ゆびィンタビュー vol.21 Lucky Kilimanjaro
ゆびィンタビュー | 2020.03.04
【第2部:2019年の躍進を経たバンドの現在地について、そして『!magination』人気楽曲投票も! 絶妙なバランス感覚でラッキリを動かす6人、全員集合インタビュー】
PROFILE
Lucky Kilimanjaro
Vo.熊木幸丸を中心に、同じ大学の軽音サークルの仲間同士で結成され、2014年、東京を拠点にバンド活動開始。“世界中の毎日をおどらせる”をテーマに掲げた6人編成によるエレクトロポップ・バンド。スタイリッシュなシンセサウンドを軸に、多幸感溢れるそのライブパフォーマンスは唯一無二の存在感を放つ。
2018年11月に1st.EP「HUG」にてメジャーデビュー。その後、2019年6月「風になる」、7月「HOUSE」、8月「Do Do Do」、9月「初恋」と4ヵ月連続でシングルをリリース。さらに10月には2nd EP「FRESH」を立て続けにリリースすると、楽曲の良さが評判を呼び全国のTV、AM/FM局にて56番組のパワープレイ・番組テーマを獲得。「FRESH」はオリコン2019年10月度FMパワープレイランキング1位を獲得。
同年8月にはROCK IN JAPAN FES.への初出演も果たし、フェスファンからも熱い視線を浴び、さらなる注目を集める。2019年11月、バンド自身初となるワンマンライブ「FRESH」@渋谷WWWは、公演4ヵ月前に即完状態。
2020年3月にはメジャーでは初のフルアルバム『!magination』をリリース。また同時に5月の東名阪ワンマンツアーの初日・恵比寿LIQUIDROOM公演はソールドアウト、渋谷CLUB QUATTROでの追加公演を発表した。
【第1部:「僕はひたすら自分の感じたことを率直に書くしかない」――“ポップスを書く人の運命”の中で生きる、ラッキリのメインコンポーザー・熊木幸丸(Vo)単独インタビュー】
- 素晴らしいアルバムですね。
熊木
ありがとうございます。自分としては、日々技術も上がるし好みも変わるので、アルバムが出る頃にはもう飽きてるんですよね(笑)。そうなると自分の作品が本当にいいものなのか、変に自信喪失してしまって。ようやくお客さんに届けることができて「いいね」って言ってもらえると、やっぱり出してよかったなって思えます。- ストリーミングが1カ月先行公開されていますもんね。聴いた方たちの反応は?
熊木
今回は僕の中でも「全部いい曲にしよう」みたいな感覚がありました。もともとそういうタイプというか、アルバム曲というよりはちゃんと1曲1曲独立して楽しんでもらえる曲を作りたいと思ってるんですけど、それが伝わったのか、みんなそれぞれ好きな曲が違うなぁと。それは面白いなと思いましたね。- 僕は構成をよく考えて作っている印象を受けました。冒頭の「Imagination」と最後の「ロケット」の両方に“想像力”というワードが出てきて、その2曲でサンドイッチしている構成に、ゆるいテーマ性を感じたというか。
熊木
ものすごく考えたかって言われたらそうでもないんですけど、「ロケット」を最後にしようっていうのは思ってました。最初に書いた曲なんですけど、その前にちょっと迷った時期があって。「FRESH」を書き終えて、4カ月連続シングルの最初の「風になる」を出したぐらいで、このあとのLucky Kilimanjaroがどうなるべきなのか、自分の中でこんがらがっちゃったんですよ。それで「迷っててもしょうがないから、とりあえず自分が今いいと思う曲を書こう」と思ってできたのが「ロケット」なんです。僕の中では結構気に入った作品になったのもあって、自分が信じることをとりあえずやってみるのは大事だな、って僕自身、救われたし気づきになった曲なんですよ。だからアルバムのテーマもそうしたいと思ったし、聴いたお客さんがそういうふうに動いてもらえたらいいな、と思ってアルバムの最後に持ってきました。- なるほどね。
熊木
1曲目と最後で歌詞をリンクさせるみたいなのが僕は好きなんです。漫画で古いキャラが急に出てきて主人公を助けに来てくれるみたいな(笑)。だから歌詞に古い曲の一節を入れたりします。例えば「とろける」に《ゆるりと起きた 13時》(「HOUSE」の一節)を入れたり、「新しい靴」にかけて“新しい”という言葉をあちこちに入れたり。そういう過去とリンクしていくような楽しさっていうのは追求したかったんです。- 「Imagination」と「ロケット」の2曲はメロディもちょっと似ていますね。
熊木
似せようと思ったわけではないんですけど、ちょっと宇宙感のある広がりを出したかったので、その感覚がメロディに入ってきたのかな。広い音で始めて、広い音で終わりたかったんです。- 「Imagination」はキーも低めで、アルバムがフェードインで始まるような感じもあります。
熊木
僕の声質的に、優しく語りかけようと思うと低い声で歌ったほうがいいんですよね。冒頭のメッセージをどう伝えるべきかを考えて、淡々と優しく語りかけようと思って、いつもよりトーンを落として歌ってます。- おかげでアルバム全体のまとまりが出たのかなと思いました。
熊木
僕はそういうふうに育ったので、通して聴いたら1本の映画を観たような、何か新しい感覚に触れたような気になれるものにしたくて。Lucky Kilimanjaroらしいダンスナンバーの「DO YA THING」を後ろのほうに持ってきてるのもそういうことで、後半でより深く入っていくみたいな構成にしてますね。- 「君とつづく」と「春はもうすぐそこ」の間の余韻を長めにとっているのは?
熊木
「君とつづく」のリバーブのテールの音を気持ちいいところまで伸ばしたら意外と長くなっちゃいました。ちょっと長すぎたかなと思って、CDのマスタリングのときに削りましたけど(笑)。ちゃんとした環境じゃないと、普通にスマホとかで聴いていたら、これ聞こえないなと思って。でも、その長い余韻から「春はもうすぐそこ」にいくのは僕の中では大事なことで、もう1回アツくなれる部分をここに入れようと思ったんです。- リズムのバリエーションがとても豊富ですよね。「350ml Galaxy」なんて1曲の中に4パターンぐらい入っている。
熊木
たくさん入れようって意識したわけではないんですけど、去年「Do Do Do」とか「FRESH」を作ってから、トラップっぽいリズムを入れるのにかなり慣れてきたのもあって、曲の展開に合わせていろんなリズムが入れられるようになったというか、自然と入ってくるようになったと思いますね。「この次にこれがきたら気持ちいいだろうな」っていう感覚が、ちょっと変わってきたのかなと思います。- 変わってきた理由はなんですか?
熊木
去年はディープハウスとかばっかり聴いてたんですけど、4つ打ちじゃないヒップホップやソウルを聴くことが多くなったことの影響かなとは思います。トラップとかのふわっとした音を聴くことが最近は多かったから。- 「グライダー」の中間のトリルっぽいビートとか、ちょっとヒップホップ感が強めですよね。
熊木
ジャンボジェット機が実際はめちゃくちゃ速く飛んでるんだけど、遠くからはゆっくりに見えるじゃないですか。ああいう感じが音でできたらいいなと思って、結構いろいろなパターンを試してできました。- 「RUN」は、ビートはドラムンベースっぽいけどいろんな音が入っていて、あんまり聴いたことのないタイプの曲だなと思いました。
熊木
最初ドラムン作ろうと思ったんですよ。ジョジョ・メイヤーとかスクエアプッシャーとか聴いてて。ただ僕がガチのドラムンを作ると暗くなるんで(笑)、どうしようかなと思って、とりあえず「ドラムンだけどドラムンじゃないやつにしよう」みたいなところでいろんなサウンドを足していったんです。その感覚を歌詞にも書ければいいなと思って、「わかんないけどとりあえずやってみる」みたいな歌詞になったんで、音とリンクしていい感じになりました。- 音楽的な試みと歌詞の内容をリンクさせているんですね。
熊木
「ロケット」もそうですし、「RUN」も「やるしかねえんだよ!」っていう自分の思いをそのまま歌詞にしたみたいなとこがありますね。- ダンスミュージックをやっているけど歌詞にもちゃんと意味とメッセージがある、というLucky Kilimanjaroならではの持ち味は、今回も健在ですね。
熊木
はい。歌詞に関してはちゃんと伝えたいことを大事にして、Lucky Kilimanjaroらしい温度感で届けようと思って書いてます。- Lucky Kilimanjaroらしい温度感というのは?
熊木
煽るんじゃなくて、友達と居酒屋に行ったときに悩みを相談されて何か言うみたいな(笑)、悪く言えばちょっと無責任というか、友達にアドバイスしてるような感じを大事にしようと思ってます。だからあんまり強い言葉は使わない、けど、どういうことを言いたいかははっきりしてるから、芯は強くしようと。そこの塩梅がLucky Kilimanjaroらしい温度感なのかなと。- “踊る”という言葉も相変わらずたくさん出てきますね。全部ではないけど。
熊木
とりあえず入れる癖があるんですけど(笑)、今回は「Drawing!」なんかそうで、“踊る”って言う代わりに“描く”とか、別の表現に変えた箇所も結構ありますね。ちょっとサウンドと合わなかったりとか、バリエーションを……でもそんな考えてないな。ここは“踊る”よりもこっちの言葉のほうが入ってきそう、みたいな感じです。でも言いたいことは“踊る”だろうが“描く”だろうが一緒で、何か心ワクワクすることを始めよう、っていうところで一貫してると思います。- シングル連続リリースのときはあえて全曲に“踊る”を入れたとおっしゃっていましたが、今回はそこまではしなかったと。
熊木
でも思いついたら入れてるかもしれないですね。やっぱりLucky Kilimanjaroは“踊る”バンドなんだって思ってほしいし、聴いた人に潜在的に“踊る”を染み込ませたいっていうか。ずっと言い続けてれば、ステージ上のパフォーマンスを観るものじゃなくて、お客さんであるあなた自身のことなんだよ、ってわかってもらえるかなと思って。- 1曲ごとにモチーフが明快なのも印象的です。「Imagination」は“想像力”だし、「Drawing!」だったら“描く”、「350ml Galaxy」なら“酒”みたいに。
熊木
メッセージ×シチュエーション×モチーフみたいな公式が僕の中にあるので、例えば「350ml Galaxy」だったら、毎日疲れるけど何かしら挑戦しないといけない、ということと、飲み会に行かなかった帰り道、みたいな(笑)。そんな感じで最初に決めちゃうことが多いですね。そういう意味では歌詞にある程度の一貫性というか、この歌詞ではこのモチーフで話す、みたいのはあるかもしれないです。- 言いたいことをそのまま言うんじゃなく、何かに託して伝えるみたいな?
熊木
それぞれのイメージしやすいものとくっついたほうが記憶に定着するでしょうし、みんなに“わたしごと”だって思ってもらえると思うから、抽象的になりすぎないようにはしてますね。- たとえ話っぽい。
熊木
そうですね。「例えばこういうことあるじゃん」とか「これってこういうことだよね」みたいな話し方をしたほうがメッセージに強度が出るというか。- 「350ml Galaxy」や「とろける」にはユーモアもありますね。
熊木
ちょっとふざけた要素が入ってますね。もともと僕ってそんなにこういう歌詞を書くタイプじゃないんですけど、去年「HOUSE」を出して、おかげさまでたくさんの人に聴いてもらえたので、「こういう楽しさもあるんだな」とか「こういうふうにメッセージを伝えることもできるんだな」とか、自分はそういうこともできる人なんだなって気づいたんですよ。その2曲はそういう感覚で、日常に溢れてる部分と、人生のちょっとした楽しみや幸福をつなげようと思って書きました。- メジャーデビュー以降のリリースをひと通り聴き直してみたら、どんどん大胆さが増してきている気がしました。
熊木
うんうん。サウンド面でいえばいろんなことやっていいんだなって思ったし、さっき話したとおり「350ml Galaxy」とか「とろける」の歌詞が出てきたのは「HOUSE」を出したからだし、2019年にいろいろやってきたことをさらに広げられるなって意味では、いろんなものに挑戦できたかな、と思ってます。それは2019年にたくさん聴いてもらえて、大きなフェスとかにも出られたことで、僕らも自信がついたし、よりいいものを、より広く届けなくちゃいけないっていうプレッシャーも感じてるし。そこがちゃんと作品として昇華されたのかなと思ってますね。2019年の経験がそのまま糧になった感覚があります。- このあとはメンバー全員でわいわい話してもらうんですが、ソロインタビューの最後に、コンポーザーとしての熊木さんが『!magination』に至るまでにどんなことを学び、どう変わってきたのかをまとめてみていただけますか?
熊木
いちばん大きいのはさっきの「ロケット」の話で、自分がいいと思うものを作らないといけないと思ったし、形になって誰かに届けられるんだから、それは完璧を目指すよりかは気軽にやったほうがいいな、っていうのは改めて感じました。あと自分の感覚として、『!magination』は2019年の作品よりはかなりいろんなことができたと思うんですけど、その前に何ができなかったのかは、もうわかんなくなってるんですよ(笑)。当時と今とで全然違うのは、自分のデモを聴いてもわかるんですよね。サウンドもうんとシビアに作ってるし、歌詞も前より一貫性があるなって思うし。やっぱりいろんな人に聴かれたことは大きかったと思います。「大胆」って言っていただけたのも、受け入れられた自信ゆえにできたことだって思うし。お客さんと一緒にもっと上に行きたい、もっと楽しみたいっていう思いが入ってきたのかな。みんなをエンパワーしたい、という芯の部分はずっと変わらないんですけど、手法のバリエーションと強度を上げようっていうことで努力したというか。- いろんなことができるようになった一方で、焦点はより絞れてきた、みたいな。
熊木
そう思います。いや、絞れてるかな? いつもちゃんとメッセージは乗せようと思ってるんですけど、そのメッセージが聴く人にとって有効なのかはずっと問い続けてて。だからこそ強度も上がってきたとは思いますけど、まだまだ未完成なものをずっと残してる感じはありますね。- もちろん、まだまだこれからも変化していくでしょうね。
熊木
それがミュージシャンだし、ポップスを書く人の運命っていうか。いつまでも完成は見えないんだろうと感じるので、僕はひたすら自分の感じたことを率直に書くしかないと思ってます。
【第2部:2019年の躍進を経たバンドの現在地について、そして『!magination』人気楽曲投票も! 絶妙なバランス感覚でラッキリを動かす6人、全員集合インタビュー】
- 楽曲は熊木さんがデモでほぼ完成まで詰めるそうですが、作曲クレジットはLucky Kilimanjaroになっていますよね。ということはメンバーの皆さんのインプットもあるんだろうなと思うんですが。
熊木
今回はマジで少ないかもしれないですね。「作曲:Lucky Kilimanjaro」にしてるのは慣習だから。山浦聖司(Ba)
前はもうちょっといろいろありましたけど……。熊木
今回わりとオッケーだったよね、俺が出したので。どっちかっていうとボツ曲を徹底的に叩き潰す人たちだよね。全員
(笑)。松崎浩二(Gt)
今回は特に何もなかったです。熊木
むしろ歌詞に結構みんな文句言うから(笑)、「作詞:Lucky Kilimanjaro」になるかもしれないぐらい。僕が強い言葉を使っちゃったりすると「怖くない?」とかすごい言われます。特にこのふたり(松崎、大瀧)が。松崎
良くない捉えられ方をしちゃうのはもったいないから、言い回しを変えたほうがいいんじゃないかな、って思うことはたまにあります。熊木
《唾を吐く》とかいうのがあると、僕は普通の慣用句だと思ってたけど……。松崎
耳ざわり的にちょっとヤだなって。大瀧真央(Syn)
汚いよ。しかもそれ恋の歌だった気が(笑)。たしか「Hottest Lover」。熊木
えっ、そんな前だったっけ? 最近の曲も「これ違くね?」って言われたよ。大瀧
レコーディングのときに「ここ変えたほうがいいんじゃない?」とかは何度か言った気がするけど。たまに日本語おかしいしね。ラミ(Per)
英語は気づかなかったじゃん。大瀧
英語! 知ってます?- 《Try to Drawing!》(「Drawing!」の一節)ですよね(笑)。「あっ」と思いました。
松崎
誰も気づかなかったんですよねえ。熊木
みんなの審査をかいくぐったわ。- (笑)。それは勝利なんですか?
松崎
「作詞:熊木幸丸」だから、俺らに責任はないよね。熊木
あれはみんなで作りました!ラミ
俺、《Try to Drawing!》って言ってると思わなかったもん。“ツァイツェンフォーミー”って聞こえてた。熊木
みんなこれぐらいのテンションで聴いて、これぐらいのテンションでダメ出ししてきますね。ラミちゃんは特に、もともとJ-POPガチガチに聴いてた人なんで、「なんか歌が弱えんだよなあ」みたいなことをずっと言ってきます(笑)。ラミ
「これ、弱くないすか?」って(笑)。熊木
「なんか俺の好きなタイプじゃないんだよな」とか言ってきて、僕が「そっか……変えないといけないかな」と思って変えたりはします。そういう意味では今回はそんなに手は入ってないかもね。大瀧
なかったよね。熊木
少なかったけど、なかったわけじゃないと思う(笑)。- 2019年11月のワンマンライブを観させてもらって思ったんですが、Lucky Kilimanjaroはダンスバンドとして強力だけど、最終的には歌を聴かせるバンドなのかなって。
大瀧
そう思います!松崎
それが理想だと思ってやってると思いますね。熊木
僕ら、もともとめっちゃクラブに行ってたとかそういうタイプじゃなくて、むしろロックフェスに遊びに行ってた人たちなので、ダンスミュージックをやってるけど、ライブはロックバンドだったりポップスだったりする感覚のほうが強いかもしんないよね。歌を前面に出すのは前提というか。ラミちゃんなんて歌を聴かないと叩けないって言うもんね。ラミ
そうですね。お客さんにとっても、メインに歌があってあとは後ろのビートがどうなってるかだと思うんで、歌が大事だなって感覚はみんなあります。- それは最初から?
熊木
最初からだよね。僕の歌詞だったり、歌も徐々に上手くなってきて、より強度が増してきた感じはある。昔は2ドラムにしてシンセもバンバン入れて、みたいなサウンド感を推していこうみたいな感覚があったけど、それこそ『HUG』以降はより歌をフィーチャーしてる――たぶん無意識だろうけど、そういう曲だなって思ってくれてるんだと思います。熊木
(柴田、ラミに)そう思ってますか?ラミ
あ、はい。熊木
あんま考えてないでしょ(笑)。柴田昌輝(Dr)
でも『HUG』以降はメッセージがはっきりしてきて、歌を届けてるって意識は強くなりましたね、自分の中でも。大瀧
わたしがリスナーだとしても、メロディに歌詞がちゃんと乗ってるからすっと入ってくる度合いが前よりも強くなった感じがしますね。組んだ当初は歌詞が聴き取れなかったりしてたんじゃないかな。熊木
たしかに、よりはっきり歌うようになったよね。そういう意味では、聴いてるお客さんも僕らが思ってる以上に、歌を強く出してるなって聞こえるかも。- うん、僕にはそう聞こえました。かつ、ライブになるとアレンジがかなり大きく変わりますよね。そこもラッキリの魅力のひとつかなと。
熊木
変えてるって感覚はめっちゃあるよね。松崎
うん。イヤホンで聴いてるのとライブは全然違う良さがあります。体で感じてもらうような強さがね。大瀧
音源は耳に心地よく、ライブはバンドサウンドで。熊木
俺がロックバンド出身だから全然違和感がないんだな、その感じに。「バンドやりてえ」みたいな感覚があると、そりゃシンバルもパンパン鳴らすしフィルもガンガン入れるし。そういうアプローチが曲に上手くマッチしててよかったなって思います。- 特にリズムセクションの目立ち度が上がるなぁと。
山浦
わりと出してますよね、CDで聴くより。柴田
うれしいです。熊木
パワフルにしてるもんね、ドラムとベースは。俺が自分の音源で使う音とは全然違うし、そうお願いしてるから。「パワーを出してくれ」って。山浦
だから結構厳しい意見ももらったりして(笑)。「こういうふうに弾いてほしい」とか「こういう音色がいい」とか。熊木
最近だとドラムは全然……むしろ「あ、そこそんなにこだわるんだ」みたいなレベルになってきたもんね。良くなってるのはわかるんだけど、俺にはどうしたらそうなるのかわからないという(笑)。柴田
俺の中ではユキマルさんの求める音がわかってきたような気がしてるんです。「こういうのがほしいんでしょ?」みたいな(笑)。ラミ
そりゃ文句ないよね。- リスナーの感想も受けて、それぞれアルバムについて感じることはありますか?
松崎
フルアルバムならではの良さがあるなって思います。5曲ぐらいだったらコンセプトがはっきりしててやりたいことがギュッと詰まってるものがいいと思いますけど、フルは逆に、右に行ったり左に行ったりしながらメッセージを伝えるもので、そこがしっかりできてると思ったし、曲調もより自由な感覚があって。SNSの反応を見てても好きな曲がバラバラなので、すごくいいものが出来たと思います。大瀧
たしかに。バンド内でも好きな曲が全然違うんですよ。熊木
トップ3をみんなに聞いたんですけど、みんなめちゃくちゃバラバラで。- せっかくだからみんなの1位を発表してください。
大瀧
変わったなあ。松崎
変わったよね。熊木
今の1番でいいよ。俺は「ロケット」で変わってないかも。大瀧
わたしは「春はもうすぐそこ」。ラミ
俺も!松崎
俺は「ロケット」かな。山浦
俺は「君とつづく」。聴いてるうちに「うわ、これ、めちゃくちゃいい」って。すごくイメージが浮かんできやすいというか。柴田
僕も「春はもうすぐそこ」ですね。熊木
2番目は? 僕は「グライダー」。大瀧
わたしは「ロケット」。ラミ
俺も「グライダー」だな。大瀧
結構かぶってる(笑)。最初もっとバラバラだったよね。ラミ
最初、どれを推し曲にするかって話し合ったときは「350ml Galaxy」か「Drawing!」か「ロケット」か、みたいな。でも「350」は飽きちゃったんだよね(笑)。熊木
たしかに、「350」はみんなに聴かせたとき「絶対、次のリード曲だよ」みたいなこと言ってたのに、飽きるんだもん。困っちゃうよ(笑)。熊木
最終的に「Drawing!」か「350」か、ってなったときに、いやいや「350」でしょ、みたいなフィードバックきたもんね。でも俺が「違うんだよ! 『Drawing!』なんだよ、今回のメッセージは!」って強硬に主張して。松崎
そのとおりになりました。熊木
だんだんとまとまってきました。最初はマジでバラバラすぎて、「同じバンド?」って思ったぐらい(笑)。- 僕が好きなのは「君とつづく」なんですよ。何がいいって描写が具体的で。
山浦
浮かんできますよね。熊木
いちばん愛おしい時間をきれいにしたい、っていう気持ちで書きました。- サビの情景描写が、その感情を「愛おしい」という言葉を使わずに表現している。
大瀧
詩人ですよね。熊木
「君とつづく」はずっと飽きてない、俺も。- それぞれ推した理由をお聞きしましょうか。
熊木
「春はもうすぐそこ」が多かったですけど。柴田
春って新しいことが始まりそうなワクワク感みたいのがあるじゃないですか。そのワクワク感が詰まってるというか。春に味わうあのワクワクを、この曲を聴くと感じられるというか。その感覚がすごく好きですね。熊木
春って不安と期待がガッてなる感じがあるから、それを表現したかったのが「グライダー」と「春はもうすぐそこ」なんですよ。何かが始まる不安と何かが始まる期待を混ぜてきれいにかっこよくしたい、みたいな。ラミ
僕がこの曲を好きなのは、そんなに強い言葉じゃないのに、めっちゃ後押ししてくるやん、みたいな。大瀧
わかる! 《鮮度が大事》のところのブロックがめちゃめちゃ好き。迷ってたら手をつかんでグッと引っ張り上げてくれるような。ラミ
「煽ってくるなあ」じゃなくて「煽って……きてる、ね?」みたいな(笑)。「頑張らなきゃ」じゃなくて「頑張ってもいいかな」って思えるんですよ。熊木
たしかに、《いいからやれ》っていう言葉は俺にしてはちょっと強いから、バランスをとったかも。大瀧
あと単純にかっこいい。- ちょっとハウスっぽいですよね。
熊木
ずっと自分の中でいろいろ足したり引いたりしてたらできた曲だからジャンル感はわかんないんですけど、最終的に何になったんだろう?ラミ
女子十二楽坊じゃないの(笑)。熊木
あ、それだ。女子十二楽坊ハウスになったなって。日本っぽいダンスミュージックで、パーカッションが強いから。俺のイメージはずっと壺を担いだ人が歩いてる感じなんだよね(笑)。手塚治虫先生の『火の鳥』のお祭りのシーンみたいな感じで、ローブみたいなのを着た人たちが火を囲んで踊ってるイメージなんですよ。その後ろで女子十二楽坊みたいな人たちが演奏してるっていう。ラミ
全然わかんないよ!(笑)。松崎
それ衝撃的だな。椿とかヴィダルサスーンのCMみたいなイメージかと思ってた(笑)。大瀧
長い黒髪のモデルさんが出てくるやつね。ラミ
俺、弓道部の女子だわ。熊木
それぞれちょっと違うけど、日本っぽいんだね。- 「ロケット」推しの皆さんは?
松崎
ライブをイメージしたのかなって思ったんですよ。大きい会場で、体ごと包んでいくような音だったりとか、ビートもそんなになく、新しいLucky Kilimanjaroの良さになりそうだなっていう予感もあって、好きなのかなって思いますね。大瀧
わたしは歌詞がすごく好きです。このアルバムでも最も優しい歌詞なんじゃないかなって思うくらい。《君の星になるよ》なんて「えっ、そんなんになってくれるの?」みたいな(笑)。すごく温かい目で見守ってくれてて、優しい歌だなって思います。熊木
言葉はキザにしてもいいと思って書いてるから。小田和正さんとか山下達郎さんとかMr.Childrenとか好きなんですけど、まぁストレートな言葉を書くなぁと思うし。大瀧
“君のそばにいるよ”とかじゃないのがすごく好き。熊木
そばにいても音楽は作れないから。人が挑戦するのって孤独じゃないですか、基本。誰かの支えはあっても、結局作るのはその人だし。ラミ
星になれば音楽作れるの?熊木
星になったのは俺じゃないからね。この人が自分の作品を打ち上げて、それがほかの人の将来にとっても星になるっていう。- 推し曲が「自分が活躍できそうな曲」じゃないのが面白いですね。
熊木
全然演奏する前提で考えてないよね。リスナーとしてみんな聴いてる。松崎
それ、たぶん誰も考えてなかったと思います(笑)。熊木
ジーコは「ロケット」推してたけど、あの曲ギター入ってないし(笑)。- でも、それがこのバンドのいいところだと思いますよ。
熊木
プレイヤーが集まってるんじゃなくて、Lucky Kilimanjaroっていうプロジェクトで見せてるので、全員がひとつになってないとダメなんですよね。そこはメンバーもそういうものだっていう感覚なのかなと。- 山浦さんとラミさんはライブでは楽器を持ち替えて忙しくやっていますよね。
熊木
でも、みんな元からできるわけじゃなくて、僕がむちゃぶりしたんですよ。鍵盤すら弾いたことなかったのにシンセベースやってもらったり。山浦
最初、指が攣りそうになりました(笑)。「HOUSE」が全然できなくて。本人はできてるつもりなんですけど、今もダメ出しくらいますね。ある程度は形になってきてるかなと思うんですけど。でも、自分にはなかった引き出しなんで、楽しいです。熊木
ラミちゃんももともとドラム2台でバンドやろうぜって言って誘ったのに、いつの間にかキックがなくなり……。ラミ
ドラムの機材がどんどん僕の前から消えていくんですよ。気づいたら椅子も無くなって立たされてて(笑)。でも楽しいですよ。新しいものがどんどん出てくるってことは、それだけバンドの幅が広がっていくってことだと思うので。1回ぶつかったこともあるんですよ。自分のすごい好きな音とかもあるんですけど、「バンドには合わなくね?」「いや、俺はこれがいちばんいいんす」って。熊木
そういうぶつかり合いもあったんですけど、結果として、最終的にメンバーはLucky Kilimanjaroを成り立たせることを大事にして演奏してくれているなぁって、ただ歌ってるだけでも感じます。- 熊木さんがライブでステップを踏みながら歌うじゃないですか。失礼を承知で言いますけど、決して上手じゃないのがいいなと思いました。
熊木
僕もともとめっちゃ運動音痴なんですよ。運動がダメだったからギターを始めたようなもんなんですけど、それでも楽しければ踊ったほうがいいなって思うから、上手いかヘタかはどっちでもよくて、自分が今この楽しみを表現できてるかどうかが大事だなと。でもめっちゃ言うよね、俺がステップ踏むと。大瀧
えっ、そんな言う?熊木
このふたり(ラミ、大瀧)は踊れるんですよ。Lucky Kilimanjaroダンス部だから(笑)。ラミ
俺、1回「まじでダンス習いに行ったほうがいいんじゃないすか?」っつって。「なんか全然かっこ悪いすけど」って(笑)。「これがいいんだよ!」って言うから、いいのかなって。熊木
だんだん慣れてきた?ラミ
だんだん慣れてきましたし、ヘタなのに自信満々でやってたら「あえての?」みたいな(笑)。独自の空気感も出てくるじゃないすか。大瀧
“ユキマルステップ”ってSNSに書かれてたもんね。お客さんも「あ、それでいいんだ」って思ってくれれば、見本としていいんじゃないかと(笑)。- お客さんも気が楽になるんじゃないかと思います。
熊木
俺が三浦大知さんぐらい踊れたら、誰も踊らないもんね(笑)。大瀧
おしゃれな音楽のライブって意気込んじゃって踊りづらかったりするかもしれないけど、うちのバンドはそのへん違うかなって。松崎
お客さんから「メンバーがすごく楽しそうに演奏してるのがいい」ってよく言われるんですけど、ほんと楽しいんですよね。それが素直にお客さんに伝わってるんだったらいいなって。大瀧
自分らもリラックスした状態でライブできるし、お互いにいいんじゃないかと思いますね。熊木
俺がステップを踏む姿を見て、みんなそれぞれに踊ってくれればいいなって思います。そこは大事にしていきたいけど、別に上手くなりたくないわけじゃないんですよ(笑)。ダンスのレッスンに行ったりはしないけど、ヘタでいようとは思ってない。大瀧
向上心はあるんだね。熊木
でも自分がヘタだから何か伝わってる部分もきっとあって、型にはまらないで自分流のままで上手くなっていこうかなって(笑)。- 最後に、今年どんなことをしたいか、ひとりずつ伺えますか?
山浦
個人的に、作曲に関してはユキマルさんに全部頼っちゃってるんで、今年の課題としては、自分もそこに参加できるようにしたいです。こっちから「こんなんどうですか?」って言ってみたい……って前から言ってるんですけど(笑)、なかなかいけてなくて。でもそこはやりたいなって思いますね。松崎
僕は特に大きい会場でやりたいとかはあんまり考えてないんです。出してる音源やパフォーマンスは間違いないと思うけど、フェスとかの短い転換時間で結束が固まりきってなかったりとかすると、不安さがお客さんに伝染してしまうこともあったりして、そういうのはもったいないと思うので、そこをより固めて、どこに出てもいい空気感を伝染できるようなバンドになれればいいなと思ってます。それさえできれば、どんな会場でもできるバンドだと僕は思うので。大瀧
わたしは今年フェスにいっぱい出たいです。ワンマンツアーのリキッドルームもありがたいことにソールド(アウト)しましたけど、まだまだ地方には浸透できてないので。もっともっといろんな人に聴いていただける機会に参加したいです。柴田
僕もLucky Kilimanjaroをもっともっと広げていきたいです。「DO YA THING」の《僕の僕だけの山を登る/このダンスで 遠い誰かを幸せにする》っていう歌詞がめっちゃ気に入ってて、今のLucky Kilimanjaroの意思というか、やる意味みたいなのが感じられるというか。これを実現していきたいなと思います。ラミ
僕はお客さんが増えるのはもちろんですけど、身内がどんどん増えるのもうれしいんですよ。大学のサークルの延長線上でずっとやれてるのがいいことだと思ってるんで、まずはこの6人で楽しくやって、それを応援してくれる人が増えて、いろんな人を巻き込んでいけたらいいなと思います。熊木
みんなが言ってるとおり、もっとたくさんの人に聴いてもらう必要があると思ってるし、まだまだ知らない人がたくさんいるから、地方のフェスだったり、僕ら自身の公演ももっと幅広くいろんなところでやるべきだと思ってて、そういう意味ではお客さんを増やして、Lucky Kilimanjaroの世界観を感じられる人を増やしたいっていうのはあります。僕個人というかLucky Kilimanjaroの作曲を担う人としては、とにかく自分が飽きないように。「これが売れるっしょ」みたいな考え方じゃなく、自分の中で本当にいいなと思える作品を書きたいし、現に書けてるので、それをちゃんと続けていきたいですね。
【取材・文:高岡洋詞】
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リリース情報
!magination
2020年03月04日
ドリーミュージック
02.Drawing!
03.350ml Galaxy
04.グライダー
05.RUN
06.時計の針を壊して
07.とろける
08.君とつづく
09.春はもうすぐそこ
10.DO YA THING
11.ロケット
お知らせ
■ライブ情報
TOUR「!magination」
05/02(土) 東京 恵比寿LIQUIDROOM ※SOLD OUT
05/08(金) 愛知 名古屋CLUB UPSET
05/09(土) 大阪 心斎橋Music Club JANUS
「!magination ~もう一杯~」
06/21(日) 東京 渋谷CLUB QUATTRO
夢チカLIVE VOL.142
03/28(土) 北海道 札幌Sound Lab mole
NEXTO中日本スペシャル!
2020 supported by FM AICHI「ROCK YOU!」
04/19(日) 愛知 名古屋CLUB QUATTRO
CROSSING CARNIVAL’20
05/16(土) 東京 渋谷ライブハウス7会場
カローラ福岡 Presents NUMBER SHOT 2020
07/18(土) 、07/19(日) 福岡 国営海の中道海浜公園
※出演日未定
※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。