「現実に立ち向かうパワーがもらえる5曲」(海江敦士 選曲)
おうちで音楽を楽しもう | 2020.05.01
2020年5月1日 UPDATE
海江敦士 選曲
テーマ「現実に立ち向かうパワーがもらえる5曲」
いまや世界中を巻き込んで広がる新型コロナウイルスの感染被害。まさかライブに行ったり、友達と居酒屋で雑談に興じるという日常が失われる事態になろうとは……。そんな我々が現時点できることは、とにかく家にいるしかない。在宅期間中、自身の音楽ルーツや好きなアーティストについて振り返っている人も多いのではないだろうか。そんな今、ちょっとシビアに現実に向き合いながらもパワーがもらえる5曲をピックアップさせていただいた。
選曲のポイントは、ロックダウンで人がいなくなった大都市のニュース映像を見て連想した楽曲たち。明らかに異様な光景にはショックを受けたが、それでも人は音楽から多くのメッセージを受け取ることができる。まさかの超暗めなセレクトになってしまったが、ジンワリと心に染みる作品を選んでみた。
Madonna「Ghosttown」
この曲は2015年にリリースされたマドンナのアルバム『Rebel Heart』の収録曲。タイトルとは裏腹に、切なくも美しいバラードナンバーだ。日本公演では演奏されなかったが、ブルックリン公演に足を運んだ時はこの曲が披露され、多くの人たちが涙を浮かべながら聴き入っていた姿を思い出す。<世界が崩れ去っても、私たちの魂はゴーストタウンに残るわ>という歌詞には、今の状況とリンクする部分もあり、改めて考えさせられた次第だ。マドンナはつねに社会的なメッセージを発信するアーティストとして知られており、この時は“紛争”“核”“差別”“偏見”などに対する反骨精神が前面に出ていた印象がある。ゆえに、この曲は彼女がウイルス感染を予言して作ったものではないわけだが、時代の状況に関係なく、「Ghosttown」には何かを訴える大きな力と存在感を感じるのだ。今聴いても改めて感動を覚える名曲だと思う。
Suede「Life Is Golden」
ダウナーにして嘆美なロックを鳴らしてきた英国出身のロックバンド、Suede。解散と再結成を繰り返しつつも、陰キャ好き(?)な音楽ファンからは根強い支持を集めている。そんな彼らが2018年にリリースしたアルバム『The Blue Hour』には、衝撃的なMVで話題となった「Life Is Golden」が収録されている。その映像は1986年、チェルノブイリ原子力発電所で起こった事故でゴーストタウン……いや、もはや廃墟と化した現場近くの街、プリチャチ(ウクライナ)で撮影されたものだ。人の気配のない集合住宅や朽ち果てた観覧車など、その佇まいが訴えるインパクトは圧倒的。そこにSuedeらしい退廃美をたたえた曲がドラマチックに響く。ただ、バンドはここで人類の過ちを歌っているわけではない。<君はひとりじゃないんだ>と繰り返して歌われるところには、むしろ生命の逞しさが表現されている気がする。何が起ころうとも“Life Is Golden”なのだということを噛みしめたい。
Lewis Capaldi「Someone You Loved」
このところ、ブリティッシュミュージック界では優秀な若手男性シンガーが続々と誕生している。スコットランド出身のルイス・キャパルディ(23歳)もその中のひとり。人の心に届く魅力的な歌声の持ち主だ。2018年にリリースしたシングル「Someone You Loved」は、昨年2月に臓器移植のチャリティー団体とコラボしたMVに使用され、その感動的な内容から一気に広まり、全英チャートでは7週連続で1位を記録。全米チャートでも1位を獲得するビッグヒットになった。シンプルなピアノの伴奏に乗せ、切々と喪失感が歌われていく。その感情に満ちたボーカルが素晴らしい。MVではひとりの男性が、とある家族を訪ねるのだが、その一家の母親は男性の亡くなった妻から心臓移植を受け、健康を取り戻していた――。人の死が誰かを救うというストーリーが涙を誘う。しんどい日が続く昨今ではあるが、そんな時はこの曲を聴きながら大切な人を思い浮かべていただきたい。
Linkin Park「What I’ve Done」
多くのロックバンドに影響を与えてきたリンキン・パーク。ラウドなサウンドにヒップホップ、デジロックなどを取り入れ、概念にとらわれない音楽性で確固たる地位を築き上げてきた。2017年にはボーカルのチェスター・ベニントンが自殺するという悲劇に見舞われたが、いまだにその音楽に心酔する者は多い。この曲は2007年にリリースした『Minutes To Midnight』に収録され、映画『トランスフォーマー』の主題歌としても知られている。もの悲しいメロディに乗って響くエモーショナルなチェスターのボーカルが印象的な楽曲だ。ハードであろうがバラードであろうが、彼らの曲には叙情性がある。そこにグッとくる人も多いはずだ。ちなみに、MVには人類が犯した多くの過ちを象徴する映像が盛り込まれている。今日のウイルス災禍の原因が何であるのかは不明だが、我々に対する大きな警鐘なのは間違いないだろう。やっぱり家にいよう……と、改めて感じるのだ。
AI「Story」
言わずと知れたAIの代表曲のひとつ。シングルとしてリリースされたのは2005年だが、時代を超えて多くの人に寄り添ってきた名曲だ。彼女自身の圧倒的な歌唱力、表現力、さらには温かみのある人柄から滲み出る歌声には、間違いなくヒーリングパワーが宿っていると思う。自粛生活が長引き、家族と長時間一緒にいてイラつく人もいれば、ひとり暮らしゆえの孤独感に苛まれる人もいる。いずれにしても自分をわかってくれる人の存在に飢えている人が増えているのは間違いない。不安も募り、社会に対してイラつくのも仕方がない。だが、そんな時の特効薬になるのが「Story」だ。書くまでもないが<1人じゃないから 私がキミを守るから>という部分も含め、この歌詞のすべてが大きなメッセージだと思う。心がささくれ立ってしまった時にこそ、優しさ=強さということを再認識するべきだろう。この曲を聴くたびに、いつもそこに気づかされるのだ。
(プロフィール)
海江敦士(Atsushi Kaie)
レコード会社勤務を経てライターに転身。その後、執筆活動だけでなく、雑誌編集も兼務し、経験を積む。取材はアーティストから俳優、声優、アイドル、アスリートまで幅広く対応。ちなみに好きな音楽は80’sミュージックやハードロック、メタルなど。私生活では飼い猫を溺愛中。夢はJAPAN CULTUREをもっと世界に広めること。