生い立ちから最新作まで、新世代ポップアイコン・cyberMINKを徹底解剖!
ゆびィンタビュー | 2020.09.15
PROFILE
cyberMINK
名古屋市出身。芸大を目指して受験するが失敗。一浪後日大芸術学部に入学し音楽理論を学ぶ。在学中にアイドル活動を始め、大学を中退する。その後、アイドル活動に終止符を打ち友人と二人でcyberMINKを結成する。
Charisma.com、Creepy nutsなどを輩出したスティールストリートに見いだされることになる。404オーデションにエントリーしたが、途中で一人抜けてしまい、決勝には一人で出場となる。
2019年3月、スティールストリートのレーベルTRIGGER RECORDSよりシングル「COMMONSENSE」でデビュー。収録曲「cyberMINK」はcyberMINKです、cyberMINKです、と自分の名前を連呼する明るいマントラのような不思議な世界が話題になる。
その後、「Happy Overlord」「Twinkle」と計3枚のシングルを発表する。 ギャル上りならではの今のリアルな女子を歌う独特の詞の世界とキャッチーなメロディに緻密なアレンジには、元アイドルとは思えない豊かな才能を感じさせる。
- 今日は僕だけじゃなく担当編集者にとっても念願の初インタビューなので、お生まれから話していただくくらいの勢いでお願いします。
雛
愛知県名古屋市で生まれました。左利きです。生まれたときは4000グラムくらいあって、あまりに大きいので母親のお腹にいたときは男の子だと思われてたらしいです。親も「だいち」って名前を準備してたみたいで……。- (笑)。
雛
でも生まれてみたら女だから「出生届を出すまでに名前を考えなきゃ」みたいな感じで急いで考えたらしくて。しょっぱなからどたばたの人生です。- ご本名は“雛”ではないんですよね。
雛
違います。ぶっちゃけた話、雛は元彼の元カノの名前なんです。わたしはすっごく好きなのに、彼はわたしと付き合ってるにもかかわらず、元カノの話をすごいするんですよ。それで「なんやねん!」という思いが名前になりました。漢字は違うんですけど、雛って名前にしたって彼に言ったら「おまえ、すげーな」って言われました(笑)。- インタビュー開始数分で過剰な情報量ですね(笑)。3歳でエレクトーンを習い始めたのが音楽との出会いだそうで。
雛
そうなんです。正直エレクトーンのレッスンのことはあんまり覚えてないんですけど、小3ぐらいのときに先生がいくつか楽譜を持ってきてくれて「次どんなの弾きたい?」って聞かれて、J-POPとかディズニーとかクラシックとかいろいろあって、その中からわたしが選んだのが「黒いオルフェ」だったんです。- 1959年の同名映画のテーマ曲ですね。ルイス・ボンファ作曲で、正式タイトルは「カーニバルの朝 (Manhã de Carnaval)」。
雛
何も知らないのに「かっこいいなぁ」と思って、それからラテンとかジャズが好きになりました。タワレコのラテンコーナーに行くと、よくわかんないおじさんたちのCDがいっぱいあるんですよ。小4ぐらいからよくそこに行って、名前も知らないおじさんの曲を試聴して「お母さん、これほしい」って言って買ってもらうみたいな。難しいことはなんにもわかんないから、いちばん純粋に音楽を捉えてた気がします。その頃聴いた曲が、ほかの何よりも体に染みてるんじゃないかな。- 今につながる意味での音楽への目覚めは「黒いオルフェ」だったんですね。
雛
それでインターネットで調べて、「あぁ、こういう曲なんだ」みたいな。インタビューを読んだりするんですけど、蓄積がないからさっぱりわかんなくて。アストル・ピアソラの「リベルタンゴ」とかも弾いてみましたけど、「なんかかっこいい」止まりでした。ただ中高生ぐらいになると、お稽古もエレクトーンならではの技術を使った内容にシフトしてきて、楽譜どおりに弾くだけじゃなくて「自分で耳コピして1曲仕上げてみよう」ってなるんですよ。エレクトーンって1台でがっつり打ち込みできるから。それで「大会に出るときはできたらクラシカルなものがいいんだけど、何がやりたい?」って言われて、ピアソラの「ブエノスアイレスの春」にしました。- どこで知ったんですか?
雛
当時フィギュアスケート全盛で、特にわたし名古屋だったんで(浅田)真央ちゃんで大騒ぎだったんです。あるときステファン・ランビエールが「ブエノスアイレスの秋」を使ってるのを見て「めっちゃかっこいい!」と思って、タンゴへの興味が久しぶりに再燃しました。そしたら今度は高橋大輔が「ブエノスアイレスの春」で滑ってて、「こっちのほうが好きだな」と思って、高2だかのときにそれで大会に出たんですよ。大会に出るとなると先生に「もっと音の掘り下げをしましょう」って言われるから、いろいろ調べてほかの曲も聴いたりして、「アルゼンチンタンゴってコンチネンタルタンゴとは違うんだな」とかいろいろ学んでました。すごいマニアックですよね(笑)。YMOの「ライディーン」で大会に出てた子もいましたけど、エレクトーンってそっち系のことも難なくできちゃうんです。だから結構いろんな音楽に手を出せたなって。- 雛さんの音楽性の根底にはエレクトーンがあるんですね。
雛
めっちゃ大きいですね。キーボードの演奏も完全にエレクトーンに縛られてると思います。エレクトーンってベースは足、コードは左手、メロディは右手っていう明確な役割分担があって、そこがピアノとの最大の違いだと思うんですよ。ピアノだと右手で和音も弾くし、左手でメロディも弾くじゃないですか。わたしはピアノのバッキングでもつい左手でコード弾いたりしちゃうから、自分の曲を聴いてても、コードが塊でバコバコ乗ってる感じとか、「エレクトーン出身の人の曲だなぁ」って思いますね。- それから、中学時代に音ゲーの『ポップンミュージック』にハマったのも大きいそうですね。
雛
そこで趣味が一気に広がったんですよね。音ゲーってめちゃめちゃいろんな曲があるし、特に“ポップン”は音楽好きのおじさんたちがそれっぽい曲を作ってるっていう側面もあったから、それで興味を持って自分でいろいろ調べて掘っていきました。例えば“ポップン”15か16で「シューゲイザー」っていうのが出てくるんですけど、曲名かなと思って調べてみたらジャンル名だって知って、いろいろ聴いて「かっこいいじゃん!」みたいな。そういう音楽の細かい知識は音ゲーで得ていったんだと思います。- そして、高校時代に現代音楽に興味を持ったことがきっかけで日大芸術学部に進んだんですよね。
雛
シェーンベルクがすごく好きになったんですよ。そもそもエレクトロニカが好きで、ニコニコ動画にいっぱいあった「作業用BGM」みたいなのから追っていったら、印象派にたどり着いたんですね。音の淡い色合いがエレクトロニカに似てると思って、ラヴェルとかが好きになりました。その後の年代に現代音楽が出てくるんですけど、それでシェーンベルクとか聴いて「かっこいい!」と思って。ああいうほぼほぼ不協和音みたいなのがすっごい好きなんです。現代音楽いいなと思って、アカデミックなことをやりたくなって日芸に行きました。今は現代音楽って勉強するものでもないなって思いますけど(笑)、何も知らなかったから。- でも中退しちゃったんですよね。
雛
授業に出なかったですからね(笑)。大学で知り合った友達にクラブミュージック好きが多くて、みんなDJやってたから、夜な夜な渋谷のあのへんに通いながら、がっつりクラブミュージックに触れました。朝方帰宅して、起きたら「やっべ、4限終わるわ。学校行くのやーめた」みたいな(笑)。DJの彼氏ができて毎回行ったりしてたんですけど、別れてから行きづらくなって、そこから行かなくなったっていう。- 大学時代に学んだのは現代音楽じゃなく、クラブミュージックだったという。
雛
何がなんでも実家を出たい、東京に行きたいっていうのが大きかったんですよね。親がめちゃめちゃ厳しくて、愛知県から外に出させてもらえなかったんですよ。そこで抑圧されてたぶん東京で弾けて、クラブ行きまくってやりたい放題やる方向にいっちゃって。そういう人多いと思うんですけど、わたしは20代前半を完全にそのノリのままでいってしまいました。ようやく落ち着いたのがここ2~3年で、それまでは遊ぶことしか考えてなかったです。- クラブに行かなくなってからは?
雛
地下アイドルにハマってました。めっちゃオタクだったんで、頑張ってチームしゃちほこ(現TEAM SHACHI)全通してましたね。命削ってオタ活です。- 最初に好きになったアイドルは誰ですか?
雛
ほんっとの源流はゴマキ(後藤真希)ですけど、高校のとき「踊ってみた」にめっちゃハマったんです。みんなももクロ(ももいろクローバーZ)かハロプロ(ハロー!プロジェクト)のどっちかを踊るんですよ。それで℃-uteを知ってめちゃめちゃ好きになりました。でも℃-uteはアイドルとして好きっていうよりも『美少女戦士セーラームーン』に憧れるのと同じ気持ちなんですよ。- かっこいい女の子の集団みたいな感じですね。
雛
そうですそうです。かっこよくて戦えてかわいくて、みたいな。『セーラームーン』とか『東京ミュウミュウ』とかも全部好きで、その流れの先に℃-uteがいました。なんですけど、大学時代に仲の良かった友達がももクロの大ファンだったんです。彼女が、チームしゃちほこが始まるとき「エビ中(私立恵比寿中学)に乗りそびれたから、こっちで古参ヅラしたい。あんた名古屋じゃん、一緒に行こうよ」って言うから行ってみたら、まんまと「なおちゃん(咲良菜緒)めっちゃかわいい! 骨格が違う!」ってなって完全にハマって、何かあるたびに名古屋に行くみたいな。名古屋出身なのに(笑)。雛
東京から通ってましたね(笑)。そうこうしてたら、仲良くなった女オタに「今度地下アイドルのイベントのスタッフやるんだけど来ない?」とか言われて、それがBELLRING少女ハート(のちにTHERE THERE THERESに改称、2019年2月に解散)のライブだったんです。行ってみたらマジで見たことのない光景が繰り広げられてて、ずっと意味のわからない奇声を上げ続けるオタクと学園祭みたいなライブしてて、曲がめちゃめちゃかっこよくて、そのすべてに衝撃を受けて、そのままベルハーにハマりました。ネットでめっちゃ調べて、地下アイドルというムーブメントがあることを知り、気になって行き始めて、今度は東京の地下に入り浸ってしまったんです。でも、後にも先にもこんなに曲が好きなのはベルハーだけですね。好きがこうじてご自身も地下アイドルになったんですよね。雛
そうですね。かわいい女の子はもともと大好きだから、「いいなぁ、わたしもなりたいなぁ」と思って自分も地下アイドルになって、いろいろ試行錯誤しながら毎日ライブしてました。一日3回まわしとかもやってて、わけわかんない毎日でしたけど。どれぐらい地下ですか?雛
めっちゃ地下です。でもめっちゃ地下じゃないところまでいろんなステージに立たせてもらって、いろいろ学びました。主に業界のおじさんはロクでもないっていうのと、あと女の子たちもロクでもない(笑)。わたしもロクでもないんだけど、わたしとはまた違ったロクでもなさなんですよ。それで「この世界あんまり向いてないかも」って思いつつも「やっぱり好きだから」って3~4年頑張りましたけど、結局やめちゃいました。でも自分の曲を披露するようになったのはその時代ですよね。雛
そうですそうです。なんていうグループだったんですか?雛
“PARTY ARISE”です。ベルハーの女オタクたちがアイドルグループをやるって言い出して、そこにわたしが加わって“ふわりんキュートチョコレート”っていうグループを立ち上げたんです。その後めっちゃ紆余曲折があって、5人で始めたのがPARTY ARISEでした。でも半年ぐらいで解散しちゃって、ひとりで“とみにか共和国”っていうふざけた名前で活動し始めたんです。結構長くやってたので、そこで知ってくれた人がcyberMINKのファンみたいなことはわりとあります。で、1~2年やってたら“Living Dead I Dolls”っていうグループのプロデューサーが声をかけてくれて加入しました。そこもいろいろあって、結局全員卒業という形になって、「またひとりになっちゃったな……どうしよう」ってところからcyberMINKを始めて、オーディションを受けて現在に至ります。最初はふたりだったんですよね。雛
そうです。Living Dead I Dollsをやめて何もやることがなかったときに、「メン地下(男性の地下アイドル)が最近キてるらしいよ」って話を聞いて、PARTY ARISEのメンバーのひとりと一緒にプロデュースし始めたんです。「cyberMINKも一緒にやろうよ」「いいよ」みたいな感じでそのまま始めたんですけど、トラブルに次ぐトラブルでダメになっちゃって。メン地下はわたしは抜けたんですけど、その後頑張って、今は円満卒業みたいな形になったらしいです。「f**kin’ QT」(2019年3月にリリースした最初のEP『commonsense』に収録)はそのメン地下に書いた曲なんですよね。
雛
そう。だから1人称が《俺》なんです。その友達はわたしの曲が好きだから一緒にやりたいって言ってくれたんですけど、結局ひとりになっちゃいました。わたしめちゃめちゃ内向的な人間なんですよ。だから他人と一緒なら、外向きに発信するのがうまい人と役割分担もできるし、自分では思いつかないアイデアをもらえるし、めんどくさいことも多いけど楽しいこともたくさんあるからいいんですけどね。誰かと一緒にやることもまたどこかでやりたいというか、やったほうがいいとは思ってます。ひとりでもやりたいけど、自分の価値観だけになるとちょっと怖いんで。いろいろやれるといいですね。ちょっと遡りますが、オーディションのときどう評価されたか覚えていますか?雛
事務所の社長からですか? 覚えてないです(笑)。まずオーディションを受けたきっかけが「賞金が100万円だったから」なんですけど、グランプリになったわけではないので100万円はもらえなかったし、もともともらえるとも思ってなかったし。だから素直に「ありがてえ!」と思いました。それまで何かに勝ったり受かったためしがほぼなかったから。社長
決勝のとき僕はいなかったんですけど、その前にcyberMINKはやるって決めてたんですよ。それでプロモーションを手伝ってくれてる人に見に行ってもらったら、帰ってきて「本当にやるの?」って(笑)。雛
そう言われてたらしいです(笑)。去年の3月に『commonsense』でデビューしてから1年半近く経ちますが、自信はついてきましたか?雛
全然! このアルバムも改めて通して聴いて「気持ち悪!」って思いましたし。どうして?雛
単純に自分のことが好きじゃないんでしょうね。「自分がめちゃくちゃ出ててきもっ!」って思ったから。これが好きだっていう人がいてくれるのはありがてえです。僕は好きですよ。隣に座っている担当編集者も。雛
ああ、ありがとうございます(笑)。完全に聞き流されましたね(笑)。雛
いや、うれしいんですけど、子どもの頃から蓄積されてきた自信のなさはなかなか解けないし、ツイッターとかでよく見る「自己肯定感を上げていこう」とか、「うるせえーーーっ!」ってマジで思います。「無理に自分のこと好きにならなくてもよくね?」って。自然と自分のことを好きになっていけたら最高だし、素晴らしいことだから、そうなれたらいいなと思って曲とかも作ってますけど、リスナーとして客観的にこのアルバムを聴いた感想は、まず「アルバムっていうより音源集じゃねえか!」っていうツッコミです。ほんとバラバラだし。全体のテーマみたいなものはないんですか?雛
ないですないです。あと全然キャッチーじゃないし、気持ち悪い(笑)。「逆に」とかじゃなくて素直に思うんですが、「自分が出すぎて気持ち悪い」と雛さんが思うってことは成功と言えるんじゃないですか?雛
出ちゃうんですよ、どうしても。じゃないとやっぱり不自然ではあると思うから、アーティストとして。自分で気に入った曲は?雛
「色褪せちゃったな」だけですね。これ以外全部ダメです。
どういうところが気に入っていますか?雛
自粛期間中に作業場を借りて、いい音質で聴けるようにシステムを整えたんですけど、そこで聴いたときにいちばんキレイでした。個人的にはピアノの打ち込みとかもっと音楽的にする余地はあったし、ストリングスとかも生で入れたらもっと素敵だったな、とか。コロナで発売が遅れましたけど、アルバムが完成したのは結構前なんで改めて聴いてみて「こうしたいな」っていうのが最近また出てきたかな。「KISEKI」も弾き語りでやりたいとか思うし。
自分で気に入る/気に入らないの基準は?雛
さっきと矛盾しますけど、自分の内面を素直に反映してるものが、なんだかんだ言って自分では気に入ってるんだと思います。自分の匂いがついた毛布で安心するのと一緒で(笑)。自分の匂いって自分ではわからないけど、他人の匂いを嗅いだあとだと「あー、やっぱこれ」って思うみたいな。そういう意味では「kiss and pain」も嫌いじゃないかも。
ざっくりとですが、エモい曲のほうが気に入る傾向が強いような。雛
間違いなく強いですね。「CANDY NIGHT」はいま作ったらたぶんもっとわかりやすく仕上げると思います。キャッチーさが中途半端でよくないなぁって。これを聴いたあとにきゃりーぱみゅぱみゅの「CANDY CANDY」を聴いて、あまりのキャッチー格差に愕然としました(笑)。今だったらもっと余分なものを削ぎ落として作れると思うし。「CANDY NIGHT」は、乙女チックな夢々しさとギスギスした殺伐さをうまく折衷していて、面白いと思いましたよ。
雛
男性は全員が絶対「女って面倒だな」って思ったことがあると思うんです。全部の女性がそうとは言いませんけど、いわゆる女性性が強い女性って、苛烈さとかわいらしさの両方を持ち合わせてるから。わたしはそこが女のクソな部分でもあり愛おしさでもあると思ってて、そういうところを歌詞とかで表現していけたらいいなっていう思いはあります。うまくできてるかどうかは別として。やっぱり歌詞も「色褪せちゃったな」がいちばん好きですね。「色褪せちゃったな」はわりと珍しい“ふった側からの失恋ソング”ですけど、たくさん聴かれれば共感を誘いそうです。一方、「CANDY NIGHT」「FUNKY婆ちゃん」「D.D.M.P. 南国Remix」などは面白がる感じに近い。cyberMINKは今のところヘンテコなイメージのほうが強いけど、エモい部分に可能性を秘めているんじゃないかとも思います。
雛
「cyberMINK」(『commonsense』収録)で世に出ちゃったから……でも、あれは元彼とふざけて作った曲なんで、正直これを自分の曲って言われると「ごめんなぁ」って思うんですよね。常にふざけている人は本当にすごいです。ヤバいTシャツ屋さんとか岡崎体育って、すごい心の闇を抱えてるんじゃないかって(笑)。わたしにはあんなにポンポンとは作れないから。
「All things must pass」の展開には、おふざけ感がちょっとあるような……。
雛
あれは、どんどん上がっていって最後に全然違うことになるみたいな展開をやりたかったんですよ。変な曲だけど、好きな人は好きなんじゃないかなって思います。Twitterを拝見すると現在J-POPの王道を研究中のようですが、「CANDY NIGHT」「kiss and pain」「Twinkle」「悪夢から醒めたら」あたりはそっちに寄せて作った感じがしますね。
雛
特に「悪夢から醒めたら」は90年代のメロディみたいなのをめちゃめちゃ意識しました。母はこの曲がいちばん好きって言ってて、年代がちょっと上のおばさんとかはわりと好きなのかも、って思ったりします。最近は音楽理論のつぶやきも増えていますよね。雛
理論をこねくり回すのはもともと好きなんです。よくツイートしてるのはDTMの先生を始めたからなんですけど、最近はポップさやキャッチーさについてめっちゃ考えてて……そのへんのことって理論では説明つかない気がするんですよね。ひとつ出てきた結論が、身体的であること、体に即してることなんじゃないかって。演奏しやすいとか歌いやすいとか、人間の体でできる範疇にあることがポップっていうか、自然に受け入れやすいんだと思う。打ち込みだとやりたい放題できるし、今回も絶対人には弾けないフレーズとか入れてますけど、音楽って電気がない時代からあるものだから、身体性を逸脱するとあんまりキャッチーではなくなるんだな、ってすごい思うようになりました。本質的な話ですね。雛
たぶん人間って直感的に判断してるんですよ、やっぱり。パッと聴いて「いい!」とか「好き!」ってなるけど、意識的に「俺はこういうのが好きだからこれが好きなんだ」とはあんまりならない気がする。無意識的なところにどうアプローチしていくかってことになってくると、体に即してることがすごい大事なんじゃないかって。DTMに慣れてると伸ばしたり縮めたりも自由自在だけど、できるだけ自分の身体性に則ったタイミングで打ち込むみたいなことが今後は大事になってくるかもなあって思ったりしてます。人力演奏ならではの揺れがグルーヴを生むって言いますよね。雛
わたし結構かっちり合わせちゃうんですよ。そうじゃないと気持ち悪く感じるからなんですけど、人の曲を注意深く聴いてると、そんなにかっちりしてないんですよね。キャッチーさを考えたらそういう要素は絶対に必要だから、最近はギターだけで曲を作ってみたり、去年導入したAKAIのForceっていうハードを使ったりとか、いろいろ試してみてます。次はもっと体に即したものを作りたいですね。今回のアルバムはDAW上だけで作った感じがすごくするし。それは重要な気づきですね。雛
とみにか共和国の時代からこんな曲を作ってきて、その頃よりはうんと成長したと思うんです。あのときは自分の中身をめちゃめちゃ粗削りなまま出してたけど、『CANDY NIGHT』は最低限の調理はできてる気がする。でもDAW上だけで作ることの限界も見えてきて、このままだと毎回、延々と同じことをやり続けるだけになっちゃうな、とも思うんです。もっと違う調理法を試さないと。ハードだけで曲を作ると、今までと全然違うものができるんですよ。自分に重りをつけて戦うみたいなことをやりたいなって、最近は思ってます。少年マンガが好きなので(笑)。アルバムを作って、やりたいことが明確に見えてきたと。雛
やっぱり自分の作ったものを気持ち悪いって思いながら世に出したくはないんですよ(笑)。同じ作り方を続けたらずっと気持ち悪いって思いながら作ることになってしまいそうで、それはすごくイヤだし、やっぱり自信を持って出せるようになりたいし、そうならなきゃ意味がないから、そのためにやり方を変えていきたいですね。これからライブでこれらの曲を演奏するわけですよね。雛
リアレンジしようかなって思ってます。もっとシンプルになるかも。DAWだとやっぱ無限に詰め込めちゃうから。結構音数多いじゃないですか、わたしの曲って。音数といえば、インダストリアルなノイズをふんだんに入れた「kiss and pain」とか、キラキラした音を入れながらグリッチを効かせた「Twinkle」は、理屈抜きに楽しいなって思いました。それこそ身体性を感じるというか。雛
あれは大好きです。自分の性癖というか、ああいうのを聴くと「いい!」ってなるんですよね(笑)。グリッチノイズは入ってれば入ってるほどいいんです、わたしは。わたし山椒が大好きで、麻婆豆腐を食べるときもかければかけるほどおいしいと思うんですよ。「おうひゃべえあい(もうしゃべれない)」ってなるまで(笑)。それと同じで、やっぱりマニアックなんですよね。気づかないうちにめっちゃ入ってるみたいなことになって、好きな人にはいいけど、現実的には死ぬほど山椒をかける麻婆豆腐屋さんは少ないですから、あんまり需要がないと思います(笑)。ただ身体的ではあると思います、グリッチノイズって。それはハードでもやれることだから、試していきたいです。今日の結論として、『CANDY NIGHT』に関して雛さんは「自信がある」とは言い切れないようですが……(笑)。雛
言い切れないけど、わたしのこと好きな人はたぶんこれ聴いたらめっちゃ好きだと思います。そういう人には、ありのままのわたしを好きでいてくれて「ありがとうございます」って思えます。でも、自信ないほうが次にもっといいもの作れる気がするから、それはそれで悪いことではないと思ってます。そうそう。すでに次の作品が楽しみです。もう新曲は作っていますか?雛
ちょくちょく作ってますけど、最近は環境を整えるほうを頑張ってたので「よし、じゃあ作りますか!」ってなったのがここ1ヵ月って感じです。作業場はプログラマーをやってる日芸の友達とシェアしてるんですけど、ヒントになることをいろいろ言ってくれるんですよ。ありがてえです。最後に、この先どんなことをしたいか、近未来でも遠未来でもいいんですが、お聞かせください。雛
どこどこのライブハウスに出たいとか、何万人集客したいとかいう欲はあんまりないんですけど、自分の曲をたくさんの人に聴いてほしいんです。聴いてもらわないと好きも嫌いもないから、やっぱり知ってほしい。そして、できたらずっと音楽を勉強し続けて、おばあちゃんDTMerになりたいですね。80歳とか90歳になっても楽器を弾き続けてる巨匠みたいに、シワシワになっても機材いじってたいなって。もうアラサーですけど、80歳で死ぬと思えばあと50年近くもある。そういう考えでやっていきたいなと思ってます。あ、そしたらオタクがみんな先に死んじゃうか(笑)。それは困るから、みんな長生きしてほしいし、わたしも長生きしたいです!【取材・文:高岡洋詞】
関連記事
-
ゆびィンタビュー
なきごとが待望のミニアルバムをリリース! バンドの飛躍が期待される新作『黄昏STARSHIP』は、どのような構想で生まれたのか。ロングインタビューで迫る!
-
ゆびィンタビュー
-
ゆびィンタビュー
-
ゆびィンタビュー
-
ゆびィンタビュー
-
ゆびィンタビュー
3ピースバンド・ankが約2年半ぶりとなるアルバムをリリース! 新作『いききっちゃおうぜ』に込めた思い、バンドのゆるぎない精神性について迫ったロングインタビュー!
-
ゆびィンタビュー
SAKANAMON待望の新作は、これまでの作品でも磨きをかけてきた「言葉遊び」と「音楽」をコンセプトにした、その名もずばり『ことばとおんがく』! 藤森元生(Vo/Gt)ロングインタビューで解き明かす!
-
ゆびィンタビュー
そこに鳴る、待望の1stフルアルバム『超越』。本人も“ベストアルバム”と語った意欲作について、これまで発表してきた5枚のミニアルバムを振り返りながら、その到達点を解き明かしたロングインタビュー!
-
ゆびィンタビュー
-
ゆびィンタビュー
約2年振りのミニアルバム『Pabulum』をリリースした、名古屋発の4ピースバンド・SideChest。彼らの変化も感じられるような革新的な一枚となった今作について、メンバー全員に話を訊いた。