aikoのコンサートに行った方なら、その会場の男女比率がだいたい半分であることにお気づきだろう。あのいつまでも変わらないファニーなルックスや、聴く者の胸をキュンとさせる声質ならば、一見、男性のファンの方が多そうなイメージがある。しかし、上述のとおり、コンサート会場の男女比率の半々。そして、逆に女性のファンには、その歌たちに自分を投影している方を見かける機会も多い。会場での男子の＜コンサートを一緒に楽しんでいる＞といった光景に比べ、女性のファンはもっと、歌われるその1曲1曲に対し、自分の姿を投影し、感情移入しているかのように映る。遠い目をし、まるでどの曲も自分のことを歌われているかのように、ある曲ではノリ良く大盛り上がりし、聴かせる曲では神妙に聴き入り、ある時はうっとりと、またある時は、"よしっ!!"と固い意志を得たかのような光景に出会う。

　実はaikoは今年でデビュー14年。これまで一切ベストアルバムなるものを出してこなかった。なので、5年前辺りより毎年、「今年こそは出るのではないか?」「いよいよ出そうだ」等、ことある毎に噂が流れていた。そして、この度いよいよ発売されたわけだ。とは言え、これはaikoの自身がセレクションしたベスト・アルバム。タイトルに『まとめ1』『まとめ2』とあるように、彼女の視点でセレクションされた楽曲がそれぞれ16曲づつ、計32曲が収録されている。

で、問題の中身であるが、これがいわゆるシングル曲を集めたものとは趣きも違い、シングル曲は18曲と、既に27枚ものシングルをリリースしてきた彼女にとって、「シングルが代表曲の全てではない!!」とでも言いたげに、アルバムからも12曲収録。そして、特筆すべきはインディーズ時代の音源で今や手に入らない「れんげ畑」「mix juice」も初音源として収録されているところ。ジャジーでスイング感たっぷりの「れんげ畑」は当時ボーナストラックで歌詞も一番しかなかったもの。今回はアレンジも変わり、フルで収録されている。そして、作品でもaiko本人によるものと思しきカズーも入っている「mix juice」は、ライヴでも時々演る盛り上がりナンバーだ。他にも、アルバム収録曲からの「赤いランプ」「愛の病」「帽子と水着と水平線」「ジェット」に至っては最録音。その他7曲が最新ミックスにて収録されている。

　「花火」でキュンとさせられて、「カブトムシ」でエターナル性を感じ、「蝶々結び」でゴージャスな気持ちになって、「横顔」でほのかな幸福感を感じ、「桜の時」で出会いの春にときめき、「ボーイフレンド」で素直な気持ちになって、「アンドロメダ」で何億光年の永遠さと身近な愛しい人を感じ、「二人」で疾走して、「初恋」でロッカバラードを感じて、「ナキ・ムシ」で愛しさを広がらせ、「シアワセ」で至福感に包まれて、「三国駅」で切ない思いを胸に広げてと、上述の女性ファンたちもこの2枚を聴きながら、目まぐるしくその表情を変えることだろう。

　振り返るとaikoは、14年間、色々な歌を歌ってきた。それはバラエティに富んだサウンドのことだけではなく、悲喜こもごものシチュエーションや物語性も含めてだ。ただ、振り返ってみると、それほど壮大でドラマティックな展開のストーリーではない歌ばかりなのにも気づく。基本は一対一。どの曲もしっかりと対照の相手が居て、その相手が傍らにいるのか?遠くにいるのか?手の届くところにいるのか?手の届かないところにいるのか?をシチュエーションや想い、背景やその時々の心情を交えて歌ってきたことに改めて気づいた。＜凄く身近なんだけど、永遠性溢れる楽曲たち＞。それがドラマティックに響くのは、やはり聴き手自身が投影されてのことにちがいない。
上述の曲毎で感情移入や自身を投影してきた女性たちの気持ちが改めて分かった。

【 文：池田スカオ和宏 】