レビュー
秦 基博 | 2013.10.18
ベスト盤にはファンの選ぶ人気曲を集めたものや、シングル・コレクションなど様々な形式があるが、秦 基博の『ひとみみぼれ』の場合は“セルフ・セレクト”。彼自身の意向が強く出た内容になっている。現時点で秦が、ファンに向けて、あるいはこれからファンになる人に向けて聴いてほしい曲が選ばれている。アコースティック・ギターでしみじみ歌うシンガーソングライターとしての秦のパブリック・イメージに沿った曲もあるが、彼の音楽性の幅広さを実感させる曲が多く収録 されているのが特徴だろう。
実際、秦の“音楽愛”は、深くて広い。自分の作った楽曲を活かすためなら、未知のリズムや楽器でもためらいなく使う。そこに彼自身が歓びを見出す瞬間が、スリリングだったりする。たとえばAORテイストの「SEA」などは洗練されたダンスグルーヴをフィーチャーした曲で、意外に思う人がいるかもしれない。だからこそ、新しく秦のファンになる人が必ずいると思うのだ。
また秦はライブ・アーティストとしても偉大な才能を持っていて、たとえば僕は今年のサマーソニックで、ロック・ファンの前で堂々と弾き語りパフォーマンスをする秦を目撃して感激した経験があるから、ボーナス・トラックにライブ音源が多数入っているのも歓迎だ。そんなわけで、僕は個人的には「アイ-弾き語りVersion-」がとても気に入っている。
【取材・文:平山雄一】
■Self Selection Album『ひとみみぼれ』
秦 基博によるセルフライナーノーツ

今回の『ひとみみぼれ』というコンセプトの象徴であり、スタート地点になった曲。CMで耳にして「この曲を歌ってるの誰?」って気になった人も多いと思うんです。サビはじまりということもあってか、ライヴで歌いだしたときのお客さんの反応もすごくよくて。僕の中では「アイ」「鱗(うろこ)」に匹敵する存在になってきましたね。「とにかくGirlという対象を守りたい」ってズバッと言い切ってるところがPOPなんだと思います。

結果的にカップリングになったけど、『Signed POP』に入ってもおかしくなかった曲です。アルバム曲と一緒に作ってて、他が重厚な曲が多かったんで、ホッとできる要素としてアルバムに入れたかったんだけど…。カップリング曲の悲しい運命として、どうしても目立たないので(苦笑)、「もう一回ちゃんと聴いてほしい!陽の目を見てほしい!」と思って今回は選曲。歌詞のテーマ性と言葉遊びは特にうまくいきましたね。

こういうお気楽でハッピーな曲ってすごく大事だと思うんです。それがライヴでも明るい空気を運んでくれて、今は相当助けられてます。楽曲的にはジャック・ジョンソンみたいなサーフ系に挑戦してることも珍しいし、早口で歌ってる部分とか遊び心がふんだんに含まれてますね。これも本当は『Signed POP』に入れたかったけど、曲が多すぎて…。『エンドロールEP』に入ってる4曲は、カップリングという感覚とはまた少し違うんですよ。

3月11日の震災直後、YouTube内のAUGUSTA CHANNELにアップした弾き語り演奏のひとつがこの曲です。それは仙台の人がネットに書き込んでくれた文面がきっかけで。電気も止まって不安な中、ラジオから「今日もきっと」が流れて、気持ちをつないだって書いてくれたんです。この曲が少しでも誰かの助けになったことが嬉しかったし、それは僕にとっても本当に助けになりました。

コーラスが分厚くて、ドゥービー・ブラザーズにも近いサザンロックの香りがする曲です。スタジオで(久保田)光太郎さんとアコースティックなロックを追求していったら自然とこういうアレンジになって。『Documentary』のレコーディングが佳境に入った頃に作った作品だけど、歌詞はほとんど迷わずに一気に書きあげました。そういう集中力が高い状態というか、僕のノリにノッてるときの状態がよく出ている曲だと思います(笑)。

これも『Documentary』制作期の終盤に作った曲で、詞曲のすべてを1日半で作ったんです。スタジオの小部屋でギターを弾いて、次の日に歌詞を書きあげて。追い込まれてたからかもしれないけど(笑)、これまでの曲作り人生の中でも最短。でもその一筆書きがハマってますね。いま振り返ってもどうしてこんな曲が書けたのかわからないくらい、歌詞もキレイに決まってて。邪念が入り込むスキがない、凛とした雰囲気があるんです。

これはライヴで育った曲。だからライヴに来てくれた人のほうが思い入れは強いんじゃないかな? 曲を作るときからモータウン調でライヴ映えする曲っていうイメージはできてたけど、実際には自分の想像以上に好意的に受け入れられましたね。ライヴに欠かせない曲と言っても過言ではないと思います。あと、歌詞の中に“僕と君と彼”の3人が出てくるスタイルは他にはないものですね。

これもまた僕のイメージを打ち破るチャレンジをした曲です。特に歌詞の世界。過去にも「Lily」とかあったけど、よりセクシーでエロな一面を打ち出したというか。やっぱりデビューしてから「爽やかですね」って言われることが多くて。そんな中で生々しい表現に挑戦したい気持ちもあったんです。あと「Girl」と同じ“歌始まりの曲”ということも「ひとみみぼれ」のコンセプトに合ってると思います。

ファーストアルバムの1曲目ということを徹底的に考えて書き下ろした曲。それまでは“アコースティックなシンガーソングライター”っていう印象が強かったけど、アルバムはゴリゴリのロックからはじまるっていう裏切りを見せたくて。だから曲の作り方も初期衝動優先です。「これからやっていくぞ!」っていう、あの時期にしか出せない熱が込められたミュージシャンとしての宣言文ですね。

コアなファンにとっては僕の代表曲のひとつになってる気がします。ずっと好きだったキャロル・キングに通じる1曲。アルバム『コントラスト』全体を総括する1曲です。当時の僕の中ではすごく大きな楽曲だったけど、それが年月を経て、みんなの中にも根付いてくれたことは幸せなことだと思います。ちなみに第1回目のGREEN MINDの1曲目は即決で「風景」にしました。僕にとってはそれぐらい大事な曲なんです。

まず直観的に「プール」という題名の曲を書きたかったんです。それでなにげなくメモした言葉をメロディにつけていく作り方をしました。この曲も僕の想像以上に、みんなの中に広がっていった曲ですね。テーマ的にもプールというイメージを起点に深いところまで潜っていった、懐の深い曲になりました。この頃はとにかく景色が見える感じ、匂い、色彩が伝わる楽曲を作りたいと奮闘していた時期です。

デビュー前に作った曲で、きっかけは水玉で知られる草間彌生と山下清のちぎり絵。当時僕は美術品を運搬するアルバイトをやってて、そういう点描写の感覚を歌詞に表現してみたんです。この曲もある時期にしか作り得ない刹那な空気が入ってますね。歌詞も抽象的で《10tもの水》とか《悦にひたる》とか、いまなら絶対使わない言葉を使ってる。あの頃は曲作りのスタイルを模索していたけど、「dot」とか「朝が来る前に」ができたときには大きな手応えを感じたことを憶えています。

デビューするにあたって「シンクロ」だけだと不十分な気がしたんです。どうしても「シンクロ」と一緒に、シンガーソングライターとしての僕の本質がむき出しになった曲を聴いてほしくて。そういう意味では、デビュー前にして、意志をもって作った曲だと言えるかも。アコースティックへのこだわりも含めて、こういう詩的で内省的なことを歌う人が「シンクロ」みたいな曲も歌うってことが重要だと思ったんです。

一番最近録音した曲で、今年のFM802のキャンペーンソングとして書き下ろした曲。そのときはレキシがプロデュースしてくれたけど、今回それを『Signed POP』のツアーメンバーでセルフカバーしました。『Signed POP』を作り終えた後、最初に書いた曲がこの曲じゃないかな? やっぱり僕にとって『Signed POP』以前と以降はモードが違うというか、あそこでひとつ抜けた感じがあるんです。

「アイ」も「鱗(うろこ)」も僕の代表曲と呼ばれるものだけど、それを僕の音楽の原点である弾き語りで聴いてもらうことは「ひとみみぼれ」というコンセプトに合ってる気がしたんです。曲も詞も演奏も全部自分がやってるので雑味がないというか、「これは素材のままどうぞ」という感じ(笑)。まだまだ届いてない人もいると思うので、これからも歌い続けていくつもりです。秦 基博の音楽を伝えるための“現時点での一番強い手札”ですね。

※新録(2ndシングル『鱗(うろこ)』収録)
デビュー以降、一番頻繁に歌ってるのがこの曲だと思います。曲ができたときには、ここまでの曲になるとは思わなかったけど、劇的に変化したのは亀田(誠治)さんにアレンジしてもらってから。そのとき、自分の曲だけど自分のものじゃなくなる瞬間があって。そういう音楽の化学反応を僕に教えてくれた曲でもあります。いま、そのアレンジを脱いで改めてギター1本で歌うことは、僕の7年ぶんの変化を確かめるいい機会なのかもしれません。7年ものの「鱗(うろこ)」、ぜひ味わってみてください(笑)。

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