「不屈の闘志が胸を打つ5曲」(山口智男 選曲)

おうちで音楽を楽しもう | 2020.06.05

2020年6月5日 UPDATE

山口智男 選曲
テーマ「不屈の闘志が胸を打つ5曲」

 ここんところ俺たちはもうヤラれっぱなしだ。そんな状況に立ち向かうには不屈の闘志が必要だ。今回取り上げた5曲は、たぶんそれを作った人間がギリギリまで追い詰められたとき、自らを鼓舞するために作ったものに違いない。つまり、誰かのために作ったわけじゃない。そこに本気を感じる。心の叫びを感じる。彼らがそれでも諦めずに前に進もうとしているなら、俺だって、という気持ちになるではないか。今に見ておれでございますよの臥薪嘗胆の歌。

BUGY CRAXONE「わたしは怒っている」

 パンクなココロと(パワー)ポップなセンスを持つ札幌出身の4人組。バンド名はブージークラクションと読む。結成は1997年だから、すでにベテランの域だが、20周年を迎えるタイミングでバンドはリフレッシュした印象も。
 単刀直入なタイトルが清々しいこの曲は、2018年10月リリースの14thアルバム『ふぁいとSONGS』のオープニングナンバーだ。タフな現実をしっかりと見据えながら前向きなヴァイブが感じられるところが現在のブージーの魅力だが、世の中の空気を敏感に感じ取ったのか、訴えかけたいことがまた増えてきたようだ。
 その最たるものがこの「わたしは怒っている」。ふがいない自分に、やるせない自分に、そして世界に対する<わたしはいま怒っている>というストレートな言葉に溜飲が下がる。

SION「後ろに歩くように俺はできていない」

 福山雅治が兄さんと慕うシンガーソングライター。ザ・ルースターズ、ニューヨークのフェイク・ジャズ・バンド=The Lounge Lizards、Lou Reedの片腕ギタリストであるRobert Quineといったレジェンド級のミュージシャンたちとレコーディング経験を持つ彼自身がもはやレジェンドと言えるだろう。
 ほかにもKen Yokoyama、BRAHMANのTOSHI-LOW、10-FEETのTAKUMA、G-FREAK FACTORYの茂木洋晃ら、シンパは少なくない。かくいう筆者も85年のデビュー以来、しゃがれ声の歌に尻を蹴り上げられ続けている。
 決して器用なアーティストではないし、誰もが知っているヒット曲を持っているわけでもない。ネガティブ・シンキングに囚われてしまうこともあるようだ。それでも歌い続けてきた。それは2014年2月リリースの24thアルバム『不揃いのステップ』に収録されているこの曲で歌っているように、どんなに悲しくても悔しくても寂しくてもつらくても、<後ろに歩くように俺はできていない>からだ。SIONがそうなのだから。そんなふうに一歩を踏み出す勇気をもらっているファンは少なくない。

ircle「ラストシーン」

 少なくない人がircleに対して感じている、「もっと売れてもいいのに、なぜ?」。それを誰よりも感じているのはメンバー自身だろう。
 現在は東京を拠点にしているが、もともとは大分県別府市の同じ中学に通う同級生たちが2001年に結成した4人組。そんな思いを込めながら、その彼らが今一度、持ち前の不屈の闘志をアピールしたのが6月17日にリリースする最新フルアルバム『こころの℃』のトップを飾る「ホワイトタイガーオベーション」で、グルービーな演奏は新境地を思わせるが、ここでは不屈の闘志に突き動かされながら、彼らがどんな思いでバンドに取り組んでいるのかが窺えるこの曲を。
 別れというコンセプトを持った2019年5月リリースのミニアルバム『Cosmic City』の収録曲。全身全霊で<最後の最後の1秒に>かける覚悟は、数々の別れを経験した彼らが見つけた答えだった。この数年、彼らが、なぜそこまで気迫に満ちたライブができるのか、その理由がここにある。

THE PINBALLS「七転八倒のブルース」

 例えば、この曲が収録されている2017年12月リリースのメジャー1stミニアルバム『NUMBER SEVEN』は、数字の7という共通のテーマを持つ全7曲が収録されたコンセプトアルバムだった。
 つまり、2006年結成の埼玉出身の、この4人組はロックバンドに必要不可欠な不屈の闘志に加え、博学多識に裏付けられたインテリジェンスの持ち主でもあるわけだ。そんなTHE PINBALLSにとって、ブルースの影響が色濃いこのロックンロール・ナンバーはスーツでスタイリッシュにキメたガレージ・ロック・バンドとしての魅力を物語るものだ。
 全曲の作詞・作曲を手掛ける古川貴之(Vo)がストーリーテリングを得意としていることを考えると、七転八倒しているときの精神状態を描いたと思しき感覚的な歌詞は異色と言えるかも。彼らがどんなふうに音楽に取り組んでいるかが窺えるようだ。

climbgrow「ラスガノ」

 2012年結成の滋賀の4人組は、不屈の闘志の塊みたいなバンドだ。インタビューでも自分らをナメている連中に目に物見せてやる的な発言がしばしば飛び出すところが頼もしい。そういうバンド待っていたというロック・ファンは少なくないはずだ。
 この曲は、2017年7月リリースの2ndミニアルバム『EL-DORADO』のオープニングナンバー。ここから現在の快進撃が始まった。演奏はまるで闘犬が牙を剥き出しにしているみたいだが、そんなコワモテの印象とは裏腹に弱さも曝け出しているところがいい。不屈の闘志が向けられているのは、<弱い自分><情け無い自分>。すれ違ってしまった<君>との関係のなかで、<未来を変えるのはお前自身だろ>と叱咤しながら、杉野泰誠(Vo/Gt)が歌うのは、<此処からが勝負だ>という覚悟の言葉。『EL-DORADO』のオープニングは、この曲しかなかった。

(プロフィール)
山口智男
音楽ライター。洋邦問わず、パンクでエモい音楽が好きみたいです。

スペシャル RSS

もっと見る

トップに戻る