テーマ「その声に癒されたい! 女性声優アーティスト珠玉の5曲」(塚越淳一 選曲)

おうちで音楽を楽しもう | 2020.08.14

2020年8月14日 UPDATE

塚越淳一 選曲
テーマ「その声に癒されたい! 女性声優アーティスト珠玉の5曲」

 今でも好きでよく聴く曲に、PSY・Sの「Angel Night~天使のいる場所~」(88年)があるのだが、その歌詞に、<最初に 好きになったのは声>というフレーズがあり、それが昔からやけに引っかかっていた。「相手のどこが好きか?」と聞かれて「声が好きです」とはあまり言わないけれど、実は声って、顔以上に記憶に焼き付くものなのかもしれないと思ったのだ。たとえば誰かのことを想像したとき、顔より声を思い出したりすることってありませんか?
 それ以来、好きな声を求めてしまうところがあって、当然好きなアーティストも、自分が好きな声であることが重要になっていった。しかも声は努力して得られるものではなく、ある意味才能だというところにも惹かれてしまう。そしてその才能が努力などによって昇華されるところを見るのが好きだ。
 ここ10年くらい、声優の方々と仕事をする機会が多くなったのだが、声が特徴的な方ばかりで、最初はすごく驚いた。そして今や、声優アーティストが数多くデビューする時代になってきている。なので今回は思い切って、女性声優に絞り、声の美しさが際立つ5曲をセレクトしてみた。正直、選ぶのは大変だったが、何かと不安なニュースが多く、心がざわつく時期なので、ぜひこの歌声に癒やされてほしい。

坂本真綾「レプリカ」

 今年、アーティストデビュー25周年となる坂本真綾。菅野よう子のプロデュースでアーティストデビューをしたのは16歳のとき。まだ音楽のことをあまり知らなかった少女は、菅野よう子に導かれながらぐんぐんと成長し、やがて巣立っていく。ひとりで外の世界を歩き始めたとき、自分の音楽とは何なのかに悩む時期もあったようだが、それも自分の力で乗り越えていく。そこで武器になったのが、歌声と若くして才能を見出されていた詞だったのではないかと思っている。
 「レプリカ」を作編曲しているのはandropの内澤崇仁。激しく荒れ狂うサウンドの波を突き抜けて聴こえてくる美しくも力強い歌声。サビでは、<人類の欠点は 見えもしないくせに 愛とか絆とか信じられること>なんて大それたことを歌っているのだが、この“人類”というワードが持つパワーにセンスを感じてしまう。想像力は人類の欠点でもあるが、ヒカリでもあると、最終的に希望を歌っているところも良い。
 この曲が収録されている最新アルバム『シングルコレクション+ アチコチ』には、椎名林檎、the band apart、冨田ラボ、小山田圭吾など、さまざまなアーティストとコラボした楽曲が収録されている。彼女が独り立ちをし、歩いてきた道程で出会った音楽たちが詰まっているのだが、改めて、ド真ん中で美しく存在感を放ち続ける彼女の歌声に感動する。

早見沙織「新しい朝」

 早見沙織は、声優としては2007年からずっと第一線で活躍している美声の持ち主なのだが、音楽的な才能も豊かで、自ら作詞作曲も行う声優アーティストとして、2015年にCDデビューをしている。今年3月に発売されたミニアルバム『シスターシティーズ』は、田淵智也(UNISON SQUARE GARDEN)、NARASAKI、Kenichiro Nishihara、堀込泰行、横山 克といったクリエイターと共に作り上げた傑作だったのだが(作詞はすべて早見沙織が担当)、残念ながら、この作品を引っさげて5月から始まる予定だった『早見沙織 5th Anniversary Tour “Your Cities”』は中止になってしまった。なので、このミニアルバムは何度も何度も繰り返し聴いている。
 今回紹介した「新しい朝」は、2018年にリリースした2ndアルバム『JUNCTION』に収録されている曲で、『劇場版はいからさんが通る 後編 ~花の東京大ロマン~』の主題歌。作詞作曲は竹内まりやである。作品のことを思い浮かべながら聴くこともできるし、自分の人生を振り返りながら聴くこともできる、とてもスケールの大きい楽曲だ。<行く手に待つのは 新しい朝(あした)>は、いろいろな選択をして生きてきたこれまでの道を肯定してくれるような言葉で、早見沙織の歌声からは、母性のような温かさと大きさを感じ、思わず涙してしまう。

中島愛「髪飾りの天使」

 TVアニメ『マクロスF』で、ランカ・リー=中島愛として2008年に「星間飛行」でデビューし、翌2009年には、中島愛(めぐみ)としてソロデビューをしている。デビュー当初から声が特徴的で、ポジティブな中に少しだけ憂いが感じられるところが好きだった。また、本人は80年~90年代のアイドル曲/歌謡曲オタクで、(中島愛名義での)歌手デビュー10周年記念にリリースしたカバーアルバム『ラブリー・タイム・トラベル』では、「Kimono Beat」(松田聖子)、「青いスタスィオン」(河合その子)などをカバーしている。
 昨年末にリリースした「髪飾りの天使」は、TVアニメ『本好きの下剋上 司書になるためには手段を選んでいられません』のエンディングテーマ。作詞作曲が吉澤嘉代子、編曲が清 竜人という、とても面白い組み合わせだったのだが、独自の世界観を持って、それぞれの場所で活躍してきた30歳前後のアーティストが出会い、ひとつの曲を作り上げたと思うと、なんだか感慨深い。やわらかくも美しい言葉、そしてそれを表現する優しい歌声、すべてを包み込む繊細なアレンジ。それぞれの個性が素敵なケミストリーを起こしている。ウィスパーで歌ったのは清 竜人のアイディアだったそうだが、また新たな彼女の声の魅力を発見した気持ちになった。

三森すずこ「アレコレ」

 2010年から『ラブライブ!』のμ’sのメンバー園田海未役として活躍、2015年にはμ’sでNHK紅白歌合戦にも出演している。三森個人としては2013年にアーティストデビューを果たしているのだが、声優ユニットでのイメージもあり、どちらかと言うとアイドル路線だった。そこから徐々に曲調も変化していき、最近だと今の彼女の年齢感に合った音楽をやっている印象がある。その象徴とも言える曲が「アレコレ」だ。深夜の静かな時間帯にゆったりと体を揺らしながらイントロを聴いていると、語り調の歌が始まる。ラップの曲はよくあるが、“語り”の歌は、アニメ・声優界の音楽ではそれほど聴いたことがない。だがこれは、声優の“声”の魅力を最大限活かせるスタイルなのではないかと、すごく感動した。しかも、ニュアンスをたっぷり込めたこの曲の“語り”は、三森すずこの大人かわいい魅力を120%引き出している。そしてさり気なく深い<ありのままで生きるって難しいな(うんうん)>という歌詞。大人になればなるほど、いろいろ考えてしまいそうになるのだが、彼女の脱力したボーカルが、ひとまずぐっすり寝なさいと言ってくれているようで、とても心地良い。

水瀬いのり「ココロソマリ」

 親になると、こういう歌が沁みてしまう。子育ては大変でうまくいかないことも多いし、小学生くらいだと感謝もされない(笑)。でも子が成長して、「ありがとう」と言われたときは本当に嬉しいだろうなと思う。「ココロソマリ」は、TVアニメ『ソマリと森の神様』エンディングテーマで、物語は、森の番人である“ゴーレム”と滅びゆく種族である人間の少女が旅をするという、父と娘の絆を描いたものだった。だから子から親への感謝を綴るような歌詞になっているのだが、作詞を、水瀬いのり本人が書いていることに意味があると思っていて、自分の心からの想いが歌詞になっているし、それが歌声からも伝わってくる。声の素晴らしさはもちろんだが、表現力もとても優れているアーティストだと思う。
 水瀬いのりは、2010年に声優デビュー、2015年にアーティストデビューを果たし、またたく間に超人気アーティストになってしまった。ファイナルが横浜アリーナの『Inori Minase LIVE TOUR 2020 We Are Now』は残念ながら中止になってしまったが、彼女の透き通る歌声が、いつの日か大きな会場で聴けることを心から期待したい。

(プロフィール)
塚越淳一
編集プロダクションから3年前に独立しフリーに。今は主にアニメ・声優業界で編集・ライターをしています。スピッツをこよなく愛する40代。STAY HOME期間中は、なぜかNizi Projectにハマり、NiziU箱推しになりました。

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