー、そして舞台やテレビでのコント番組に執筆、そしてシングルリリースと表現のベクトルは多岐なまま、さらにポピュラリティを増した彼。「来年はもっとくだらないこととかやって行きたいと思います!」宣言に大歓声が起こる中、賑々しいピアノのイントロに乗せ、「Crazy Crazy」が放たれる。曲そのものも星野の最新型だが、これはまだ「もっとくだらないこと」の序章にすぎないのかもしれない。
2日間通して痛感したのは、笑うことも、泣くことも人間にとっては普遍的な何かに触れて起こることだということ。でも言葉は常に変化していて、星野の表現は普遍的な感情を今、この時代に言語化する才能とセンスに裏打ちされているということ。なんと2015年には彼の2年を追ったドキュメンタリー映画も公開されるとのこと。それほど今、”人間・星野源”は面白い。
【取材・文:石角友香】
【撮影:三浦知也/五十嵐一晴】
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リリース情報
セットリスト
横浜アリーナ2Days 「ツービート」
2014.12.16&17@横浜アリーナ
12月16日「ツービート/弾き語りDay」
- 歌を歌うときは
- ギャグ
- 化け物
- くせのうた
- レコードノイズ
- フィルム
- くだらないの中に
- 穴を掘る
- Night Troop
- 地獄でなぜ悪い
- ひらめき
- スカート
- 冬越え
- 透明少女
- 老夫婦
- さすらい
- MOTHER
- 愛のせい
- 桜の森
- ワークソング
- 夢の外へ
- ばらばら
- Crazy Crazy
- Stranger
12月17日「ツービート/バンドDay」
- デイジーお味噌汁
- ギャグ
- 化物
- 穴を掘る
- もしも
- ステップ
- Night Troop
- くせのうた
- 未来
- くだらないの中に
- ひらめき
- スカート
- 老夫婦
- 透明少女
- 愛のせい
- さようならのうみ
- レコードノイズ
- ワークソング
- 兄妹
- 地獄でなぜ悪い
- 夢の外へ
- 桜の森
- 君は薔薇より美しい
- Crazy Crazy