テーマ「“緊急事態宣言下の絶望と孤独の夜”の5曲」(宗像明将 選曲)

おうちで音楽を楽しもう | 2021.01.29

2021年1月29日 UPDATE

宗像明将 選曲
テーマ「“緊急事態宣言下の絶望と孤独の夜”の5曲」

 緊急事態宣言の発出も2回目となると、人それぞれの価値観が如実に表れますね。ひたすら外出自粛の生活を送る人、20時までは良いだろうと出歩く人。まぁ個人的には去年の時点で、政府のお墨付きだからと「GO TO」している人たちの多さにドン引きしていたのですが……。私が住む神奈川県は、医療崩壊の局面を迎え、成人式を横浜市や川崎市が開催したことで世代間の確執も深まっていることを日々実感します。やめたほうが良かったと思いますが、成人式後の会食の可能性を非難するなら、私たちが愛する音楽ライブ後に会食する人がいる可能性もあるわけで……。そんな結論が出ない堂々巡りの毎日の深夜、私が聴いて希望を感じる音楽を紹介します。

Lizzo「Juice」

 2020年の最初の緊急事態宣言下、毎夜リゾのライブ動画を見ては泣いていたものでした。これは2019年にイギリスで開催された「グラストンベリー・フェスティバル」での映像ですが、老若男女、人種、セクシャリティを超えた聴衆で地平線まで埋め尽くされています。リゾがダイバーシティ、つまり多様性の象徴として語られる理由がよくわかる圧倒的な映像です。日本では「セーラームーンのコスプレをしてフルートを吹いている人」というイメージの強いリゾですが、SNSでは政治的なメッセージも強く、特に2020年のアメリカ大統領選では投票を幾度となく呼びかけていました。具体的には、星条旗の柄の衣装でお尻を振りながら、あるいは全裸に星条旗のみをまといながら、投票を呼びかけるのです。ユーモアと信念の人であるリゾに励まされます。

GOMESS×KAIRI「CURE」

 GOMESSくんのフリースタイルラップと、KAIRIさんのヒューマンビートボックスによる路上でのセッションを、「たけうちんぐ」こと竹内道宏監督が記録した映像です。彼らが立つのは、2020年5月31日に閉店した渋谷のライブハウス・VUENOS、LOUNGE NEO、Gladの前。この3店は、映像の中ではまだ看板が残っていますが、現在はすでに看板も撤去され、他の店舗も入らないまま、まっさらな状態になっています。渋谷のライブハウス帰りに駅前でGOMESSくんとばったり会ったこともあるのですが、たしか2019年のことなのに、あの日常が遠い昔のことのように感じられます。「CURE」では、ふたりのセッションの間に会話も入りますが、GOMESSくんの言葉にはインタビュー中でもフロウを感じるのです。

曽我部恵一「Sometime In Tokyo City」

 2020年2月に下北沢で曽我部恵一さんにインタビューをしたのですが、その後、曽我部さんは緊急事態宣言下の4月10日に下北沢で「カレーの店・八月」をオープンさせました。曽我部さん自身も店に立っていると知って、下北沢での撮影のときに、通リがかった人たちが曽我部さんを見て振り返る光景をふと思い出しました。この「Sometime In Tokyo City」は、5月7日に配信された15分近くにも及ぶ楽曲。<下北沢へ来たなら/僕らの店に来ませんか/いい匂いがしていますよ>という歌詞から、曽我部さんの生活の息遣いが伝わってくることに、安堵に似た感覚を抱いたものです。

大森靖子「シンガーソングライター」

 2020年の緊急事態宣言の解除後、12月にアルバム『Kintsugi』をリリースするまで、大森靖子さんに5ヵ月連続でインタビューする機会に恵まれました。『Kintsugi』のリリースまで毎月新曲が配信されていくなか、第1弾がこの「シンガーソングライター」。MVには、街頭に流れる小池百合子都知事の映像、自粛警察の張り紙、2枚の布マスクなど、コロナ禍のアイコンが多く登場しますが、この楽曲自体はコロナ禍の以前に書かれたものだといいます。とはいえ、「音楽を止めるな」という風潮のなかで、あえて「STOP THE MUSIC」という反語的な歌詞も。この状況下で音楽とどう向き合うのか――という問いかけを、ミュージシャンにもリスナーにも鋭く突きつけている楽曲です。

鈴木博文「この素晴らしき世界」

 ムーンライダーズのベーシストでもある鈴木博文さんによる「What a wonderful world」の日本語詞カバーです。ルイ・アームストロングの名曲にして、無数のカバーでも知られています。鈴木博文さんの「この素晴らしき世界」は、緊急事態宣言下のバトンリレー「#うたつなぎ」で公開されたもの。詩人・鈴木博文の面目躍如とも言える素晴らしい歌詞なのに、動画再生数が1,000回にも満たないというのは、さすがにおかしくないですか? しかし、個人的にはコロナ禍ではSNSを極力動かさないようにしているので(基本的に業務連絡のみ)、私自身も広めてこなかったという問題があります。現在は、SNSで人間の負の感情が噴きだすことが多い時期ですから。この記事を書く機会に恵まれたので、世界への希望として、最後にこの楽曲を紹介します。

(プロフィール)
宗像明将
音楽評論家/編集者/イベントMC。著書に『渡辺淳之介 アイドルをクリエイトする』がある。ここ数年では、広末涼子さん、橋本環奈さん、錦戸亮さん、田原総一朗さん、EXILE HIROさんへのインタビューも担当。

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