「ひとり静かに祈る5曲」(宮本英夫 選曲)

おうちで音楽を楽しもう | 2020.05.29

2020年5月29日 UPDATE

宮本英夫 選曲
テーマ「ひとり静かに祈る5曲」

 <私は祈る以外に知恵も力も持たないけれど>というのは、僕が十代の頃に多大なる影響を受けたとあるシンガーソングライターの歌詞。こんな事態だからこそ、行動する人、戦う人でありたいと思うが、生来の臆病者ゆえ、そんな人たちをまぶしく見上げつつ、賑やかなテレビとSNSをそっと閉じ、今日もひとり音楽を聴いたり本を読んだり。そんな気分に寄り添う、ひとり静かに平和を祈る歌を5曲、選んでみました。

John Lennon「Imagine」

 平和の祈りといえば真っ先に登場する、陳腐なほどに有名すぎる1曲。もう40年以上聴いて、飽きて、聴いて、飽きてを繰り返してきたが、こうした状況になるとやはり真っ先に頭の中に流れ出す、平時より非常時にこそ力を発揮するタイプの底力あるバラード。反戦歌のイメージが強いが、直接的な表現は一切なし。タイトルとコンセプトはオノ・ヨーコによるもので、俳句や短歌的と言いたいほどにシンプルな言葉、平明な表現が、日本人の心にすんなり沁みるものがあるとあらためて思う。<Imagine no possessions>などというフレーズは、西洋文明人の頭の中からは絶対に出てこないはずで、後にエルヴィス・コステロが<Was it a millionaire who said“imagine no possessions”?>と皮肉って歌ってみせたのを、“わかるけどそういうことじゃないんだよなぁ”と思ったのを思い出す。<I hope someday you’ll join us>と、行動を呼びかけるメッセージのようでいて、あくまでも極私的な歌であり続けるのが、この曲の永遠の命の源。

David Bowie「Heroes」

 力強いリズムとシャウトは、祈りと呼ぶにはパワフルすぎるが、僕の中でやはりこれは祈りの歌。1977年、壁で分断されていた時代の西ベルリンで録音されたこの曲は、シングル曲としては目立った成績を残していないが、後世に与えた影響は巨大なものがある。1987年、壁を背にして行われたコンサートでは、東側に向けてもスピーカーが設置されていたという。1989年、ベルリンの壁崩壊。2016年、ボウイ死去。ドイツ外務省は「あなたは今、“ヒーローズ”の中にいます。壁の崩壊に力を貸してくれてありがとう」というコメントを発表した。ヨーロッパの長く複雑な歴史を背景に、壁の手前にたたずむ恋人たちの姿をクローズアップした劇的な歌詞。これも反戦歌のイメージが強いが、それだけではないと思う。<We can be heroes,just for one day>ってどういう意味だろう?と、今もずっと考えている。

Bob Marley & The Wailers「Redemption Song」

 ポピュラー・ミュージックの歴史上稀に見る、行動する人、戦う人の代表格のようなミュージシャンは、生前最後(おそらく自身も自覚していただろう)となったアルバム『Uprising』のラストに、まったくレゲエのリズムを用いず、ひとり静かにアコースティック・ギターで奏でる祈りの歌を残してくれた。リリースからちょうど40年になろうとする今も、すべてを達観したような穏やかな歌声は、遠い国でひとり静かに過ごす日々と不思議なほど共鳴する。ボウイがヨーロッパの歴史と現代とを対比させたように、ボブはアフリカ、カリブ海、ジャマイカの壮絶な歴史を背景に、<We forward in this generation,Triumphantly>と歌う。ボブの使うジャマイカ英語はとてもわかりやすくシンプルで、詩的で、啓示的で、個人的で、日本人の感性とよく響きあう。<Emancipate yourselves from mental slavery>。今もなお、今こそ輝く言葉だと思う。

米津玄師「サンタマリア」

 この曲を聴いたのはもうずいぶん大人になって、なりすぎた後だったので、若い感性で新鮮に受け入れられたわけではないけれど、それでも十分衝撃的で、“これは自分の歌だ”と思わせる言葉の力に圧倒されたのを覚えている。祈りと呪いという相反する言葉のイメージを、ここまでぴたりと組み合わせた歌をかつて聴いたことがない。<呪いを解かす その小さなナイフを/汚れることのない歌を>。教会の懺悔室のような、拘置所の面会室のような、閉ざされた空間を舞台に、静かにほほ笑む“あなた”の存在はとてもスピリチュアルで、あえて言うなら神なのだろうが、決してイコンとして目視できるものではない。<祈り疲れ>た果てに、<漸くあなたに会えた>というフレーズは、ぎりぎりまで心の病み(闇)を見つめた者の中からしか出てこないはずだ。言葉では表現できない領域を、なんとか言葉で表現しようとする、混沌であるからこそこの曲は美しい。僕にとってこの曲は永遠の命。

Bob Dylan「Murder Most Foul」

 “祈りの歌”とは言えないかもしれないが、2020年に聴いた中でダントツの感動とインパクトを与えてもらったこの曲を取り上げないわけにはいかない。新型コロナウイルスの影響が広がる中、「どうぞ安全に過ごされますように、油断することがありませんように、そして神があなたと共にありますように」と、ディラン自身のコメントを添えて3月に発表されたこの曲は、17分の壮大な叙事詩で、歌詞のテーマは1963年11月、ジョン・F・ケネディ大統領暗殺事件。普通の日本人には感情移入できないテーマであり、当時のアメリカの政治、文学などからの膨大な引用も、延々と「〇〇(曲名)をかけてくれ」と繰り返す後半部分もにわかには理解不能。にも関わらず“これは祈りの歌だ”と思ってしまうのは、ディランの歌があまりに優しく穏やかで、神の声の如き威厳に満ちているから。人の世にあって人の世の外を感じさせる、崇高な声。5月24日で79歳になった音楽家が、たゆまずにさらなる高みへと向かっている事実が僕を感動させる。

(プロフィール)
宮本英夫
お話をきいて文章にするライター

音楽中心のフリーライターとして仕事をはじめた1996年から、そろそろ四半世紀。良く言えばオールマイティ、本当のところは未知の新しいものが好きで目移りばかり。キャリアを感じさせ(られ)ないフットワークとノリの軽さでまだまだがんばります。
https://www.instagram.com/miyamotohideo1120/?hl=en

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