フラスコテーションの成長と挑戦、妥協を許さない渾身の1stアルバムを紐解く!

ゆびィンタビュー | 2020.07.31

 神戸の男女4人組ロックバンド・フラスコテーションが結成から4年目を迎え、1stアルバム『呼吸の景色』をリリースした。時に狂気をにじませながら、胸の内に渦巻く様々な感情が奔流となって迸る佐藤摩実(Vo/Gt)の歌と、それに負けないくらい鋭い強さを持ったバンドサウンドは、これまでライブハウス・シーンでじわじわと支持されてきた。代表曲の再録も含む全15曲を収録した『呼吸の景色』は現在のみならず、過去も未来も含め、フラスコテーションとはどんなバンドなのかを見せようと挑んだ野心作。ライブハウスを熱狂させてきたフラスコテーションはもちろんのこと、これからどんなバンドになっていきたいかという希望も新たな音像として表現している。
 彼らが追求するのは、音の衝撃と自分たちならではと言える世界観。表現の核にはロックバンドらしい衝動と迸る感情がしっかりと感じられるが、今回のアルバムを作るにあたっては、勢いだけに終始せず、作品としてもちゃんと聴きごたえのあるものを作ろうと精緻を極めようとしたようだ。そんなところも大きな聴きどころ。
 早速、1stアルバムのリリースとともに転機を迎えようとしているバンドの声をお届けしよう。


PROFILE

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フラスコテーション


 2017年、兵庫県神戸市にて、当時高校3年生だった佐藤摩実を中心に結成。
 地元神戸を中心に活動しながら発表したデモ音源「三角形」を音楽配信サイト「eggs」に投稿するやいなや、デイリー1位にまで浮上。“十代白書”等のコンテストで上位にランクインされたり、「卍KBR 2017」等、地元神戸のサーキットイベントなどにも積極的に参加。
 2018年より活動を全国に広げ、ライブ活動を本格的に活動開始。3月14日、1st E.P.「儚心劇化」をHIGH BEAM RECORDSより全国リリース。「Release TOUR“儚い心は劇と化す”」では全国53本に及ぶツアーを敢行。ツアー中には「MINAMI WHEEL 2018」や「ジンリキソニック2018」にも参加。11月28日、2nd E.P.「イノセントユートピアE.P.」をリリース。同日発売のコンピレーションアルバム「V.A.ULTRA HIGH BEAM 2018」では”光陰”にて参加。「Release Tour『夢と現と理想郷』」では全国41本に及ぶツアーを敢行。2019年4月30日に梅田Shangri-Laにて開催されたツアーファイナルにて、それまでサポートとして活動してきた宮下和也の加入を発表。現在のラインナップとなる。
 2019年10月23日、3rd E.P.「人の為の愛、人の憂いに謳う」をリリース。同日にE.P.をリリースしたPICKLESと共に、全38本に及ぶ「カップリングツアー“泣いてしまうなら迎えに行っちゃうわよツアー”」を敢行。ツアーファイナルはアメリカ村CLAPPERにて、PICKLESとの2MAN SHOWを開催。
 2020年7月15日、1st Album「呼吸の景色」リリース。

  • まず、バンドのバックグラウンドを聞かせてください。結成は2017年、もともとは三宮の「放課後バンド塾」という高校生向けのイベントに出演していたメンバーが、それぞれのバンドが解散したことをきっかけに「佐藤さんとバンドをやりたい」と集まったそうですね。ということは、そのイベントの中で佐藤さんはかなり目立っていた?
  • +9(Gt)

    そうですね。当時、佐藤はガールズバンドでtricotや9mm Parabellum Bulletのコピーをやってて、ぼくのバンドと対バンすることがたまにあったんですけど、佐藤のバンドはいつもトリを務めてたんです。すごいなと思いながら見てました。
  • 佐藤摩実(Vo/Gt)

    ガールズバンドに対して多くの人が持ってるイメージを覆したくて、「なめんじゃねえよ」って思いながらいつもライブしてました(笑)。ほかの高校生バンドとは違うことをしたいと思って、変わったことを――例えば、ガールズバンドってみんなかわいらしい服を着てライブすると思うんですけど、私たちは裸足で暴れ散らかすみたいな(笑)。
  • +9

    ガールズバンドなのにオラオラって感じがあって、ライブが始まると雰囲気が一変するんですよ。高校生でこんなことをやってるなんてヤバいって、一目置かれてましたね。
  • 吉識優(Dr)

    私はバンドを組みたいと思いながら、なかなか組めずにいるときに声をかけてもらって。正式に入るつもりで「やります」って答えたんですけど、「サポートから」って言われて「あれ?」ってなって(笑)。そのことは今まで黙ってたんですけど、最初のライブが終わったあと「ちゃんと言わなきゃ」と思って、「私は正式メンバーとしてこのメンバーでやりたいです」って。
  • 佐藤

    LINEが来ました。あれ、そういう意味だったんだ。知らなかった(笑)。
  • サポートを経て、2019年4月に正式メンバーになった宮下さんも、「放課後バンド塾」で知り合ったんですか?
  • 宮下和也(Ba)

    いや、ぼくはそこの繋がりではなくて、以前やってたバンドが解散したタイミングで、ネットを通じてフラスコテーションというバンドを知って、ベースを募集してたので連絡したんです。
  • 同じ神戸の出身なんですか?
  • 宮下

    はい。大体、神戸ら辺の出身です(笑)。
  • 最初、+9さんが佐藤さんを誘ってバンドを始めたとき、どんなバンド、あるいは音楽をやりたいと考えていたのでしょうか?
  • 佐藤

    最初はちょっとおしゃれだったよね。
  • +9

    そうだね。
  • 佐藤

    当時のベースがこじゃれた感じの音楽が好きで、そういうバンドをやりたいと言ってはいたんですけど、私たちはどういうバンドがやりたいのか、とりあえず集まってはみたもののいまいちわかってなくて、ポルカドットスティングレイのコピーから始めたんです。
  • あ、そうなんですか。全然違うバンドになっちゃいましたね(笑)。
  • 全員

    ははははは!
  • 今回のアルバムでそういう要素が戻ってきたところもあると思うんですけど、そのままこじゃれたバンドにならなかったのはどうしてだったんですか?
  • +9

    たぶん、オリジナルをやろうかってことになって、摩実が最初に持ってきたのが、今回のアルバムにも入ってる「光陰」で。摩実本来のオラオラ感というか、フラスコテーションの中でも勢いが出てる曲だったからだと思います。



  • それがバンドにハマッた?
  • 佐藤

    こじゃれた音楽じゃ、やっぱり自分らしさを出せなかったっていうのもあるし、「光陰」をライブでやったら評判が良かったんですよ。
  • ああ、なるほど。
  • 佐藤

    「めちゃくちゃいいね」って言われて、そこからは私が中心に曲を作って……という今のフラスコテーションのスタイルになりました。
  • 佐藤さんはこのバンドで初めて曲を作ったそうですね。フラスコテーションの曲からは、曲の作り手である佐藤さんの中にいろいろな感情が渦巻いていることが窺えます。そういう佐藤さんが、このバンドを始めるまで曲を作り始めなかったことがちょっと不思議だったのですが。
  • 佐藤

    そうですね。なぜか作ろうという気持ちにならなかったですね。だからオリジナルを作ろうと言われても、最初どうしたらいいかわからなくて。「光陰」を作ったときも、1週間とか2週間とか悩んで、どうすれば曲って作れるのってところからのスタートで、頑張ってやっと作ったんです。でも「光陰」が出来てからは徐々に慣れていって、いっぱい作れるようになりました。
  • フラスコテーションの曲は、ときにリスナーをびっくりさせるインパクトの強い言葉がひとつの聴きどころだと思うのですが、そういう言葉は、曲を作り始めたら自然に出てくるものなのでしょうか?
  • 佐藤

    自然に出てきちゃいました(笑)。私、歌詞を書くとき、そのときの状況とか、自分の感情が素直に出てきちゃうんですよ。「光陰」の歌詞も、夜に「曲が出来ひんなあ」って思いながらずっと窓の外を眺めてたら出てきた言葉なんです。歌詞の書き方に関しては、今も変わらないですね。
  • 曲を完成させるまでには、もちろん時間がかかることもあると思うんですけど、曲のアイディアになる自分の感情とか、インスピレーションとかが尽きることはあまりない?
  • 佐藤

    そうですね。私、悔しいとか、ムカつくとかって思ったら、ほんまに一瞬で曲が出来ちゃうタイプで(笑)。逆に、満たされちゃうと全然出来なくなっちゃうんです。だから、自ら不幸を選びにいくところがあって(笑)。今回、15曲入ってますけど、いかにも幸せって曲はないですね。
  • 曲を作ったら、どんな形でバンドに持っていくんですか?
  • 佐藤

    アコギで弾き語りしたものを歌詞と一緒にLINEして、それぞれのパートを考えてきてもらって、スタジオで合わせることが多いです。
  • +9さんのギターはもちろんですが、リズム隊の2人も佐藤さんの歌に負けないくらいの強い音を奏でています。3人はどんなことを意識しながら、プレイやフレーズを考えるのでしょうか?
  • 宮下

    まずは佐藤がどんな世界観を描きながら曲を書いたのか、どんな表現をしたくて曲を作ったのかというところで、自分がそれに対して、どんなベースを添えられるか考えます。
  • 吉識

    私はとりあえず曲をぱっと聴いたときに感じたリズムを――佐藤が弾き語りした時点で大体テンポは決まってるんですけど、そのテンポの中で「私だったらこう叩きたい」というのを決めて、そのうえで歌詞の意味を自分なりに汲み取って、いい感じに伝えられるように意識してます。特に聴いてほしい歌詞のところは、メロディラインにがっちり合わせたり、音数を減らしたりもします。
  • +9

    ぼくもそうですね。曲が送られてきたとき、最初のインパクトの大きい曲が多いので、そこからフレーズを考えていくことが多いですけど、やっぱりそれも歌詞の世界観を意識しながらですね。
  • 曲を聴きながら、言葉のインパクトがばっと伝わってくる一方で、リスナーの想像力に挑戦しているようなところも多分にあるじゃないですか。曲によっては、1回聴いただけでは何のことを歌っているのか、そこにどういう物語があるのかわからないこともあります。
  • 佐藤

    そういうところはあると思います。シンプルというか、時々ストレートに書いてみようと思うこともあるんですけど、基本的には一発で理解されたくないというひねくれがあるんですよ(笑)。何回も聴き直してほしいし、なんなら数日後とか数年後とかにも聴き直して、曲に対する理解とか考えを広げてほしい。だから、自分から「こういう曲です」とはあまり言わないようにしてます。それはメンバーに対しても、「こういうイメージです」とか「こういう雰囲気にしたいです」とは言うんですけど、確定で「こういう曲にします」とは言わないんです。歌詞の解釈はメンバーそれぞれに任せてて、いろいろなのでおもしろいですね。「あ、そういうイメージを持ったんだ」って。
  • 歌詞が送られてきたとき、理解力を試されているんじゃないかと思うこともあるんじゃないですか?(笑)。
  • 吉識

    私、言葉の奥にある気持ちを汲み取るのが苦手なんです。だから、送られてきたとき「うわぁ」ってなるんですけど、それを自分なりに解釈しようと何回も聴いたり、何回も歌詞を読んだりしてるうちに、「もしかしたらこういうことなのかな……いや、こういうことかもしれないぞ」って自分の中でいくつか解釈が生まれてくるので、それはそれですごいおもしろいと思ってます。
  • 「あの曲はこういうことを歌っているんですね」っていうお客さんもいるのでは?
  • 佐藤

    いますね。「なるほど、そういう解釈をされたんですね」って聞きながら、私は結構うきうきしてます(笑)。
  • さて、『儚心劇化』『イノセントユートピアE.P.』『人の為の愛、人の憂いに謳う』という3枚のEPを経て、今回1stアルバムをリリースしたわけですが、なぜライブができないこのタイミングでリリースしようと?
  • 佐藤

    こういうアルバムにしようと決めてレコーディングを始めたら、ライブもできない、音楽もできない、CDショップにすら行けない今の状況になってしまって。自分たちがいいと思った作品を、そういうタイミングでリリースしてもいいの?とも思ったんですけど、私は逆にそういう状況だから出したいと思いました。コロナが収束したあとに出すのもひとつの考え方だと思うんですけど、こういう目に見えない不安がいっぱいあるなかで、自分たちが1枚出したことによって、少しでもフラスコテーションを知ってる人たちの光になれたらいいなという気持ちがあったんです。不安に怯えてる人に対して希望を渡せるなら、音楽をやってる人間としてやるべきなんじゃないかと思って、あえて予定どおり7月に出そうと決めました。
  • 1stアルバムは、どんな作品にしたいと考えたんですか?
  • 佐藤

    とにかく妥協したくなかったです。だから、過去曲の再録も含め、妥協せずにいっぱい入れようと思ったし、再録するからには前と同じじゃイヤだったし、自分たちの変化も見せたかったし、そういう意味ではこだわりが大きかったですね。
  • 宮下

    今までのフラスコテーションとはちょっと違う曲調の曲たちという意味では、いろいろな挑戦もしましたね。
  • その挑戦も含め、最新のフラスコテーションだけを見せるという作り方でも全然物足りなくなかったと思うのですが。
  • 佐藤

    新曲で15曲ってことも全然できたと思うんですけど、「フラスコテーションってこんなバンドです」って言えるアルバムにしたかったんです。それを考えると、新しい挑戦も聴いてほしいけど、これまでの自分たちも聴いてほしいし、もう全部1枚に入れちゃおうってことになりました。
  • なるほど。再録の6曲はどうやって選んだのでしょうか?
  • 佐藤

    MVになってる曲、これまでのリード曲と、リード曲ではないけどライブに欠かせない「愛と殺意」とか、「vivid」とか、そういう曲も入れて、ライブでの私たちも知ってもらえるように選びました。
  • その6曲の中で、特に思い入れのある曲は?
  • 吉識

    うわー! 難しい!(笑)。
  • もちろん、どの曲も思い入れがあるからこそ今回入れたのだと思うのですが、その中でも特にという曲を1曲ずつ教えてもらってもいいですか? もしかしたら、それぞれに違うのかもしれない。
  • 佐藤

    たしかに。誰からいく?
  • +9

    じゃあ、いきます。ぼくは「vivid」なんですけど、自分が作った曲だからというただのえこひいきもありつつ、ライブでステージに上がって最初にやる曲ということで、そうやってテンションを上げる曲だったので、今回再録できたのはうれしかったです。
  • 宮下

    ぼくは「三角形」です。代表曲中の代表曲を挙げるのもどうかと思いつつ、今回再録するにあたって自分が加入前の曲に手を加えたわけですけど、「フラスコテーションと言えばこれでしょう」といういちばん聴かれている曲に自分が手を加えることに対して、葛藤も含めいろいろな思いがあったので。そういう意味でいちばん思い入れがありますね。
  • 吉識

    私は「センチメンタル」です。これは佐藤が家出してたときに書いてた曲なんですよ。



  • そうなんだ!
  • 吉識

    その間、佐藤は私の家にいたんです。佐藤から家出した理由も聞きましたけど、自分とは状況が違いすぎるから、なんて声をかけたらいいかわからなくて、ただ居場所を提供することしかできなかったんですけど。それが後々「センチメンタル」っていう曲になって、歌詞を聴いたときに「あ、こういうことを考えてたんだ」ってしみじみと思いました。
  • 今のお話を聞いてから「センチメンタル」を聴き直したら、曲の印象がちょっと変わりそうですね。そして、佐藤さんが思い入れのある曲は?
  • 佐藤

    全曲に思い入れがあるんですけど、そうだなあ……最初に作った「光陰」はやっぱり思い入れが強いですね。そのあと「三角形」も出来ましたけど、ほんと初期のフラスコテーションを支えてくれた曲だったんです。今もライブでやったらメンバーもブチあがってくれるし、自分たちを出せるかなり強い曲になってくれたので、やっぱり思い入れはありますね。
  • 再録するにあたって、アレンジは変えてるんですか?
  • 佐藤

    +9は多いよね。
  • +9

    そうですね。ちょくちょく変わってます。基本は一緒なんですけど、聴き比べて「あ、変わってるぞ」っていうのを楽しんでいただけたら、ぐらいの感じでは変わってます。
  • それは、今のライブアレンジってことではなく?
  • +9

    それもあるんですけど、それとは別に音源として残したかったというところもあって。
  • 宮下

    再録した曲については、ぼくも自分の色を出すようにしました。レコーディングするときに、メンバーから「原曲どおりじゃなくても自分らしさ出して弾いてくれていいから」って言ってもらえて。自分が入ったことによって、原曲をどう変えられたかみたいなところも聴いてもらったらおもしろいと思います。頑張りました(笑)。
  • そんなふうに聴きどころ満載のアルバムなのですが、メンバーが曲作りに参加していることも聴きどころのひとつですよね。+9さんが作曲を担当した「vivid」に加えて、吉識さんが「function」「生きてゆく」、宮下さんが「夕闇エスケープ」の作曲を担当しています。これは、アルバムを作るんだから新たな試みとしてメンバーも曲作りしてみようということになったんですか?
  • 佐藤

    そうです。優さんはもともと前にやってたバンドで曲を作ってたんですよ。それを対バンしたときに聴いてたので、「作ってみる?」って。宮下は趣味でDTMをやってたので、「何か1曲聴かせてよ」って言ったら持ってきてくれて、それがいい感じにフラスコテーションの曲になったのでよかったと思います。
  • 佐藤さんは、ほかのメンバーが曲を作るのは全然かまわないですか?
  • 佐藤

    かまわないです。でも、最初は「え、マジ?」と思いましたけど(笑)。
  • 思ったんだ(笑)。
  • 佐藤

    でも、一生私が作るんでって粘るのも良くないって思ったし、新しい要素も欲しいと思ってたので、「とりあえず1回聴かせてみてよ」って感じだったんですけど、どういう感じで持ってくるのかまったく予想できなくて。だから怖かったんですよ。例えばキラキラ~みたいなやつを持ってこられたら「どうしよう」ってなっちゃうし。でも今はもう全然大丈夫です。「こういう曲にしたい」とか「こういうメロディがいいんじゃない?」とか、そういう意見をもらって自分が作るっていうのはほんとに初めての経験だったので、いい刺激になりましたね。
  • 吉識さんが佐藤さんと作曲した「function」は、アルバムのリリース前にまずMVが発表されましたが。



  • 佐藤

    リリース前のパンチという感じでドーン!とぶちこみました(笑)。
  • 吉識

    びっくりしました。1曲目の「スノードーム」がそうなると思ってて。作曲はやってみたいと思ってたし、やってみたらおもしろかったですけど、それがフラスコテーションの曲ってなると佐藤の世界観に自分が混じるわけだから、「どうしよう」ってこっちもこっちで不安はあるしってところで、どうなんやろと思いながら曲を送ったんですけど。私が全部作曲してるわけではないので、そこに佐藤がいろいろ付け加えて形にしてくれたおかげで、めちゃめちゃいいものになって、すごいなって思いました(笑)。
  • 歌詞とメロディは佐藤さんが作ったわけですが、吉識さんは最初どんなふうに作ったんですか?
  • 吉識

    コードを考えて、そこにドラムを乗せて、「こんな感じの構成にしたいから」って最初に3人でオケだけ作って、それを佐藤に投げました。メロディは私が作らないほうがいいのかなと思ったんですけど、1個だけ、サビの<1人>のメロディラインだけは入れてほしいって言いました。
  • 佐藤

    めちゃめちゃ言われました(笑)。
  • そういうこだわりはあったわけですね。
  • 吉識

    サビでドラムが16分を刻んでるんですけど、サビでふわって横に広がる感じの曲が欲しかったんです。今、フラスコテーションにない曲で、私が欲しい曲を作って、それを佐藤がフラスコテーションの曲にしてくれたみたいな感じになりましたね。
  • 宮下さんが作った「夕闇エスケープ」も、これまでのフラスコテーションにはなかった曲ですね。さっきおっしゃっていたこじゃれた音楽をやろうとしていた頃の感じと言えるのかもしれない。
  • 佐藤

    近いかもしれないです。それを宮下が持ってきてくれたんですよ。
  • 宮下

    個人的にはフラスコテーションっぽさを少し感じられる程度で、今のフラスコテーションにない曲を提案したつもりではあったんですけど、アレンジしていくなかでフラスコテーションにない感じ100%にできたかな(笑)。
  • 歌詞も佐藤さんらしく、言葉の使い方がありきたりなものではないのですが、ラブソングというところが珍しいですね。
  • 佐藤

    そうですね。ちょっと大人な感じにしようと思って、恋愛も入れつつ、いつもどおりのひねくれた感じも入れつつ。私、恋愛ソングをまったく書いてこなかったんで、これを機に書いてみようかなと思って、恋愛要素も入れてみました。
  • 歌詞の面でもうひとつ興味深かったのが、「夕闇エスケープ」の1曲前の「生きてゆく」。この曲の歌詞は、これまでにないくらい真っ直ぐじゃないですか。以前とあるインタビューで、「きれいすぎる歌詞があんまり好きじゃない。きれいな歌詞には汚い言葉を1つは入れる」と佐藤さんはおっしゃっていたのですが、「生きてゆく」には汚い言葉も入っていませんね。
  • 佐藤

    ちょっとだけ、<無様>っていう、汚くはないけどちょっとマイナスイメージのある言葉は入れてますけどね。コロナの今の状況になってから書いたんですけど、それでも生きていかなきゃいけない――私たちはまだまだ夢の途中なんだっていうことを書きたかったんです。いつもだったら汚い言葉を入れたがるんですけど、ストレートな感じにしてみたいと思って、そういう要素は極端に減らして、それでも生きていこうという思いをストレートに打ち出しました。
  • なるほど。
  • 佐藤

    こういう状況で聴く人がほんとに共感できるのは、こんな世界イヤだよねっていう歌詞なのか、それでも諦めちゃダメだよっていう歌詞なのか、どっちなんだろって結構考えたんですよ。私はフラスコテーションってマイナス側の感情のイメージだと思ってるし、そういう歌詞が好きだという人もいるけど、「生きてゆく」はフラステコテーションを知らない人にも聴いてほしかったので、そういうプラスのイメージの表現も必要だと思いました。
  • ほかの曲との対比もあると思うのですが、真っ直ぐな表現に胸を打たれました。そんなところも含め、今回のアルバムを聴いて、これまでの活動の総決算であると同時にバンドのさらなるステップアップも感じたのですが、みなさんの意識の変化もあったんじゃないでしょうか? 例えば、これまでよりも多くの人に届けたいという気持ちも芽生えてきたんじゃないかって。
  • 佐藤

    芽生えてきてますね。「新しいフラスコテーションを好きな人もいるんじゃないか……そういう人にライブに来てもらうにはどうしたらいいんだろう」って、お客さんのことを考えながらメンバー同士で話す機会も多くなってきたんです。これまでのお客さんはもちろんですけど、私たちのことをまだ知らない人たちのことも考えるようになりました。今までは内側、内側っていうところが結構あったんですけど、メンバーみんな外側を向くようになったというのは、これまで3年やってきて思います。
  • そういう意識の変化が今回、新たな曲調、音像に繋がっていると思うのですが、「行間」はまさに新しいタイプの曲ですよね。
  • 佐藤

    実は1st EPを作った頃に、私が弾き語りするときのレパートリーとしてすでにあった曲なんですよ。ただ、フラスコテーションでやろうと考えたことはなかったから、今回バンドでやろうってなったとき、どうしたらいいんだろうってところで、「思い切ってピアノを入れてみる?」とか「ギターのカッティングを入れてみる?」とか、いろいろアイディアが出てきて。弾き語りの「行間」を聴いたことがある人って、ほんとに少ないと思うんですけど、それよりもめちゃめちゃ進化しました。
  • 宮下

    アレンジに関してはいちばん悩んだかもしれないですね。
  • ジャジーな要素もありますね。
  • 宮下

    方向性を決めるとき、おしゃれな方向でいくか、かっこいい方向でいくかってところで結構言い合いしました(笑)。
  • 結果、おしゃれな方向に決まった、と。+9さんのカッティングも新たな引き出しが増えたという印象があります。
  • +9

    フルアルバムということで、いろいろなことに挑戦したいと考えてたんですけど、カッティングを入れてみようというアイディアが出てきたので、やってみたらぴったりハマって、自分でも気に入ってます(笑)。
  • 「まどろみ」と「ドライフラワー」ではストリングスも使っていますね。



  • 佐藤

    3rd EPまでは自分たちの楽器の音しか入ってないんですけど、今回「まどろみ」「ドライフラワー」のような世界観の曲が出来たとき、バンドサウンドで表現するのもアリなんですけど、それ以上の世界観を表現したいと考えてストリングスを入れてみたんです。この2曲はフラスコテーションにとって、新しい世界観を広げた曲になると思います。あと、「dress」にはピアノが入ってるんですけど、アルバムに入れるなら、絶対ピアノを入れたいという気持ちがありました。
  • 今お話に出た「dress」と1曲前の「水明」はストーリーが繋がっているようですね。また、インストの「23:58」とその次の「vivid」はライブで続けてやる2曲だそうで、そういう連続している2曲が入っているところがアルバムならではというか、ただ単に曲を詰め込んだだけではないんだなと思わせます。
  • 佐藤

    そこはアルバムということで意識しました。「dress」を入れることが決まったとき、「水明」も絶対に再録したいと思ったんです。今回入れられて大満足です。
  • 「水明」の続編として「dress」は作ったんですか?
  • 佐藤

    そうです。「水明」も「dress」も結構初期に作って、「dress」はライブで1、2回ぐらいしかやったことがないんですけど、「水明」では海に溺れてる女の子を書いて、そのときに<ドレス>という言葉を使ったので、「dress」というタイトルで続きを書きたいと思って。女の子と男の子、ふたりの主人公の、「水明」は女の子の、「dress」は男の子の目線で書いたんです。
  • そんなところも含め、聴き応え満点のアルバムをリリースしたわけですが、これからやりたいと思うことはさらに増えていきそうですね。
  • 佐藤

    そうですね。「まどろみ」や「ドライフラワー」のような曲は、ライブでどう表現したらいのかとか、逆にバンドの世界観が広がった分、「光陰」みたいなストレートな曲はどうやればいいだろうかとか、そういう話し合いも増えてきました。
  • フラスコテーションはもうずっとライブやツアーに力を入れた活動を続けてきましたよね。
  • 佐藤

    そうなんですよ。今回も何十本もツアーを回ろうと考えてたし、行きたいライブハウスもたくさんあったし、会いたい人もいっぱいいたんですけど、こういう状況になってしまって……でも、こういう状況になったからこそ、自分たちがどういうふうに動いたら聴いてもらえるのか考えることも増えました。フラスコテーションはこれまでと変わらず、いろいろな人にもっと知ってほしいと思ってるし、自分たちの世界観を広げたいと思ってます。今はまだ、どうしていったらいいのかはわからないですけど、自分たちにできることすべて全力でやろうと思ってます。

【取材・文:山口智男】

tag一覧 アルバム ゆびィンタビュー 女性ボーカル フラスコテーション

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リリース情報

呼吸の景色

呼吸の景色

2020年07月15日

HIGH BEAM RECORDS

01.スノードーム
02.愛と殺意(Ver.)
03.function
04.三角形(Ver.)
05.まどろみ
06.水明(Ver.)
07.dress
08.23:58
09.vivid(Ver.)
10.光陰(Ver.)
11.行間
12.生きてゆく
13.夕闇エスケープ
14.センチメンタル(Ver.)
15.ドライフラワー

お知らせ

■コメント動画




■ライブ情報

「THIS IS KOBE~盆祭りやりたかっぜ~」
08/10(月)兵庫 神戸KINGSX
w/ ソウルフード / ever youth / she’s no you

※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。

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