「1日の始まりにパワーをチャージしてくれる5曲」(本間夕子 選曲)

おうちで音楽を楽しもう | 2020.05.22

2020年5月22日 UPDATE

本間夕子 選曲
テーマ「1日の始まりにパワーをチャージしてくれる5曲」

 なんだか元気がないなと感じたとき、どうにか自分を鼓舞したいとき、ガチガチな心と狭くなりがちな視野をほぐしてさらに広げたいときに個人的に聴きたくなる曲を5つピックアップしてみました。特に朝聴くと効果大なんじゃないかな、ということでテーマを“1日の始まりに”としましたが、もちろんいつ聴いてくださっても抜群に効くこと請け合いです。節操がないと言えばまるでないラインナップですが、だからこそ音楽は素晴らしいなと改めて思います。

空きっ腹に酒「スタート」

 大阪在住のネオミクスチャーロックバンド、空きっ腹に酒の1stアルバム『僕の血』(2012年リリース)を初めて聴いたときの衝撃は、そりゃあすごいものでした。遮二無二で、衝動的で、表現というよりは放出と言ったほうがしっくりくるようなすさまじい情熱はまさにカンフル剤のごとく、体中の細胞がブワッとみなぎる感覚に襲われたことは今でも忘れられません。なかでも本作のエンディングを飾るこの曲にみなぎる音楽への意志、“音楽開始”のひと言に込められたギラギラとして切実な覚悟にはいまだに奮い立たせられます(このライブ映像がまた鬼気迫る!)。大阪を中心に精力的に活動し、今年でバンド結成13年。とことんインディーズを貫いて2018年には自主レーベルを設立した彼らの、芯の通ったスタンスにも胸が熱くなることしきり。最新曲「Have a Nice Day!!」(2019年リリース/自主レーベル第2弾作品「泥.ep」収録)はテンション爆上がりですし、「愛されたいピーポー」(2015年リリース/4thアルバム『愛と哲学』収録)、「生きるについて」(2017年リリース/6thアルバム『粋る』収録)等々もぜひ聴いていただきたく、彼らのオフィシャルサイトでMVも観られますので、強くオススメしておきます。

BRAHMAN「警醒」

 自問自答ばかりで肝心の一歩が踏み出せない。臆病風に吹かれたのか、それともただの怠慢か、言い訳だけは山ほど用意して、核心からは目を逸らしてしまう。そんな自分に問答無用で喝を入れてくれるんです、この曲は。根差しているのは強い怒りと悲しみに違いなく、けれどもそれらをただ暴発させたのとは違う、途轍もない思慮と覚悟を呑んで放たれた一撃のなんと重く鋭いことか。これほどにのっぴきならない本気を突きつけられて、背筋が伸びないわけがありません。フロントマン・TOSHI-LOW以外のメンバーがボーカルの主戦力を担っているのも耳に新鮮、ヒリヒリとしたアンサンブルに身を委ねてともにシャウトすれば、まどろみの朝もたちまち覚醒モード。『フテネコ』の作者でありコントグループ・パップコーンのリーダー・芦沢ムネトとのコラボレーションによる一見、可愛らしそうでいながら強烈にシニカルなMVにまたしびれます。

スピッツ「優しいあの子」

 どメジャーかつ、ど直球ですみません。でも“1日の始まり”を思うに「優しいあの子」はどうしたって欠かせないのです。NHK朝の連続テレビ小説『なつぞら』の主題歌として大きな反響を呼んだことは記憶にも新しいでしょう。筆者もこの曲の初聴きは『なつぞら』の第1話でした。朝ドラ初というフルアニメーションによるオープニングのタイトルバックも斬新でしたが、瞠目したのはやはり図抜けた“曲の良さ”。メロディも歌声も演奏も全部いい。奇を衒ったようなことは何ひとつないのに、音のひと粒ひと粒、歌詞の一語一句がぐんぐん胸に染み込んできて、なぜだか無性に泣けてくる。年齢のせいかもしれませんが、この“泣けてくる”感じはけっして切ないものではなく、むしろ心の奥に灯がともるような明るく温かなエネルギーを与えてくれました。この曲聴きたさに半年間の朝を過ごしたと言っても過言ではないでしょう。と、ここまで書いておいてなんですが、テレビサイズの音源ではほとんど流れなかった2番(日によってAメロまで流れることはありましたが)から間奏、そしてラストのサビに至るまでがこの曲の真骨頂だと勝手ながら思っています。

氷川きよし「大丈夫」

 言霊(ことだま)というものがあるとするなら、この歌はまさに言霊の塊ではないでしょうか。不自由な毎日に心が折れそうになったり、先行きの見えない現状から不安に圧し潰されそうになったり、行き場のない感情を抱えてしまったときはこの歌を一緒に口ずさんでみてください。かなりの力強さで励まされますから、本当に。シンプルにして最強のパワーワード“大丈夫”。それもこれも氷川きよしというオンリーワンシンガーだからこそ成せる技かもしれません。果敢に活躍の枠組みを広げ、ジャンルの垣根も世代の壁も越えて聴き手を魅了するその歌声のエネルギーにつくづくと感嘆します。ちなみにMVには「大丈夫 ~みんなで踊って大丈夫Ver.」もありますので、自粛の日々で運動不足気味の方は、そちらもお試しあれ。なかなかに楽しいです(←やった人)。“大丈夫、チャッチャッチャ”なんて手拍子するだけでも大丈夫!

DURAN DURAN「Ordinary World」

 それでも、どうしてもダメなときってあると思うんです。起き上がるのも億劫な、ただひたすら沈むに任せたくなるときが。そんなときは抗わず、そっと目を閉じて沈みたいだけ沈めばいい。そうしているうちに、なんとなく吹っ切れたような、ほんの少し気持ちが軽くなったような、「まあ、いいか」みたいな感じで立ち上がれる瞬間が訪れるのではないでしょうか。筆者にとってそうしたどうしようもないときに寄り添っていてほしいのがこの曲です。80年代、爆発的人気を誇りながら後期には凋落の一途をたどってしまったイギリスのロックバンド・DURAN DURANに起死回生をもたらした1曲、「Ordinary World」(1993年リリース)。陰鬱をまとった流麗なメロディ、繊細でいて乾いたギターの音色、スケール感と儚さの両方をたたえた奥行きのあるボーカル、サビで訪れるそこはかとなく、けれどたしかな希望感。近い未来、きっと戻ってくる「Ordinary World」=普通の世界、当たり前の日常に想いを馳せて、静かに音楽を噛み締められる時間を今は慈しみたいと思っています。

(プロフィール)
本間夕子
10数年間の音楽雑誌編集者時代を経て、2005年よりフリーランスライターとして活動中。インタビューやレポート、レビューのほか、ライブやレコーディング現場に密着したドキュメンタリーブックなども手掛ける。

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