「子どもから大人まで! この時代を強く生き抜くための5曲」(高橋美穂 選曲)
おうちで音楽を楽しもう | 2020.07.10
2020年7月10日 UPDATE
高橋美穂 選曲
テーマ「子どもから大人まで! この時代を強く生き抜くための5曲」
東日本大震災のときもそうだったけれど、コロナ禍において“本当に必要なもの”がはっきりと見えてきた人は多いのではないだろうか。私自身もそうなので、この企画においても、純粋に、最近よく聴いていた楽曲から選ばせてもらった。よって少しまとまりがなく、テーマも大きいのだけれど、具体的には「子育てしている人」「地元から遠く離れて暮らしている人」「そこそこ年齢を重ねた大人」に……いや、やっぱり、それだけではなく、「今こそ音楽を必要としているすべての人」に届けたい5曲です。
クリープハイプ「およそさん」
この曲には助けられた、親子で。ひとり親であるがゆえに保育園が休園中の間はそこそこ大変だった私。そこで頼ったのがアニメ。特に、NHK Eテレで放送中の『あはれ!名作くん』には親子でハマった。親はその間は仕事しろよと我ながらツッコミたくはなるが、濃いキャラクターと“名作”ネタは、大人も楽しめるのだ(言い訳)。そんな我が家の盛り上がりに拍車をかけたのが、シーズン5の主題歌である「およそさん」。あっという間に終わる高速チューンに親子で楽しくきりきり舞いしているのだが、実は歌詞も秀逸だ。<どうしたの 大丈夫>と聞かれても、完っ全に大丈夫!と答えるのは難しい。だいたいの人の本音が<およそ大丈夫>なんじゃないかな。人間の曖昧さや迷える日々をユーモラスに昇華してくれる楽曲。ちなみに、MVやジャケットもアニメとコラボしていて、好きな人間にはたまらない!
星野 源「ドラえもん」
続いてもアニメ関連の選曲。休園中の我が子は『ドラえもん』にもハマって、テレビ朝日系列で放送中のTVアニメや、過去の映画作品を観ていた。私も横から眺めつつ、こういう状況下で『ドラえもん』が教えてくれるものは教科書よりも大きいかもしれないなあと改めて感じていたのだけれど、現在のアニメ主題歌である星野 源の「ドラえもん」も、よりいっそう心に響いてくるようになった。特に<何者でもなくても 世界を救おう>の一節は、子どもがステイホームを理解するキーワードになり得たのではないだろうか。「うちで踊ろう」でも明らかなように、あらゆる状況において、あらゆる人の心身を動かす音楽を生み出し続ける星野 源。その真骨頂は「ドラえもん」にあるのではないか、そう個人的には思っている。
椎名林檎「人生は夢だらけ」
様々な情報が行き交い、何を信じればいいのかわからない。そんな状況下では、しっかりと“自分自身”を持ち、情報を精査して取り入れることが大切だ――改めてそう思ったここ数ヵ月で、忘れていた宝の山から輝いて聴こえてきたのが「人生は夢だらけ」。<私の人生 誰の物でもない 奪われるものか 私は自由 この人生は夢だらけ>と、自らの手で夢を掴んでいく歌詞が、ミュージカルのようにドラマティックに歌われる。<酸いも甘いも><鱈腹味わい>ながら、<誰の物でもない><私の人生>を、踊るように生きていこう。そう笑顔で決意できる楽曲だ。椎名林檎の楽曲では、「歌舞伎町の女王」や「主演の女」などにも、この時期にハッとさせられるフレーズが潜んでいた。個人的には、彼女は私と同い年。同世代だからこそ、長い距離を経て道が交差するように気づけたこともあったのだと思う。ステイホームを機に同世代のアーティストを聴き直すことも、おすすめしたい。
BUMP OF CHICKEN「ray」
同世代のバンドで久しぶりに聴いてグッときたところでいうと、BUMP OF CHICKENも挙げられる。昨年リリースの『aurora arc』あたりから彼らのすごみを再確認しているなかで、特にこの時期にうわぁ……と思ったのが「ray」だった。家に閉じこもっていたからか、状況が変化したからか、よく過去のことを思い出し、やるせなくなっていたのだが、<寂しくなんかなかったよ ちゃんと寂しくなれたから>というフレーズが耳に飛び込んできて、これでいいんだと前を向けたのだ。遠い日の出会いや別れも、十人十色の多様性も――引っかかっていたいろいろなことを、この楽曲は人懐っこくも文学的な表現で包み込み<生きるのは最高だ>と心弾む曲調で歌ってくれた。何年もかけて味わえる深さがあるのに、様々な立場、あらゆる思いに響くフレーズがちりばめられていて、間口が広いところも圧巻だ。
10-FEET「蜃気楼」
ここ数ヵ月、最も頭の中でぐるぐる回っていた楽曲。前向きな言葉で彩られているわけではない。むしろ逃れられない現実や隠しきれない弱音が描かれている。でも、だからこそ、こんな状況下で私を支えてくれる楽曲になっているのだと思う。今、抱えている“どうしようもなさ”を、心の奥の思い出や目の前の風景を重ね合わせられるフレーズから引き出し、優しいメロディで昇華してくれる。言いようもない感情が、言葉に、音楽になることで、まばゆい光となることを証明してくれる楽曲だと思う。ちなみにこの映像は、昨年5月に長崎市稲佐山で行われたバンド史上最大級のワンマンライブのもの。3人の熱演と大観衆のシンガロングが、とんでもなく胸を打つ。このように生命が躍動するライブを、また体感したい。
(プロフィール)
高橋美穂
ロッキング・オンで編集やフェスに携わったのち、独立。現在は音楽のみならず、幅広い分野で編集や執筆を行う。この時期アルバムとして愛聴したのはハイスタのライブ盤。そして子どもがいる身としては、配信ライブやZoom取材は今後も続いてほしいと願っています。