「世界が広がる画面越しの5曲」(後藤千尋 選曲)
おうちで音楽を楽しもう | 2020.06.19
2020年6月19日 UPDATE
後藤千尋 選曲
テーマ「世界が広がる画面越しの5曲」
音楽との巡り合わせは、自身の世界を無限に広げてくれるから面白い。辛いこと、楽しいこと、人生にはいろいろある。けれど、時に痛みを和らげ、時に感動を分かち合う。そんな人生を共に歩む音楽と出会う為、私たちは新しい音楽との出会いを探しているのかもしれない。音楽との出会いが、人生を豊かにする。「STAY HOME おうちで音楽を楽しもう」と題したWRITER’s RECOMMENDでは、そんなおうちでの楽しみが広がりそうな 「世界が広がる画面越しの5曲」にスポットを当てた楽曲をセレクト。インターネットから派生する、画面の先に広がりを見せる音楽の魅力に迫りたい。音楽を愛する全てのあなたに、その世界が広がることを願って。素敵な5曲を紹介しよう。
YOASOBI「夜に駆ける / THE HOME TAKE」
コンポーザー・Ayaseとボーカル・ikuraのふたりから成るユニット、YOASOBI。デビュー曲「夜に駆ける」は、ストリーミング再生やリスナーのシェア数を分析してランク付けしたSpotifyの日本バイラルチャートで1位を獲得。瞬く間に注目を集め、『めざましテレビ』(フジテレビ)をはじめ連日、情報番組でも引っ張りだこな存在となった。流行に敏感なFanplus Musicの読者ならすでにご存知だろう。一聴すると、そのポップなメロディセンスで楽曲の本質に正直なところ気がつけなかったが、繰り返し聴くうちにその歌詞にゾッとした。そして、交差した男女の想いとこの曲の奥深さに、心底惚れたのも確かだった。小説を音楽で具現化するユニットである彼らの世界観を知る手がかりとなるのは、ネットで公開されている星野舞夜著の恋愛小説『タナトスの誘惑』。小説と音楽のふたつの側面から楽しむことができるので、まずは先入観を持たずに曲を聴いて、ミュージックビデオを見て、小説にアクセスしてほしい。女性視点に立ったもうひとつの小説『夜に溶ける』を読むと、また違った角度からこの曲を味わえる。なお、動画はアーティストの一発撮りを鮮明に届ける斬新なコンセプトのYouTubeコンテンツ『THE FIRST TAKE』の「THE HOME TAKE」に登場した際のikura。どんな気持ちで歌唱したのだろうと思いを巡らせることができれば、YOASOBIの沼を存分に楽しめていると言えよう。
美的計画「文読む私(feat.謎女)」
indigo la End、ゲスの極み乙女。、ジェニーハイなどで活躍する川谷絵音が、昨年より始動したソロ・プロジェクト『美的計画』。川谷が作曲した楽曲を、様々な女性ボーカリストが歌うプロジェクトで、最終的に1枚のアルバムに仕上げることを目標としている。すでに第一弾「KISSのたびギュッとグッと」、第二弾「瞳に吸い込まれてしまう feat.謎女」が配信リリースされ、今月12日には第三弾「恋のこと / 文読む私」も配信リリースされたばかり。第一弾は川谷自身のTwitterアカウントを介して選出されたボーカル・にしなが歌唱。やわらかなピアノの旋律と共に人間の“成長”を辿る、未熟さも包み込んでくれるやさしいラブソングに仕上がっている。にしなと言えば、eillなども輩出したアコースティックセッションユニット『ぷらそにか』のYouTubeコンテンツでYOASOBIのボーカル・ikuraときのこ帝国「怪獣の腕のなか」もカバーしているので、そちらの動画も楽しんでいただきたい。第二弾は2019年に突如メジャーデビューしNetflixオリジナルアニメシリーズ『Levius』の主題歌とエンディングソングを担当した謎女(なぞめ)が歌唱。そして、美的計画始動のキッカケとなった女性ボーカリストのふたりが、第三弾では男女の視点で描かれたそれぞれの失恋ソングを歌いあげている。人が美しくなる片鱗が垣間見られる本プロジェクトの楽曲は、選出されるボーカルの歌声と相まってさらに美しく輝いているので、今後どのような女性ボーカルが登場するのかも楽しみにしたい。第一弾からの成長も感じられる第三弾では、TikTokの投稿するキャンペーンに楽曲提供され話題を呼んだ「文読む私」を謎女が、そして「恋のこと」をにしなが歌っている。
ACE COLLECTION 「70億にただ1つの奇跡」
音楽に宿る物語性というものは、どうしてこれほどまでに心を揺さぶるのか。4月にメジャーデビューミニアルバム『L.O.V.E.』をリリースしたばかりの期待の新星、ACE COLLECTIONの壮大なラブバラードから感じられる愛しい記憶は、大恋愛の美しい部分を見事に描いたナンバー。 人は長い人生の中でいったい何回これほどまでの恋愛を経験するのだろう。佐野勇斗、飯豊まりえのW主演によるAbemaTVオリジナル・ドラマ『僕だけが17歳の世界で』の主題歌として書き下ろされたこの曲は、300万回再生以上のロング・ヒットを記録。ドラマを見ることによって、この曲の心象風景も変わる部分もあるが、そこはかとない愛情が含まれている歌詞の細部がどこまでもリアルで、どうしても無視できないほどに胸を締め付ける。「信じてる」「愛してる」といったわずか5文字で伝えられる感情が説得力を増すのは、ACE COLLECTIONの各メンバーがこれまで培ってきた音楽のルーツが昇華された賜物のように感じられてならない。エド・シーラン「Shape of You」のカバー動画の投稿がSNSで話題となりメディアからも注目を集めている彼らは、YouTubeでの活動が土台となりリアルでの大型フェスやライブシーンへと活躍の幅を飛躍させたが、この曲無くしてACE COLLECTIONを語れないほどの名曲が誕生したように思える。そして、ドラマもあわせて楽しむことで、新たな「70億にただ1つの奇跡」に出会えるので、そちらも是非チェックしていただきたい。
back number full covered by 春茶「HAPPY BIRTHDAY」
令和元年最後に突如頭角を現した謎のシンガー・春茶を中心にイラストレーター・ナナカワ、クリエイター・sakuma.の3人が結成したユニット、終電間際≦オンライン。は、初ライブに夜の本気ダンスのギター・西田一紀と、ヒトリエのベース・イガラシ、andropのドラム・伊藤彬彦、キーボーディスト・西村奈央という豪華サポートメンバーを迎え、豊洲PITで行ったワンマンを大成功に収めた。本来であれば、今年3月に東名阪Zeppツアーが決行される予定であったが、新型コロナウイルスの影響で同公演は中止。しかし、その飛ぶ鳥を落とす勢いの新星に昨年から心を奪われている。ライブでは未発表のオリジナル楽曲も初披露。春茶自身は、これまでYouTubeにカバー楽曲を多数投稿し、平井堅の「トドカナイカラ」をカバーしたことで平井堅からも評されている女性シンガーだ。そのエアリーで天使のような歌声が注目され、YouTube発の人気プロデューサー・kobasoloチャンネルを含め総再生回数は3億を超え、大きな話題を呼んでいる。そんな彼女の声でやさしく歌われたこの曲は、片思いの切なさを見事に体現。春茶の歌声を語る上で外せないキーワードともなる“切なさ”を存分に活かした1曲となっている。愛する人が傍にいれば満たされる恋愛の醍醐味が掴めずに、<ハッピーバースデー 片想いの俺>と行き場の無い想いがひとり宙を舞う儚さを、この楽曲から感じて欲しい。恋の痛みを癒すような声が、片思いとの相性の良さを感じさせる。
yama「春を告げる」
路上ライブの動画がショートムービープラットフォーム「Tik Tok(ティックトック)」で話題となり、同企業のCMに起用されるまでとなったNovelbright。失恋をきっかけにTik Tokへ投稿した楽曲「香水」が話題となり、Official髭男dism、あいみょんといった錚々たる紅白出場アーティストに並びチャートへと急浮上したハンバーガー屋でアルバイトをしているという瑛人。いまやネット発信でヒットを飛ばす現象が起きている事実から、目が反らせない。そんな前代未聞の時代の流れを汲んだところへ名を連ねるアーティストのひとりが、yamaだ。この曲は、ボカロPとして活躍するくじらが3人組ユニット・BINのボーカリストであるyamaに書き下ろしたソロ・オリジナル曲。瑛人やYOASOBIに続き、発表から1ヵ月後のバイラルチャートで2位まで浮上。中性的な質感の声と楽曲から伝わるアンニュイな湿度がまとわりつくように響いて人々を虜にし、心をつかんで離さない。夢との落差を突きつけられる<深夜東京の6畳半>という歌詞は、「モラトリアム」「虚無感」「終末観」に飲み込まれるように、それを飲み込んでゆくような不思議な空間にも思えた。それでも「春を告げる」タイトルを、残酷だと思うか、救いと思うかはあなた次第。新たな才能が開花した1曲だ。
(プロフィール)
後藤千尋(ゴトウチヒロ)
1987年生まれ。編集者、ライター。大学在学中よりライターとしての活動をスタート。その後、音楽メディア「OKMusic」「EMTG MUSIC」(現Fanplus Music)編集部を経て、2020年より編集プロダクション Why Not!を立ち上げる。主にファッション/エンタメ/ビジネス関連の仕事に携わる。動画企画、撮影、ラジオDJをしていたことも。
https://www.w-not.jp/