「Black Lives Matterの5曲」(小池宏和 選曲)

おうちで音楽を楽しもう | 2020.06.26

2020年6月26日 UPDATE

小池宏和 選曲
テーマ「Black Lives Matterの5曲」

 今年5月、ミネソタ州ミネアポリスでアフリカ系アメリカ人男性が警察官の手により死亡した事件を発端に、人種差別反対運動の輪が広がった。「黒人の命は重要だ」と敢えて人種を強調するこの運動は、アメリカの歴史的・社会的な抑圧と現在の教育構造、銃社会の脅威などが複雑に入り組んだ、非常に根深い問題であることを示している。BLM運動と呼ばれる前から、アフリカ系アメリカ人に対する差別をテーマにした音楽作品は無数に存在するけれども、ここではその一部を選び、紹介したい。

N.W.A.「Fuk Da Police」

 主張ある黒人たち(Niggaz Wit Attitudes)の名を持つカリフォルニア州コンプトンのヒップホップ・グループが、1988年のデビューアルバム『Straight Outta Compton』に収録した衝撃的なナンバー。西海岸の街に生きるアフリカ系の若者たちが抱いていた、警察に対する不信感と敵対心が如実に現れている。ドクター・ドレーを裁判長に、検察官役のアイス・キューブとMCレン、イージー・Eが怒りを込めながらもそれぞれの性格を反映したマイクリレーで証言する作風は実にユニークだ。しかしこの数年後、コンプトンに隣接したロサンゼルスで、アフリカ系青年に過剰な暴行を振るった警察官の無罪判決を引き金に暴動が起こったことは、あまりに皮肉であった。

Janelle Mon?e f. Wondaland Records「Hell You Talmbout」

https://soundcloud.com/wondalandarts/hell-you-talmbout

 先鋭的かつクロスオーバーな音楽性で活躍するジャネール・モネイが、オウンレーベル=Wondaland Recordsの仲間たちとともに制作・公開したナンバー。そもそもは、モータウン風のポップな同名曲がジャネールの2ndアルバム『The Electric Lady』デラックス盤にボーナストラックとして収録されていたが、この2015年バージョンではプリミティブなビートに乗せて、警察官の暴力や発砲、白人市民のリンチなどにより命を落としたアフリカ系アメリカ人18名(当時7歳の少女を含む)の名前を次々に呼ぶという、ゴスペルクワイア風の痛烈なプロテストソングへと生まれ変わっている。

Vic Mensa「16 Shots」

 イリノイ州シカゴ出身のラッパー、ヴィック・メンサは、同郷のチャンス・ザ・ラッパーらとともに、アメリカの人種差別問題に取り組んでいることでも知られる。2016年作のEP「There’s Alot Going On」に収録された「16 Shots」は、17歳の男子が警察官に16発の銃弾を撃たれ死亡したという、2014年のシカゴで起きた事件を題材にした楽曲だ。ミュージックビデオは、ヴィック自身が警察官に包囲・暴行された挙句、銃撃を受けるというドラマになっているが、映像の端々に表示される録画日時は実際の事件と同じである。これは、事件の瞬間を録画したビデオ(警察官の証言と食い違う内容だった)が、市と警察によって長らく非公開にされてきた問題についての描写となっている。

Joey Bada$$「Land of the Free」

 上質なヒップホップ・トラックをテクニカルなラップで乗りこなし、10代の頃からミックステープで人気を博してきたニューヨーク出身のラッパー、ジョーイ・バッドアス。2017年にリリースされた彼の2ndアルバム『ALL-AMERIKKKAN BADA$$』から先行配信リリースされた「Land of the Free」は、母国における人種差別の暗い歴史を見つめながらも、次の世代のためにポジティブな意識改革を促すナンバーだ。《手札はフルハウス。AMERIKKKAにはKが3つとAが2つある》というポーカーになぞらえた歌詞は、つまり「KKK団のような人種差別主義者」と「アフリカ系アメリカ人(African-American)」が共存する社会に向き合い続ける、という意志の表れだろう。

Beyonc?「BLACK PARADE」

 つい先頃の2020年6月19日、アメリカ奴隷解放記念日(ジューンティーンス)に合わせて、新曲「BLACK PARADE」をサプライズリリースしたのはビヨンセ。彼女はこれまでにも数々の優れたプロテストソングを発表してきたが、今回は街頭プロテストを祝祭感溢れるパレードへと変えてみせるような、「ブラック・イズ・ビューティフル」を地で行く陽性アンセムを生み出してみせた。自身のルーツである米南部に思いを馳せ、カーティス・メイフィールドの歌やマルコム・エックス、キング牧師といったオピニオンリーダーたちの志を継承している。作曲には、公私にわたるパートナーのジェイ・Zも参加した。

(プロフィール)
小池宏和
音楽ライター。1974年生。今回はアメリカのヒップホップやR&Bを紹介しましたが、地域や時代を問わずいろいろ聴く雑食リスナーです。好きなバンドはソウル・フラワー・ユニオン。

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