「ライブの楽しさを思い出させてくれる5曲」(今井智子 選曲)

おうちで音楽を楽しもう | 2020.06.19

2020年6月19日 UPDATE

今井智子 選曲
テーマ「ライブの楽しさを思い出させてくれる5曲」

 ようやく緊急事態宣言が解除され、3.26以前の生活が戻ってくるような気配もある。アーティストたちは配信ライブなどで模索しながら音楽を伝えようとしてくれている。そんな映像を毎日のように観て心強い思いをしてはいるのだが、やはり以前のようにライブハウスやホールや野外フェスで音楽を体感したい。ライブは、楽曲制作やレコーディングとはまた別の表現方法として、アーティストの個性や才能や可能性をリアルに見せて聞かせて感じさせてくれる空間であり時間だ。そんなものはレガシーとなって次のフェイズに進むのだという考え方もあるけれど、長年培ってきたカルチャーのひとつであるライブの、あの感覚を忘れたくはない。そんなことを思わせてくれる5曲を、取り上げてみた。

THE BACK HORN「その先へ」

 20周年を経て昨年11月にスタートした「KYO-MEIワンマンツアー カルペ・ディエム~今を掴め~」が2度に渡り延期となっているTHE BACK HORN。この曲はバンドが動き出した時の熱を原動力に進み続けてきた彼らが、<その先へ><共にゆこう>と呼びかけてくる。それは安易な共感や繋がりではなく、それぞれが孤独を抱えながら生きていくところから生まれる共鳴だ。これはそんな4人が全身で音を鳴らしているライブそのものを歌ったような曲。ステージとオーディエンスがひとつになって音楽を共有し、息苦しい日常から解き放たれる瞬間を共に味わうライブの醍醐味が曲の中に詰め込まれている。<拳を振り上げて 心を解き放て>と歌う最後のフレーズで、まさに心が解き放たれる思いがする。

EGO-WRAPPIN’「かつて..。」

 初夏の日比谷野外音楽堂(日比谷野音)は、たまらなく気持ちのいい場所だ。そこでビールなど飲みながら大好きな音楽に酔いしれるのは最高の気分。EGO-WRAPPIN’が恒例にしている「Dance, Dance, Dance」は、毎年これでもかというぐらい楽しませてくれる。タイトル通りダンサブルなナンバーの連打で倒れそうになるぐらい踊らせてくれる彼らだが、こうしたバラード調の曲では中納良恵の伸びやかな声がどこまでも響き、高い空にまで届くようだ。森雅樹のブルージーなギターソロも黄昏時のいいムードに溶け込んでいく。日比谷野音ならではの風景と音楽のマリアージュが味わえる1曲。再び彼らと日比谷野音で会える時を楽しみにしている。

クラムボン「便箋歌」

 このMVはとても面白い。というのは、3人は白一色の背景で演奏しているように映像加工してあるが、実は古民家を改装した小さな会場でのライブ映像が元になっている。だからオーディエンスの笑い声や掛け声も聞こえる。ライブを観ている時、すっかり演奏に惹きつけられて周りのことなど忘れてしまい、ステージと自分だけ、みたいな気持ちになる時がある。タイトルそのままに手紙のような歌詞を歌う温かみのある原田郁子の歌に包まれ、ミトのベースと一緒に首を振り、伊藤大助の穏やかなドラムに合わせてこっそりステップを踏む。会場は世界遺産の白川郷にある旧遠山家民俗館。いろいろな場所で演奏してきたクラムボンらしいセレクトだ。オーディエンスの反応も温かく、ここだけの素敵な音が鳴っている。

椎名林檎「機知との遭遇 -Sound&Vivision-」~「本能」from (生)林檎博’18

 MCなど全く入れず完璧なステージングで観るものを圧倒する、グラマラスでゴージャスなライブで独特な非日常を堪能させてくれる椎名林檎。大掛かりなツアーなど組まず、ほんの数回のステージに全力を注ぐ彼女にはいつも感服させられる。バンドと斎藤ネコ率いるオーケストラとがひとつになった演奏の見事さ、気鋭のダンサーたちと映像やライティングが合体するステージングの素晴らしさも、他に類を見ない。20周年記念ライブのオープニングで、初期の代表曲「本能」をゲストのMummy-Dと歌うのもなかなかの趣向。今年の2月29日に東京国際フォーラムで観た東京事変のライブも、敢行したことが物議を呼んだが、並ならぬ緊張感を漂わせた圧巻なステージとなっていた。その映像もいつか公開されるだろうか。

銀杏BOYZ「BABY BABY」

 夏フェスと言えばFUJI ROCK FESTIVAL。昨年グリーン・ステージに立った銀杏BOYZの映像は何度観ても胸が熱くなる。ステージに笑顔を向けて腕を上げているオーディエンス、虚空を見つめ歌い続ける峯田和伸、彼らの上に広がる青空、周囲の深い緑、何もかもが美しい。ライブハウスという小さな空間や野外フェスという無限のスペースが私たちの音楽体験を変化させてきた。コロナ禍を経て私たちはまた新たな音楽体験を獲得していくのだろうし、それが音楽そのものも変化させていくのだろうと思う。どう変わろうと私は音楽を愛し続け楽しみ続けたい。そしてそのことを書き続けていきたいと思っている。

(プロフィール)
今井智子
ライブで感じるエネルギーや感動を言葉にできたら、アーティストの思いをインタビューで伝えられたらと、主に邦楽ロック・アーティストたちを取材し、新聞・雑誌、WEBの音楽サイトなどに執筆中。

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