「どんなに不条理な世界でも。心に火を灯してくれる5曲」(杉江優花 選曲)

おうちで音楽を楽しもう | 2020.07.03

2020年7月3日 UPDATE

杉江優花 選曲
テーマ「どんなに不条理な世界でも。心に火を灯してくれる5曲」

 加速する格差と分断、腐敗した政治、相次ぐ大規模自然災害、そしてまさかのコロナ禍。バブル期の栄華を知らない、いわゆる“ロスジェネ世代”の私にとって、ただでさえ灰色がかって見えていた世界は、今や光を失ういっぽうだ。それでも人生は続き、愛すべき音楽たちは時に救いをもたらしてくれる。今回選んだのは、青春時代から現在に至るまで、人生に寄り添ってくれている大切なナンバー。切なくて優しくて温かなメロディと言葉たちは、時を経ても変わらず、私の心に火を灯してくれている。

THE YELLOW MONKEY「SO YOUNG」

 THE YELLOW MONKEYといえば「JAM」、というイメージを持つ人も多いだろうが、個人的にはどうしても「SO YOUNG」である。活動初期はなかなかに下世話でとにかくギラついていて、言葉を選ばずに言うなら“キワモノ”扱いされながらも、やがて艶やかでいてポップなメロディと分厚いロックサウンドが正当に評価され、日本を代表するロックバンドへ。そんな、バンドにとっての燃えるような青春時代の終わりに発表されたこの曲を覆うのは、青春という刹那の持つ苦しさ、切なさ、儚さ。<今を生きるのは過去があったから わめきちらして未来を探した>というもがき、<あの日僕らが信じたもの それはまぼろしじゃない>という望みは、活動休止から解散、そして再結成へと至ったバンドの歩み、聴き手それぞれの人生ドラマにも重なるのではないだろうか。ちなみに、ライブアルバム『SO ALIVE』には、113本にも及ぶ「PUNCH DRUNKARD TOUR」で披露された「SO YOUNG」も収録されており、ラストの<SO YOUNG!!>という万感込めた叫びにも心を動かされる。

宇多田ヒカル「Be My Last」

 <母さんどうして 育てたものまで 自分で壊さなきゃならない日がくるの?>という歌い出しは、あまりに衝撃的。三島由紀夫原作の長編小説「豊饒の海」の一篇を原作とする映画『春の雪』の主題歌として書き下ろされたものである、ということを差し引いても、それまでの彼女の楽曲に比べて少ない言葉で綴られた歌詞は、とても生々しく、激しさを内包している。彼女自身の波乱に満ちた人生が、そうさせているのだろうか。気付けば、そこに聴き手である自分の傷や痛みも重ねてしまう。<間違った恋をしたけど 間違いではなかった><いつか結ばれるより 今夜一時間会いたい>というフレーズはじめ、歌詞の解釈はきっと人それぞれ。白か黒かで簡単に割り切ることができない苦しみに直面したとき、私はこの曲に救いを求めたくなる。<Be my last>という祈りのようなリフレインは、あまりにも哀しく美しい。

Oasis「Don’t Look Back In Anger」

 マンチェスターでギャラガー兄弟を中心に結成し、2009年に解散したOasisの世界的大ヒットナンバー。英語圏でない国であってもライブで大合唱が生まれたというのは、The Beatles直系の美しいメロディ、温かな包容力のなせる技であり、海外や日本でも多くのアーティストにカバーされ、20年以上に渡り愛され続けている。私にとっては、心がささくれ立ったときに聴きたくなる曲のひとつだ。2017年5月、Oasisの結成地であるイギリスのマンチェスターで自爆テロ事件が起こった際には、追悼集会で「Don’t Look Back In Anger」の合唱が自然発生し、痛ましい事件のアンセムともなった。<Don’t Look Back In Anger>というタイトルや歌詞が示すのは、“うまくいかないことがあっても怒りにまかせてはいけない”ということ。そこに、“人種や国籍、文化、宗教の違いを越えてひとつになれる”という希望を見出すこともできる。

ELLEGARDEN「高架線」

 キャッチーでエモいバンドの自分的最高峰が、ELLEGARDEN。「ジターバグ」「Missing」「風の日」「スターフィッシュ」「虹」「金星」といったメロディアスな日本語詞の曲はどれも神がかっているが、中でも泣かされるのが、5thアルバム『ELEVEN FIRE CRACKERS』に収録されている「高架線」だ。愁い色を帯びたギターアルペジオがそっと寄り添う歌い出しから、一瞬で世界を塗り替えてしまうほどの圧倒感を持つサビへの流れ。2分半ほどの曲にして、なんてドラマティックでグっとくる曲なのだろう。フリーランスになる前、当時務めていた会社でも私生活でも四苦八苦する毎日の中で、<思うよりあなたは ずっと強いからね>というフレーズに何度励ましてもらったことか。活動休止から10年の時を経て2018年に復活を果たした彼らは、変わらずに私の、いや、私たちのロックヒーローだ。

「民衆の歌」

 ミュージカル『レ・ミゼラブル』で、自由を勝ち取るために命を賭けて戦う人々が高らかに歌い上げるのが「民衆の歌」。2012年に公開された映画版の「民衆の歌」も魂を揺さぶるもので、ハンカチでは事足りないくらいに涙を流した記憶がある。そして、2020年。新型コロナウィルス感染拡大の影響が深刻化し、多くのエンターテインメントが公演中止を余儀なくされる中、“Shows at Homeプロジェクト”の第1弾として4月26日の夜にYouTubeで公開されたのが、ミュージカル俳優や歌手ら36人が「民衆の歌」をリレー歌唱する動画だ。離れ離れであっても、想いはひとつ。彼らの団結と圧倒的な歌の力は、胸を熱くし、どんな困難にもくじけまいと奮い立たせてくれた。私たちの日々を、人生を豊かに彩ってくれる、数々の素晴らしいエンターテインメント。音楽にしろ演劇にしろ、感動を呼ぶステージを心から楽しめる日々が再び訪れるよう、心から願う。

(プロフィール)
杉江優花<すぎえゆか>
愛すべき存在は、ラグドールとスコティッシュフォールドの猫さん2匹と娘(中学生になってもかわいいものです)。好きな映画は、『シザーハンズ』と『第9地区』。お仕事面では、バンドやボーカルグループ、ソロアーティスト、アイドル、歌い手、ボカロP、俳優、声優などなど、多方面でお世話になっております。感謝。

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